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星は風にそよぐ(第6回)

5月20日

 今日は、家族総出でマルシェへ行きました。毎週日曜日には、市庁舎前の広場に市が立ちます。プラタナスの木に囲まれた広場には、所狭しとタープテントが並びます。街中のお店が出店しているんでしょうか。ここで買えないものはないくらい、何でも揃っています。
 マルシェって、活気にあふれていて、ウキウキしますね。人ばかりでなく、物の発するエネルギーもすごい。そして、5月の陽光が、なんて似合うんでしょう。青と白のストライプや赤、麻色、白などカラフルなキャノピーに新緑が映えて、あまりのまぶしさに胸がどきどきしてしまいました。輝く若葉のきみどり色! 世の中にこんなに美しい色があるでしょうか。私は色の中で、きみどりが一番好きです、現時点では。ベリーヒルズに向かう船のダイニングで夕日を見たときには、茜色が一番好きだと思ったんですけど。ああ、5月っていいなあ。飛び交うツバメたちも「幸せだねー」ってしきりに鳴き交わしていました。
 今日のランチは、クロード先生からリクエストをいただき、みんなにステファニー先生直伝の養生料理を食べてもらう約束でしたので、私はいろいろ見たい気持ちを抑えて、食材探しに集中することにしました。
 ベルナールは、古書店のテントの前で立ち止まったまま、私たちが買い物を終えるまで、そこを離れませんでした。
 ミシェルのうちのパン屋さんも出店していて、ミシェルがお手伝いをしていました。日曜日の朝からえらいなあ、って思いました。小学生の頃の私は、本当に朝寝坊だったから。モニカと相談して、今日のランチ用に全粒粉の大きなカンパーニュを2つ、夜と明日の朝のためにバゲットを2本買いました。それから、お隣に出店していたチーズショップで、ブリーチーズとヤギのチーズを買いました。
 マルシェでひときわ美しいのが、野菜と果物を売るお店、それに、花を売るお店です。精霊術クラスにいる1年生、レイラのうちのお花屋さんと6年生、ジョーのうちのアンティークショップも出店していて、クロード先生が、お店番をしていたふたりのお母さんに私を紹介してくれました。
 アンティークショップは本当に素敵でした。繊細な絵の施された食器類、銀のトレーやカトラリー、私はこういうものが装飾品としてしか用を成さない世界にいたのか、と思うとなんだか信じられません。美しい食器を見ていると、その食器で食べたいお料理がどんどん頭に浮かんできます。
 ランチの食材としては、ビーツ、白インゲン豆、マッシュルームとエリンギ、それからナッツを買いました。先生とふたりきりだったときと違って6人分なので、それぞれかなりの量が必要です。どんどん増えていく荷物を、トミーとアナベルが持ってくれました。
 買い物が済んだら、古書店の前から動かなかったベルナールも合流して、コーヒースタンドでひと休み。私はアイスティーを飲みました。あんまり真剣に食材を選んでいたから、なんだかのぼせてしまって。でも、アイスティーを飲んで爽やかな風に吹かれていたら、買い物の疲れがすーっと引いていきました。
 今日のメニューは、白インゲン豆をたっぷり使った具だくさんスープ、免疫力を高めるきのこのアヒージョ、全粒粉のパンとヤギのチーズ、デザートはナッツとシナモンシュガー入りミルク粥にしました。具だくさんスープには、白インゲン豆の他、地下室にストックのたくさんあったじゃがいも、玉ねぎとマルシェで買ってきたビーツを入れました。先生、この献立、どうでしょうか。お豆やナッツ、全粒粉で、たんぱく質もきちんと摂れるように工夫しました。お料理の始めの儀式、火と水の精霊に「滋味豊かに」とお願いするのも忘れませんでしたよ。
 家族のみんなからは大好評をいただきました。みんなからのコメントを書いておきますね。自分で書くと、なんだか照れちゃいますけど。
モニカ「セシルのお料理がもっと食べたい。また是非お願いね」
アナベル「食後、お腹はしっかり満たされてるのに、なんだか身体は軽い気がする」
トミー「おいしい。それに、身体がポカポカする感じ」
ベルナール「定期的にこういう食事をして、身体を休ませてあげたいね」
クロード先生「ステファニーの味そのまま。懐かしくて涙が出そう」
 先生、私、すごくワクワクしています。お料理をみんなに食べてもらって、それをみんなが喜んでくれるって、こんなにうれしいことなんですね。

