【あなたに会えて幸せ】/第2章第6話「10000人と届かないキス」
車椅子カップルのデート動画が、
「リアルで新しい」
「二人の掛け合いが可愛い」
とYouTubeで大バズり。一気に収益化を達成。
季節は巡り、翌年の春。 チャンネル登録者10000人を達成した時、トモキにお願いした。
「ねぇ、トモキさん」
「ん?」
「10000人達成したし、たまには撮影抜きで山下公園に行きたいわ」
「そうだね、いつも撮影ばかりだったからね」「ありがとう❗」
半年も、撮影日帰り旅行して、同じ時間を過ごしてきたのに、
「ねぇ、トモキさん」
と、呼びかけた自分が、少し悔しかった。
週末は混雑するので、次の月曜日に山下公園に行った。
それまでも、お互いにお弁当持参で、撮影日帰り旅行をしていた。
グルメ・レポートをすることも多かったが、少ない収入でやりくりしなければならないので、お弁当とお茶は、いつも持参していた。
今日のお弁当作りは、今までにない楽しさだった。
オムレツにケチャップで【トモキ❤️】と描いた。
幼稚だが、無性に楽しかった。
視聴者ひとりひとりに、丁寧な返信をするトモキが大好き。
いつものように、元町・中華街駅を出て、山下公園に向かった。
【慣れ】というのは恐ろしい。
油断を産む。
通い慣れた道なのに、路面の凹凸に前輪がはまってしまった。
自力で脱出できない!
「はまっちゃった?
僕が、後ろから【ウィリー】にしてあげるから」
トモキが、私の車椅子の介助ハンドルを押して、【ウィリー】にしてくれた。
車輪を回したら、軽々と脱出できた🎵
ひとりで何でもできるつもりで生きてきたけれど、これからはトモキに甘えて良いのかも知れない。
山下公園に到着し、噴水の横を通り、氷川丸が良く見えるベンチに車椅子を付けた。
「はい、お弁当」
「ありがと。じゃあ、せーので開けようか」
トモキの合図で、私たちは自分のお弁当の蓋を同時に開けた。
中身を見た瞬間、私たちの口から全く同じ言葉が飛び出していた。
「何コレ〜? 素敵すぎる!」
――ハモってしまった。
トモキから受け取ったお弁当を開けたら、オムレツにケチャップで【ミク❤️】と描いてある。
ふたりとも同じことを考えてた。
私たちは、お弁当を食べ終わって、お茶を飲みながら、撮影旅行の思い出話を始めた。
いつしか、初めて会った日の話になった。
トモキに、静かに尋ねた。
「どうして『水時計』の手話歌を?」
「『水時計』の『あなたに会えて幸せ』のフレーズ、前から好きだった」
私は黙って、手話を見せた。
私は黙って、トモキさんの目を見つめながら手を動かした。
まずは手のひらを上に向けて、トモキさんへ差し出す。これが『あなたに』の手話。
次に、両手の人差し指を立てて軽く曲げ、そっと合わせる。
お互いが出会う様子を表す『会えて』の形。
最後に、自分のあごを2回優しく撫でた。
あごひげを撫でる仕草に由来する『幸せ』のサインだ。
――『あなたに会えて幸せ』。
トモキさんも愛おしそうな目で私を見つめ返し、まったく同じ手話を返してくれた。
「初めて会った時も、その手話を見せてくれたね。ありがとう。嬉しかったよ。
だけど、初対面でいきなり距離を縮めるのを遠慮してしまったんだ、、、」
私は、黙ったまま顔を上げ、静かに目を閉じた。
トモキは、顔を近づけて私の唇に自分の唇を。
、、、重ねて。お願い!、、、
ゴツン!
驚いて私は、目を開けた。
トモキは、私の車椅子のひじ掛けに額をぶつけてしまったらしい。
「ごめん。届かないんだ、、、」
「?」
「君の唇に届かないんだ、、、」
「トドカナイ、、、プッ!」
私は、吹き出した。
「プププ、あーはっはっは! 届かない、あーそうか! あーはっはっは! だよね」
トモキもツラレて笑った。
「だろ? あーはっはっは!」
お互いの車輪とひじ掛けが邪魔して、キスが届かないなんて!
私たちは、笑いが止まらなかった。
子どものように、笑い転げてしまった。
ようやく、笑いが静まってきたところで、
私は、言った。
「ははは、、じゃあ、どうしよう?
映画のようなさりげないキスは、私たちには無理ね。プッ! ふふふ」
「だろ? ははは」
「じゃあ、これなら?」
私は、トモキの肩に手を置いて、膝に飛び乗った。
足が無いからこそ、こんなことが軽々とできてしまう不思議。
勢い、トモキの唇に私の唇が!
というか、歯がぶつかってちょっと痛い。
せっかくの初キスが。
えーん!
「ゴメン、トモキ。痛かったよね?」
「あは、あは。痛かった、、、。
もう一度、ちゃんと」
そう言って、トモキは優しく唇を重ねてくれた。
私をしっかり抱きしめてくれた。
長い時間、そのままお互いの気持ちを確かめあった。
私が離れると、見つめ合って顎を2回撫でた。
第7話に続く
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