見出し画像

段ボールの地形が、月面になる──キャタピラロボにセンサーを載せて「見えないもの」を探す

西尾市内で開催されたイベントに、名古屋国際工科専門職大学の学生が出展しました。段ボールでつくった立体のフィールドマップの上で、キャタピラ式のロボットにセンサーを搭載し、目では分からないものを探すという実験です。
このロボットとマップは、もともと防災体験イベント「つくって!走らせて!レスキューロボ大作戦!」のためにつくったものです。今回はこれを、惑星探査のフィールドに見立てました。

会場に広げたフィールドマップとレスキューロボット


まず、このロボットとマップについて


キャタピラロボットの仕組み

走行部分に使っているのは、タミヤの「楽しい工作シリーズ No.108 タンク工作基本セット」のキャタピラです。ツインモーターギヤーボックスを低速仕様で組み立て、付属のモーターをスクーミーのTTモーターコネクターに載せ替えました。

ツインモーターギヤーボックスを低速仕様で組み立て、TTモーターへ換装

これをオレンジボードにつなぎます。操作側は、段ボール製のコントローラーに取り付けたフェーダーコネクター2個を、同じくオレンジボードに接続しました。入力がフェーダー2本、出力がモーター2個という構成です。

オレンジボードに、操作用フェーダー2本(IN)とTTモーター2個(OUT)を接続

左のフェーダーが左のキャタピラ、右のフェーダーが右のキャタピラに対応しています。両方を前に倒すと前進し、片方だけ倒すとその場で向きが変わります。戦車と同じ操作方法です。

フェーダーコネクター2個を取り付けた段ボール製コントローラー

「左のフェーダーを倒したら左のモーターを回す」という動きは、スクーミーブロックエディタでプログラムをつくって書き込んでいます。ブロックを並べるだけなので、仕組みがそのまま目に見えます。

ボードに書き込んでいるプログラム。左右のフェーダーで各モーターを個別に制御します


立体のフィールドマップ

ロボットが走るのは、平らな道ではありません。実際の地図をもとに、段ボールを等高線のように積み重ねて、山・谷・坂のある地形を立体で再現しています。段ボールでつくる、まちのデジタルツインです。

段ボールの積層で高低差を表現したコース

地図部分は、東京カートグラフィック株式会社 技術開発部企画室 主任技術者/地図地理エンタメプロデューサーの村松様にアドバイスをいただいて作成しました。

等高線に沿って積層した立体のフィールドマップ

防災イベントでは、青を海・川・浸水エリア、緑を高台・安全エリア、赤をがれきなどの危険エリアとして、色で危険を判別できるようにしていました。凸凹のある地形でも走行できるのは、キャタピラ式だからです。
準備の過程と当日の様子は、それぞれ別の記事にまとめています。
- 準備レポート:タミヤのタンクが"レスキューロボ"に大変身!
当日レポート:名古屋国際工科専門職大学と市邨高校の学生・生徒が先生役を務めました

探査車は、行けない場所を「測って」知る

ここからが今回の話です。
月や小惑星の探査では、小型のロボットが地表に降り、自分で移動しながら周囲を調べます。人が直接行けない場所なので、分かることはすべて、搭載したセンサーが測った値から推定するしかありません。地表を見ただけでは分からないことを、機械の観測から読み解いていく作業です。
小型の探査ロボットは、20年以上かけて段階的に進んできました。最初は「そもそも探査できるのか」を確かめる挑戦から始まり、やがて自分で移動できるようになり、近年は地表で自律的に行動して地球へ直接データを送るところまで到達しています。できることが一つずつ積み上がってきた分野です。
この構造を、体育館の床の上で再現できないかというのが、今回の出発点でした。

磁気センサーで、見えない場所を知らせる

フィールドの危険ゾーンに磁石を配置し、ロボットの前方に磁気センサーコネクターを取り付けました。ロボットがゾーンに入るとセンサーが反応し、LEDコネクターが点灯します。

磁石に反応してLEDが点灯した状態


別の地点でも反応を確認

見た目では周囲と区別のつかない場所を、センサーの反応によって知ることができます。子どもたちは光った場所を危険なエリアだと理解して、そこを避けるルートを選び直していました。目で見て判断するのではなく、測った値をもとに状況を把握するという体験です。

コントローラーを操作しながらロボットを進める


動画:磁気センサーが反応する瞬間

実際に走らせている様子です。マップ上を進み、磁石のあるゾーンに入るとLEDが点灯します。

センサーが反応するまでは、どこに何があるか分かりません。値の変化だけを手がかりに、子どもたちは少しずつ範囲を絞っていきます。人が行けない場所を機械の観測から知るという探査の手順を、そのまま体験できる教材になりました。