 今日のランチでの話題は、昨日行われた数学の大会でトミーが優勝したことでもちきりでした。トミーは神がかり的に計算が速いんですって。ベルナールとトミーとクロード先生は、大会で出題された問題について、なにやらとても難しい議論をしていましたが、私にはさっぱりわかりませんでした。こっちを見て肩をすくめているアナベルの表情から察するに、彼女もわかっていなかったに違いありません。モニカは終始ニコニコと3人の話を聞いていましたが、こちらも、キッチンに溢れている蔵書から察するに、絶対文系です。

5月21日

 今日はまた、2年生に「ポタージュの日」がめぐってきました。今日はじゃがいものポタージュを作りました。
 ミリエル先生は、クロード先生から昨日のランチの話を聞いて、「これからは調理のレッスンをセシルに担当してもらいましょう」と言ってくれました。責任重大です。でも、ようやく少しお役に立てると思うと、とってもやる気が湧いてきます。
 子どもたちは1年生の頃からポタージュ作りをしているので、教えなくてもみんな手際よくできてしまいます。ですから、私の出番はほとんどありませんでしたが、最初に担当するレッスンが難しいものじゃなくてよかったです。おかげで、プレッシャーに弱い私も、リラックスして楽しくできました。

 月曜日は午後の専門クラスがないので、私とミリエル先生は、明日からの精霊術クラスで、野外コンサートの準備をどのように進めていくかについて話し合いました。どのようなプログラムにするか、会場をどのように設営するか、開催する時間、ご招待の方法など、決めることはたくさんありました。学校で開くコンサートと違うのでいろいろ難しいことも出てきそうですが、
「ときどき野外コンサートを開いているビストロミュジークのふたりが相談に乗ってくれるわよ」
と、ミリエル先生はちょっとうれしそうです。
「設営に手間をかけるんだし、精霊たちを惹きつけるためにも、5曲はやりたいわね。新しい曲を2曲、あとはこれまで習った曲の中から子どもたちに2曲選んでもらいましょう。低学年1曲、高学年1曲、アンリとロランが1曲でどうかしら」
ミリエル先生がこう言いました。
 明日の精霊術クラスで曲選びをします。新しい曲は、ミリエル先生が明日までに選んできてくれるそうです。

