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【創作大賞】占い師×薬剤師のお仕事小説第3話【前編】「ほどかれたウェディングドレス」

【あらすじ】
昼は薬剤師、夜は「道場」を構える凄腕占い師。プライベートは「生ごみ」同然のプータラ女――。そんなナツ子のもとを訪れたのは、還暦を間近に控え「自分がわからない」と微笑む女性・佳代子だった。
他を圧倒する華やかなオーラを放ち、かつて多くの男たちを狂わせた「天性の大女優の星」を持つ彼女。 しかし、ナツ子は命盤の裏側に、ドロドロとした凶意を放つ【最悪の破格】を見つけてしまう――。



クライアントがドアを開けて”道場”に入ってきた瞬間、その人の放つ「オーラ」に圧倒されて、私は思わず息を呑んだ。
還暦を間近に控えているという佳代子さんは、非の打ち所がないほどバッチリとメイクを決め、仕立ての良い洗練された服を完璧に着こなして、そこに立っていた。
ことさらに派手な顔立ち、というわけではないのに、彼女が動くだけで周囲の空気がフワッと色づき、華やぐ。目が離せない。

(うわ、すごい色気……。一瞬でみんなの注目をかっさらうタイプだ)

圧倒されながらも、私は彼女を席へ促した。

「佳代子さん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。でもね、ここへ来てこんなことを言うのもアレだけど、私、自分がどういう人なのか、悩んでるのか悩んでないのかもわからないんです。
どうしたいのかも、わからないというところかな」

少し困ったようにおっとりと微笑む彼女の前で、私はノートPCを取り出し、今しがた教えてもらった生年月日時をキーボードでパチパチと打ち込んだ。

画面に彼女のデータが立ち上がった瞬間、私の脳内は一気に数万回転の高速セクターへと突入する。
ここから2分間、私は完全に沈黙する。目の前のクライアントが誰であろうと、一切私語は交わさない。脳の全リソースを、画面に広がる記号の羅列に叩き込む、私流の儀式だ。
紫微斗数の命盤の上を、無数の星たちが光の尾を引いて駆け巡り、定位置へと収まっていく。

(……やっぱりね)

命宮にドカンと居座っていたのは、「貪狼星(どんろうせい)」。
教科書を開けば「欲望の星」「桃花(モテ)の象徴」「ギラギラした野心」と書かれている、天性の大女優の星だ。
更には、財帛宮の「咸池」や、命遷線の「紅鸞・天喜」がこれでもかと強く発光している。これらはみんな、「桃花(モテ)の星」である。
本物の「生きた桃花盤」を前に、私は心の中で指を鳴らした。

しかし次の瞬間、私の視線は命盤のある一点でピタリと止まる。
兄弟宮(けいていきゅう)。
そこには、母親の象徴である「太陰星(たいいんせい)」が座っている。……だが、その横に刻まれた記号を見た瞬間、私の指先が冷たくなった。
生年忌(D)と、自化忌(D)。
最悪の形で重なり合う、「D-D破格」。
その星が持つ良い意味が完全に消滅し、ドロドロとした凶意となって襲いかかる、自己破壊の相。

目の前の佳代子さんは、バッチリメイクの奥で、どこか寄る辺ない幼子のような、薄墨で書かれたようなフワフワとした笑みを浮かべている。
―――この人は他を圧する華やかさの裏に、言いようのない寂しさを隠している。
そんな気がした。



2分間の沈黙を終え、私は佳代子さんの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「佳代子さん」


私は少し悪戯っぽく微笑んで、口を開いた。

「あなた……ものすごい『桃花(モテ)の星』を持って生まれてきていますね。これ、生きたトレンディドラマの盤ですよ」

「あら、バレちゃいました?」

佳代子さんはクスクスと嬉しそうに笑った。
マスカラで美しく彩られた瞳がチャーミングに輝く。

「確かに若い頃はモテました。 顔もスタイルもごく普通ですし、オシャレにも全然興味はないんですけどね。お金をかけずにお化粧でバケたり、体型を隠したりするのは得意なんです。
バブル期の男性はお金もあって積極的でしたから、お店から出るとコートを着せてくれて、私の髪をサラッと上げてくる人がいて……今思うとキショイですね(笑)」

「キショイ(笑)」と思わず私も吹き出す。
彼女のこの卓越した言語センス、最高にイカしてる。

「ある時は、通っていた眼科の先生に言い寄られて。当時流行ってた石田純一似の、11歳年上の男前。まさかの既婚者でした。私から音信不通にして離れましたが、母が植え付けた強烈な貞操観念がなければ、私は堕ちていたかもしれませんわ」

彼女のキレッキレのトークは止まらない。
職場の「貢ぐクン」から毎日のように机に置かれる高級ホテルのディナー券やコンサートチケットを、「平気で受け取れば呆れるかと思いきや、逆に喜んでくれて。ホテルのディナーは夫と堂々と行きました」と、おっとりした顔で図太いことを言ってのける。
行く先々で男たちが勝手に狂い、ドラマを始めてしまうせいで、女性陣からは敵対視されることも多くて苦労した、と彼女は笑う。
道場の中は、彼女の華やかな過去の笑い話で、すっかり温かい空気に包まれていた。

……だけど。
私は、手元の画面に映る、もう一つの「冷たい星」から目を離せずにいた。
これだけ華やかな星を持ち、男たちを散々魅了してきた彼女が、なぜ最初に「欲も、やりたいこともない」なんて、世捨て人のようなことを言ったのか。

「佳代子さん」

私は笑いを収め、声を一段低くした。道場の温度が、すうっと下がっていく。
私の視線がノートPCの画面の、ある一点に固定されているのを察したのか、佳代子さんの笑みがわずかに止まった。

「……お母さま、あるいは、身近なお友達との間で、何かありましたか?自分から心を閉ざすような、何かが…」

その問いが投げかけられた瞬間、彼女の瞳が冷たく凍りついた。



📢 続きはこちら!
第3話【中編】「ほどかれたウェディングドレス」



📖 最初から読む方はこちら!

第1話【前編】「運命のカルテ〜占い師・ナツ子の冒険〜」


【読者・編集部のみなさまへ】
本作は、現役占い師である著者のリアルな鑑定実績に基づき、
「紫微斗数」「四柱推命」の本格的なロジックと、人間の業のドラマを掛け合わせたお仕事小説です。
登場するエピソードや対話には、実際の鑑定で向き合ってきた生々しい「実話」のエッセンスを濃厚に注ぎ込んでいます。星の動きが恐ろしいほどに人間の人生をあぶり出す、フィクションを超えたリアリティをぜひお楽しみください。 (※プライバシー保護のため、個人が特定できないよう設定の改変や再構成を行っています)

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