複数台で手分けして探す

1台のロボットが調べられるのは、その1台が通った経路です。フィールド全体を短時間で把握するには、小型のロボットを複数台投入し、手分けして探すという方法が有効になります。それぞれが別のエリアを担当すれば、限られた時間で広い範囲を調べられます。
高性能な1台に頼るのではなく、機能を絞った小型の機体を群れとして動かすという設計は、実際の探査ロボットの研究でも有力な方向として進められています。「この先は危険だ」「まだ行ける」「後は任せた」といった状況を機体どうしで伝え合いながら、全体として目的地に近づいていく形です。

複数台が同時に走行できる広さがあります

このマップは複数台の同時走行ができます。「どのエリアを誰が担当するか」を子どもたちが相談して決めるだけでも、探査計画を立てるという活動になります。役割を分けて全体をカバーするという考え方は、言葉で説明するより、実際に走らせたほうが早く伝わります。

集めたデータが、地図になる

次に試したいのが、各ロボットが取ったデータを一か所に集めるという仕組みです。
それぞれに加速度センサーコネクターを搭載すれば、走行中の傾きや振動を記録できます。1台ぶんの記録は、その経路の情報にすぎません。しかし複数台が別々のルートを走り、その記録を集約すれば、フィールド全体の起伏がデータとして立ち上がってきます。どこが急斜面か、どこが不安定な地面かを、実際に走った結果から地図の形にできます。
さらに、集めたデータを次の走行に反映させることもできます。危険と判定された区間を避けるルートを決める、まだ誰も通っていない場所を優先して調べる、といった判断です。1台が経験したことが、全体で共有される情報になります。
個々の機体が得た経験を持ち寄って集団としての判断につなげる「情報の集約と再構成」は、探査ロボットの研究で中心的なテーマになっています。1台1台の機能は単純でも、経験が共有されることで、群れ全体としては高度な判断ができるようになるという考え方です。
この流れは、そのまま情報の学習になります。センサーで値を取得し、複数の端末から集めて蓄積し、整理して可視化し、そこから何が言えるかを考えるという流れは、「情報Ⅰ」のデータの活用や、「情報Ⅱ」のデータサイエンスで扱う内容と重なります。

目的に合わせて、機能を入れ替える

オレンジボードは、コネクターを差し替えるだけで機能が変わります。磁気センサーで探すこともできますし、音センサーで音源に近づく、明るさセンサーで影の位置を調べるといった使い方もできます。同じ車体のまま、目的に応じて役割を変えられます。
探査ロボットの分野でも、現地の状況に応じて機能を組み替えるという方向性が検討されています。あらかじめ想定したことしかできない機体ではなく、必要になった働きを後から追加したり、うまくいかない部分を置き換えたりできる構造です。行ってみて初めて分かることがある以上、後から変えられることが強みになります。
子どもたちがコネクターを付け替えながら「今度は何を探そうか」と考える作業は、その考え方をそのまま小さくしたものです。

探した先に、拠点をつくる

探査は、調べて終わりではありません。月の地下には、溶岩が流れた跡にできた大きな空洞があると考えられていて、放射線や温度変化から守られるため、人が滞在する拠点の候補地として注目されています。探査ロボットがそこを調べ、安全だと分かった場所に資材を運び込み、区画ごとに拠点を組み立てていくという構想です。
前人未到の場所へ小型のロボットが群れで入っていき、探査から輸送、拠点の構築までを担います。人が行く前に、ロボットが場所を整えるという順序です。
この流れは、フィールドマップの上でも再現できます。センサーで安全なエリアを見つけ、そこまでのルートを決め、複数台で資材に見立てたブロックを運び、決められた場所に組み立てます。探す、運ぶ、つくるという一連の活動を、ひとつのマップの上でつなげられます。

教材として、ここまで扱える

このフィールドは、地形図から立体を復元してつくったものです。そこにセンサーを載せたロボットを走らせることで、宇宙教育として次のような学習に展開できます。
- 到達できる範囲を見積もる:等高線の間隔から斜面の急さを読み取り、ロボットがどこまで登れるかを予想してから、実際に走らせて確かめます
限られた観測から地図をつくる:全域を調べられない前提で、どこを優先するかを計画し、得られたデータから分布を推定します
通信の遅れを体験する:操作から反応までにあえて時間差を設けると、遠く離れた機体を動かす難しさが実感できます
役割を分担して探す:複数台をどう配置し、どのエリアを誰が担当するかを決めます
探した先を設計する:見つけた安全なエリアに何を運び、どう組み立てるかまで考えます

段ボールと市販のキット、コネクター数個という構成で、探査の基本的な手順をひととおり体験できます。特別な設備がなくても、教室の床があれば成立する教材です。
防災の教材としてつくったものですが、扱っている課題は「人が行けない場所を、測って知る」という点で共通しています。地上の災害現場でも、月の地表でも、状況を把握する手段はセンサーです。防災と宇宙探査を一つの教材でつなぐ形を、これから組み立てていきます。


いいなと思ったら応援しよう!