5月22日

 自分の料理を誰かに食べてもらう喜びを知ってから、スリーシスターズのことが気になってしかたがありません。給食を作ってくれるベテラン調理師、スリーシスターズ。
 私って単純ですよね。「これ!」って思ったら、そのことで頭の中がいっぱいになってしまうんです。いてもたってもいられなくなって、すぐに動き出してしまう。ロータシアに行こう!って思ったときもそうでした。外国人の入国を認めていないロータシアに直談判する子なんて初めてだ、と大使館の人に言われました。
 今日は、スリーシスターズについて書きますね。一番年長なのがジュリアです。ジュリアのおうちは、学校の近くで野菜と果物のお店をしています。今、お店はジュリアの娘さんご夫婦が営んでいます。クロード先生と昔から知り合いだったジュリアは、クロード先生がこの学校を設立したとき、お店を娘さん夫婦にゆずり、学校の調理師として働き始めました。それから20年。
「お店を手伝っていれば何かと口出ししたくなって娘とけんかになるから、きっぱりと引退してよかった」
とジュリアは言っています。
「ま、よかったも何も、レディに書いてあったんだけどね」
とも。ジュリアは農家出身ではないけれど、野菜のことを熟知しているので、野菜作りがとても上手です。
 2人目は、5人の子どもたち全員が学校に上がったのを機に働き始めたジェシー。ジェシーもキャリアはもう15年だそうです。給食の献立は、栄養士の資格を持つジェシーが作っています。長年、家庭で子どもたちの胃袋を満足させる美味しい食事を提供し続けてきたジェシーの献立は、学校の子どもたちにも大人気です。
 そして、この学校の教育方針に賛同し、調理師学校を卒業してすぐにここで働き始めたエヴァ。一番若いエヴァも、もうここに来て12年になるそうです。給食で使う卵を産んでくれる鶏たちのお世話は、動物が大好きなエヴァの担当です。卵を産まなくなった鶏たちのお肉は、エヴァが魂を込めてお料理しているそうです。エヴァはお菓子作りも得意です。お誕生日の子には、給食のとき小さなお祝い菓子が贈られんですが、これを作っているのもエヴァです。
 先生、これから私は、この人たちにもっと注目していこうと思っています。学べることを学びたいです。

 昨日お話していた、野外コンサートの曲選びのことも書かなければいけませんね。ミリエル先生が選んだ新しい曲は「安かれわが心よ」と「彼方の光」の2曲でした。そして習った曲からは、高学年で「野ばら」、低学年で「きらきらぼし」が選ばれました。どれもみんな昔々の曲ですが、ミリエル先生は「時代を超えて歌い継がれてきた神に選ばれし曲たち」だと言っています。振り返りのときに、私が「ミリエル先生がキリスト教の曲を選んだのが意外でした」と言うと、ミリエル先生はこう言いました。
「セシル、ステファニー先生に教わったでしょう? レディを書いているのが、神さまなんだって。ロータスの神さまもキリスト教の神さまも同じなのよ。だから、キリスト教の讃美歌が賛美しているのは、私たちの神さまでもあるの。イスラム教だって仏教だって同じ。呼び名が違うだけでね。この宇宙の物語を書いているのが神さまなんだから」
 先生、だからなんですね。先生が寝る前によく讃美歌を聴いていたのは。私は、芸術作品として鑑賞しているのだと思い込んでいました。先生は、神さまを賛美していたんですね。
 「彼方の光」という曲は、ソロの主旋律にコーラスが重なっていく曲で、先生がミアのために選んだ曲です。ミアには、レディに書かれていない夢があります。それは、歌手として舞台で歌うこと。ミリエル先生も子どもの頃、誰にも言わず胸にしまっておいた夢があったそうです。ダンサーとして舞台で踊ってみたいという夢でした。ミリエル先生は言いました。
「私は精霊術師であり先生である自分に心から満足しています。それでも、ミアの心に今ある純粋な願いを、なんとか叶えてあげたいの」
 これは、ミアだけを特別扱いしているわけではないんです。ミリエル先生が担当している2年生と精霊術クラスの子どもたちは、週の最初の授業で「心の願いノート」を提出します。先生は注意深くそれを読み、記憶して、誰かの願いを叶えられる機会はないかと、いつも気をつけているんです。
 私は、ミリエル先生を心から尊敬します。
 ピアノ伴奏はミュジーク兄弟がしてくれます。そして「彼方の光」では、ピアノ伴奏に加えてフルート奏者になる6年生のクレアも演奏してくれることになりました。

5月23日

 今日の社会の授業では、ベリーヒルズの特産品について勉強しました。ベリーヒルズはイチゴの栽培と酪農がさかんです。イチゴは今まさに旬の時期。ベリーヒルズの酪農では、牛たちが牛舎に入るのは夜と雨の日だけで、普段は広々とした丘に放牧されています。ゆったりと陽の光を浴びて暮らす牛たちのミルクはとても味が良く、その上質なミルクで作られるチーズもまた最高においしいのです。
 地域の特産品を学ぶという今日の授業を受けて、明日の午前中はシンディのうちのイチゴ農園を見学します。この学校は本当に課外授業が多いです。イシアスでは、比較的「現実世界」に重きを置いている幼稚園や小学校といえども、四角い箱のような教室の中だけで授業が行われています。

