見出し画像

【あなたに会えて幸せ】/第2章第9話「ミクの苦悩と夜更けのビジネス」


「さっきオレンジジュースだったから、今度は違うものにする?」
「ありがと。ジャスミン茶がいい」

You Tube で少し潤ったからと、自惚れてはいけないと思う。
トモキは、ホテルに入る前に、飲み物を買った。
既に、夜。
フロントで、蒸しタオルをもらった。

部屋に入って、ベッドにこしかけた。
ジャスミン茶をひと口飲むと、私は服を脱ぎ始めた。

「え? どうして?」
「しようよ。抱いて欲しいの」
「ゴメン、今そういう気分じゃないよ」
「そか、、、やっぱり訳を話さないとね」

私は、脱ぎかけた服を元に戻した。

「無理に話さないで大丈夫」

言いながら、抱き寄せてくれるトモキ。
彼の優しさに、涙が溢れた。
こんなに優しい人が本当にいるんだなぁ。

長い時間が過ぎた気がする。
私は、ポツリポツリ語り始めた。

「あのね、小学生の授業で、《家なき子》のお話を読んだの。先生が『今日は《家なき子》のお話です』です、って言った途端、男子が、
 『じゃ、ミクは《足無き子》だ! アハハ』
 そしたら、男子みんなで《足無き子》の大合唱、、、」
「、、、」
「先生がすぐに止めたけど、その日から私のあだ名は《足無き子》。卒業まで言われた」
「それで、YouTube のチャンネル名が、、、」
「ウン」

そこまで話すと、トモキの胸に顔を押し付けて、
ウー! と声を押し殺して泣いた。
あの頃の悔しさが、、、。

「養護学校を卒業したら、誰とも会わなくてよくなったから、独り暮らしを始めたの。
 もちろん、両親は猛反対。
 《足が無いお前に独り暮らしは無理だ》
 心配してる、と言えば聞こえはいいけど、
 やらないうちから、《お前には無理だ》なんて、決め付けないで欲しいわ」
「そうだね。僕も反対された」
「それでね。《今日から一週間、家事炊事全部やる! だから、独り暮らしさせて!》
 と、宣言したの。
 思ったより、大変だったけど、一週間やり遂げたら、認めてくれた」
「頑張ったね」
「ありがと、嬉しいわ」

私は、明るい表情に戻った。
ジャスミン茶を飲んだ。

「でも、ラブホの前で言われた言葉は、きつかったなぁ、、、。
 《足無き子》って言われてた頃と同じ。
 足があると、そんなに偉いのか?
 足が無いと、こんなに見下されるのか?」

そこまで言うと、再びトモキの胸に顔を押し付けて、
ウー! と泣いた。

あとできいたら、トモキもそうだったらしい。
事故に遭い、車椅子になったら、進路指導がガラリと変わった。
まだまだ元気なのに、未来が無いような口ぶり。
そんな人たちと、一緒にいたら、トモキは可能性を閉ざされてしまう。

「この前、このホテルで過ごした次の日、
 お母さんにLINEで、《彼氏、できた》
 って喜びを伝えたら、、、
 伝えたら、、、」

今度は、顔を上げたまま、ポロポロ泣いた。

「いきなり《別れなさい!》って。
 結婚したいだなんてまだ言ってないのに」

泣きながら途切れがちに話す。

「その日の夜、お父さんからLINEが来て。
 《どんな男だ?》って。
 だから、正直に話したの。そしたら、
 《車椅子の男に何ができる!
  お前だって足が動かないのに、
  お互い介護し合う生活でもするつもりか》  
 と」

涙を拭って、怖い顔になった。

「《介護じゃないわ!
 そんなこと言わないで!
  介護じゃなく、助け合いよ!》
  って、私、スマホの画面に向かって叫んじゃった」

「《ふたりで、YouTuberになって、収入が増えた》って返したら、
 《そんな水商売じゃダメだ。ちょっと人気が出たからって、のぼせるな》って」
「、、、」
「親なのに、応援してくれないの。
 否定ばっかし!」
「僕は、応援するよ。僕たちのYouTubeチャンネルだもの」
「ありがと」
「だからこそ、ミクのお父さんが言うことがわかる」
「えっ?」

私は驚いて、トモキを見つめる。

「お父さんが言う通り、
 《そんな水商売じゃダメだ。ちょっと人気が出たからって、のぼせるな》って思う。
 何か安定収入を模索したい。
 もし、病気やケガで、動画配信ができなくなったら、再生数や新規登録者は、減るだろう。
 収入も減る。
 メンバーシップとかグッズ販売とか、
 並行して模索したいな」

私は驚いて、目をパチパチ!

「トモキは、やっぱり凄いな!
 いつも先を考えてる。
 参りました」
「いやいや。独り暮らし5年間に色々手を出して上手くいかなかったから。ははは、、、」

私は、しばらくうつむいていたが、顔を上げて言った。

「ねぇ! トモキが作ったトートバッグ!
 これ、ビジネス・チャンスあるんじゃない?」
「えっ? でも、トートバッグだけじゃ、、、」
「バリエーションを増やせば?
 男性用、女性用、子ども用とか。
 そのうち、トートバッグ以外の商品を思い付くよ」

元気な私に戻った。
時刻は、23時だったが、私たちは明け方まで、グッズ販売の計画を話し合った。


第10話に続く



最初から読む




いいなと思ったら応援しよう!

もうひとつの《1リットルの涙》 よろしければ、サポートをお願いいたします。