【あなたに会えて幸せ】/第5章第24話「凍る空気とふんわりパーカー」
トモキは、新ジャガで、
【マッシュポテトのレモン風味】
も作ってくれた。
これもサッパリして、つわりの妊婦さんたちにオススメだなぁ!
妊娠20週目。
お腹が目立ってきた。
少し前に買ったマタニティドレス。
勿体ないけど、下半分は切った。
だって足無いし、車椅子に裾を巻き込んじゃうし。
裾にデニム生地をぐるーっと縫い付けた。
ウサギのアップリケも付けて、これが私のマタニティドレス!
トモキも製作を手伝ってくれた。
製作過程も含め、動画配信した。
動画の最後はいつもの、
「では、視聴者の皆さま、ご一緒に。
(手話)
あなたに~(手のひらを上に向けて、あなたに差し出す)
あえて~ (両手の人差し指を立てて、軽く曲げ、合わせる)
しあわせ!(アゴヒゲを2回撫でる)
バイバ~イ」
翌日。
「梅雨は、うっとおしいね。
洗濯物が乾かない、、、」
「だよね」
「あ、そうだ。東京に、洗濯物が良く乾く自治体があるの、知ってる?」
「え? こんな梅雨でも」
「そそ。梅雨でも」
「自治体まるごとなんだよね?
巨大な布団乾燥機が、街のあちこちに設置されているとか?」
「随分、お金持ちの自治体だね。
正解は、荒川区」
「わかった! あら! 乾く!」
つわりで苦しむ私に付き合ってくれるトモキ。
ありがとう。
梅雨明けの7月、近くの保健センターで行われる「両親学級」に参加した。
独り暮らしの頃、誰にも会いたくなかった。
トモキと【ローアングル・デート】の動画配信を始めた頃からかな?
私は、随分変わった。
トモキという【安全基地】の偉大さを改めて感じた。
お腹の大きな妊婦さんとその夫たちが並ぶ会場へ、私とトモキは二台の車椅子で、ガタゴトと音を立てて入っていった。
一瞬で、教室の空気が凍りつくのが分かった。
後ろの席から、小さな、でも確実に私の耳に届くヒソヒソ話が聞こえてくる。
「なあに、あのふたり……。あの体で、本当に子どもを産む気かしら?」
「誰が育てるのよ、まさか税金頼み?」
産婦人科で経験済みの反応。
そんな中、
「あ、やっぱりそうだ。ミクさんトモキさん、
いつも動画観てますよ。
私、アカウント名は【ラベンダー】って言うんです。
いつも温かい動画をありがとうございます」
「わー、ラベンダーさん!
いつもSuper thanksありがとうございます!」
「今日は、おふたりで参加?
育児が楽しくなりますね。
ウサギのアップリケが可愛い~
動画で見せてくれたウサギですよね。
本物を見れて嬉しいです」
そこに、またヒソヒソ話が聞こえてくる。
「なあに、あのふたり。
YouTuber だって。憎らしい」
私は、YouTuber になって、
初めて【恐怖】を感じた。
「トモキ、ゴメン。具合悪くなってきた。
ロビーで休むね。治ったら戻って来る」
言い残して、私は会場を去った。
すぐにトモキが追ってきた。
「保健師さんには、言った。
大丈夫かい?」
返事をせず、私は会場脇のトイレに入り、
手洗い場で思いっきりリバース!
お腹が邪魔で、シンクに近寄れなかった。
可愛いウサギのアップリケが汚れてしまった。
トモキ、助けて!
怖いよ、人が怖いよ!
鏡を見たら、酷い顔。
涙ボロボロ、口の周りは汚れている。
蛇口に届かないから、車椅子を横付けに直した。
水を流し、顔を洗い、マタニティもウサギも拭いた。
汚れたマタニティドレスじゃ、会場に戻れないなぁ、、、。
そこに、ラベンダーさんが現れた。
「トモキさんから聞いたわ。
ミクさんがトイレから出て来ないって」
「あ、ラベンダーさん。
両親学級、抜けて来て大丈夫ですか?」
「私、2人目だから。復習のつもりで来たの。
大丈夫よ。
それより、マタニティドレスが、、、」
ラベンダーさんが、丁寧に拭いてくれた。
「届かないから、周りに飛び散って、、、」
「メンズの3Lのパーカーでも買って来ましょうか?
近くに量販店あるし」
「でも、それじゃあんまり、、、」
さっさと出て行ったラベンダーさん。
わずか15分で戻って来てくれた。
量販店の紙袋を持っている。
袋からパーカーを取り出すラベンダーさん。
「ドナルドダックのパーカー。
可愛いでしょ? トモキさんの普段着にもちょうど良いかも」
「いくらでした? お支払いします」
「いいですよ。私からのプレゼント」
笑って言うラベンダーさん。
「あの踏切事故のニュースを見たとき、私、血の気が引いたんです。
動画、いつも楽しみだったから、、、。
でも、トモキさんの意識が戻って、お二人がまた前を向いて歩き始めた姿を画面で見たとき、嬉しくてボロ泣きしちゃって。
本当に、本当によかった……!」
ラベンダーさんが自分のことのように涙を流してくれる。
「チャンネル登録者5万人の YouTuber ミクさん。
また、動画配信してね。
着替え、手伝います」
そう言って、着替えさせてくれたラベンダーさん。
「着替え完了! 良く似合ってますよ」
言いながら、私の肩に手を。
その手に自分の手を重ね、私も泣いてしまった。
「ミクさん、大丈夫ですか?
両親学級、終わったから、見に来ました」
両親学級講師の保健師さんだった。
「ありがとうございます。
こんなに酷いの、初めてで、、、」
「来月もありますから、体調良かったら参加してください」
「ありがとうございます」
私は、また泣いてしまった。
今日、こんなに優しい人に出会えるなんて。
ラベンダーさん、保健師さん、ありがとうございます。
汚れたウサギ・マタニティを軽く水洗い。
ビニール袋に入れて、車椅子背面に吊るした。
トイレを出たら、トモキが待っていた。
「両親学級、終わっちゃったけど、しっかり覚えたよ。
あれ? ドナルド可愛いね。さ、帰ろう」
第25話に続く
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