iDeCoは入らないと損?|年金実務から見た3つの勘違い
「iDeCo、入らないと損らしい」とよく聞きます。たしかに税の優遇は大きい制度です。ただ、いいところだけが先に広まっていて、「自分の場合は思ったほど効かなかった」「ここで損をした」という人も少なくありません。
私はアクチュアリー(年金数理の専門家)の準会員として、企業が将来支払う退職金や年金の額を数理計算し、その内容を説明する仕事をしてきました。その立場から、iDeCoの基本を押さえつつ、実務で見てきた「つまずきやすい勘違い」を3つ、正していきます。特定の商品をすすめることはしません。
まず、iDeCoは「自分で積み立てる私的年金」です
正式名称は個人型確定拠出年金といい、公的年金(国民年金・厚生年金)の上乗せを、自分で積んで自分で運用する制度です。原則60歳以降に受け取ります。税の優遇は3つあります——掛金が全額所得控除になること、運用で増えた分が非課税になること(通常は約20%〔20.315%〕かかります)、受け取るときにも控除があること、の3つです。ここまでは、どの解説にも書いてあります。つまずくのは、この先です。
勘違い①「全額所得控除だから、だれでも税が戻る」——所得がないと効きません
所得控除は「税のもとになる所得を減らす」しくみです。だから、もともと所得税・住民税を納めている人ほど効きます。逆に、専業主婦・主夫(第3号)や、収入が少なく所得税がかかっていない方は、掛金を所得控除に使っても、引く先の税がありません。いちばん大きいと言われるこのメリットが、立場によってはほぼ出ないのです(運用しているあいだに増えた分が非課税になる、というメリットのほうは残ります)。「全額控除」という言葉だけで決めると、ここで見込みが外れます。
勘違い②「受け取るときも控除があるから非課税」——退職金と枠を食い合います
3つめの「受取時の控除」を「受け取りは非課税」と読む方が多いのですが、正確には、一時金なら退職所得控除、年金形式なら公的年金等控除という"枠"が使える、という意味です。問題は、この退職所得控除の枠を、会社の退職金とも分け合うことです。退職金が多い方が、同じ時期にiDeCoも一時金で受け取ると、枠を使い切って、iDeCoの出口に税がかかることがあります。入口(掛金の控除)で軽くなった分を、出口で一部返すような形になりかねません。受け取る順番と時期で結果が変わるので、退職金がある方は出口まで含めて考える必要があります(この設計は別の記事にまとめています)。
勘違い③「上限まで積むほどお得」——引き出せないお金を増やしすぎる落とし穴
毎月の上限は、働き方(公的年金の立場)で決まっています。
自営業・フリーランス(第1号)月6.8万円——上限は大きいのですが、国民年金基金や付加年金と合わせた枠なので、欲張ると公的年金の上乗せ側を削ることになります。
会社員で企業年金がない(第2号)月2.3万円——いちばん標準的な枠です。
企業型DC・DBがある会社員/公務員 月2.0万円——手堅い枠で、企業年金がある方の分は他制度の掛金と合算して決まります。
専業主婦・主夫(第3号)月2.3万円——枠はありますが、勘違い①のとおり、控除が効きにくい立場です。
そして「上限まで積むほどお得」には落とし穴があります。iDeCoのお金は、原則60歳まで引き出せません。生活防衛のお金や、教育費・住宅など近い将来に使う予定のお金まで上限いっぱい回すと、いざというとき動けなくなります。さらに、加入時に2,829円、その後も毎月最低171円の手数料がかかるので、ごく少額だと手数料に負ける時期もあります。「いくら積めるか」より「いくらなら60歳まで触らずにいられるか」で決めるのが、つまずかないコツです。
これから枠は広がります——2027年から上限が上がる予定
2025年6月に成立した年金制度の改正で、2027年1月からiDeCoの上限は大きく上がる予定です(自営業は月7.5万円、企業年金のない会社員は月6.2万円など)。加入できる年齢も、65歳未満から70歳未満へ延びる方向です。今あわてて上限まで増やさなくても、枠はこれから広がります。だからこそ、まずは続けられる額で始めて、暮らしが変わったら見直す、という順番で十分です。
まとめ
iDeCoの税優遇は、本物です。ただ「全額控除=だれでも得」「受取は非課税」「上限まで積むほどお得」という3つの言葉は、立場や受け取り方しだいで、そのまま当てはまるとはかぎりません。向き不向きを分ける最初の問いは、「生活防衛のお金を、別に確保できているか」です。そこが確保できていれば、月5,000円から、自分のペースで試せます。
この記事は制度のしくみと、つまずきやすい点の説明です。実際に始めるか・いくら積むかは、ご自身の家計と目的に合わせて決めてください。
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いくらずつ振り分けるかを1枚で決めたい方は、配分の決め方(有料)へ。
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会社を辞めて企業型DCがそのままの方は、自動移換に注意してください。
iDeCoや企業型DCを受け取る方は、退職金との「受け取る順番」で手取りが大きく変わります(2026年から、控除を満額使うために空けるべき期間が延びました)。退職金を一時金で受け取るか年金で受け取るかを税額で線引きしたい方は、次の記事で具体的に整理しています。