 今日の給食は、オイルサーディンのパスタと野菜たっぷりで色どりも美しいミモザサラダでした。ベリーヒルズは、海が近いからシーフードもおいしいし、果物も野菜も豊富に採れるし、乳製品も上質だし、町も風景も美しいし、なんていいところなんでしょう。子どもたちと一緒にこの町のことを勉強したら、ますますベリーヒルズが大好きになりました。

 野外コンサートは6月第3週の土曜日に開くことになりました。あと1か月ほどなので、早速練習に入りましたよ。
 「野ばら」、「きらきらぼし」については毎日1回ずつ歌います。今日は、新しく練習する曲「安かれわが心よ」と「彼方の光」をみんなで聴いて、詞を読みました。「安かれわが心よ」はとても有名な讃美歌なので、高学年の子はみんな知っていました。

5月24日

 今日は、イチゴ農園の見学でした。晴れてよかったです。ミリエル先生が願って、晴れないわけないんですけどね。もちろん、私も願いましたし。
 シンディのうちの農園は、ベリーヒルズのメインストリートをはさんで、ちょうどコンサートを開く森の反対側にあります。そのエリアは何軒ものイチゴ農家が集まるイチゴの産地です。
 農園の入り口で、シンディのご両親がお出迎えしてくれました。イチゴをいっぱい食べてビタミンCをたっぷり摂っているんでしょうね。おふたりともツヤツヤのお肌でした。でも、お父さんの目元に、たくさん笑いじわがあったのが、とっても可愛かったです。
 まず始めに、園内のカフェテリアで、シンディのお父さんがイチゴの育て方やイチゴ農家がどんな毎日を過ごすのかをお話してくれました。このカフェテリアでは、イチゴのデザートやフレーバーティー、シェイクなどを楽しめるということです。
 お話を聞いたあと、イチゴの摘み取り体験をしました。5月から6月の旬の時期には、イチゴの摘み取りができて、摘んだイチゴは量り売りしてもらえます。なんと、味見は、し放題です。摘みながら、ポイポイ口に入れちゃっていいんです! ロータシアのイチゴ農園は、みんなそうなんですってね。昨日の放課後、フォレスト先生に
「明日はイチゴ農家に見学に行くんですよ」
と言ったら、とってもうらやましそうにしていた理由がわかりました。子どもたちも大喜びでした。子どもたちが摘んだ分は、それぞれがお土産としておうちに持って帰りました。私も持って帰って、今晩のデザートにみんなで食べました。
 カフェテリアの一角にはお土産コーナーがあって、ジャムやコーディアルシロップ、チョコレートでコーティングされたドライイチゴのお菓子などが売られていました。大粒のいちごを贅沢に載せたタルトがショーケースに並んでいて、本当に美しかったです。見ているだけで、カスタードクリームとイチゴのハーモニーが口の中に広がっていくような気がしました。リリーアイランドでも、先生とよく野イチゴのタルトを作りましたね。

 今日の精霊術クラスでは、「安かれわが心よ」の詞を読んで受けた印象を絵に描きました。子どもたちと一緒に私も描きました。
 私は絵を描くのが得意ではありませんが、上手く描こうとするのではなく、詞を読んで心に浮かんだ風景をただただそのまま描いたら、オーロラの絵になりました。星空に、光るカーテンがかかっているような絵です。抽象的な歌詞なので、色だけで表現している子が多かったようでしたが、画面いっぱいに光に包まれた神さまを描いた子も何人かいましたし、神さまに抱かれた自分や神さまと並んで座っている自分を描いた子もいました。

 先生、明日はクリスが来る日です!



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