何を信じて生きるのか。家族の絆が支えたゼロからの起業【第2のどん底④ 再起編】
「怒りも悔しさも、全部燃料に変えてやる。
この手で、もう一度、人生を立て直してみせる。」
──宮崎で、僕たち家族のゼロからの再起が始まった。
前回は、人間不信の中で、福岡から家族4人、親の市営住宅の六畳一間に居候した話を書きました。
福岡では、わずか1件しか結果を出せなかったハウスクリーニング。
またも家賃が払えず借金地獄になるかも、という状況まで追い詰められました。
それでも諦めず、自分の力で挑戦しようと思えたのは、収まらない怒りや悔しさがあったからです。
「誰も信じられなくても、自分だけは信じて死ぬ気で動こう」と腹をくくりました。
今回の話は、そんな「怒りや悔しさを行動に変えた日々」の記録。
第2のどん底の最終章です。
もしあなたが今、「誰も助けてくれない」「何をやってもうまくいかない」と感じているなら──
この話が、自分の力で立ち上がる勇気を取り戻すきっかけになるかもしれません。
この記事は全体の約8割を無料で公開しています。無料部分だけでも、「人を信じられなくても前に進む力を取り戻すまで」のリアルな過程を読むことができます。
ハウスクリーニング、再挑戦のはじまり
宮崎に戻ってから、最初に決めていたことがありました。
「もう一度、ハウスクリーニングをやってみよう。」
福岡ではチラシを撒き続けても反応がなく、結局うまくいきませんでした。
けれど、今の自分の力でお金を生み出せるビジネスを考え抜いた結果、たどり着いたのがハウスクリーニング。
必死で準備して、一度は開業もできた。
だから、まだ諦めたくなかったんです。
自分の足でポスティングスタート
とにかく、早くお金を稼がなければなりません。
まずは宣伝です。
個人でやるハウスクリーニングでは、新聞広告はほとんど反応がないと分かっていました。
まずは格安コピー屋さんで500枚チラシを印刷し、自分の足でポスティングを始めました。
朝早く起きて、家の近くの住宅街を一枚ずつポストに入れて回る。
住民と少しでも目が合えば、できるだけ明るく挨拶するように心がけました。
でも、まだ他人と目を合わす余裕も、明るい挨拶もする自信もない…
それでも続ける。
「どうか、一人でも見てくれますように。」
そんな気持ちで、雨の日もポスティングを続けました。
チラシ一軒、希望の一歩
チラシは、僕の手書きで作成。
ハウスクリーニングは、まだプロのような技術はない。
だからこそ、誠実・親切・丁寧をウリにできるように書きました。
顔写真も載せて、できる限り清潔感と信頼を伝えるようにしたんです。
さらに、使う洗剤にもこだわりました。
仕入れ値が少々高くても、地球と人にやさしいものを選ぶ。
見えない部分も手を抜かない──
それが、僕の店なりの理念でした。
心を込めた手書きのチラシだからこそ、伝わる気がしました。
でも、現実は本当に厳しかった。
反応は、ほとんどない。
2,000枚配って電話が一本あるかどうか。
それでも続ける。
なぜなら、家族を守るため。
そして、居候生活から早く抜け出すため。
ひたすらポスティングとチラシの改良を続けることで、確率が上がっていくと信じてました。
チラシを持って外に出る。
一軒一軒、手で配る。
人と出逢えば、できるだけ挨拶をする。
絶望はありませんでした。
いや、している暇なんてない。
一歩一歩、ポスティングをしながら前に進む。
それが、希望の一歩に感じるようになっていました。
母の知人からの初仕事
ポスティングを続けても、なかなか注文に繋がりませんでした。
「福岡の二の舞いか…」
と思いながらも、それでも諦めずに動いていた、ある日のことです。
母が突然、仕事の話を持ってきたのです。
「知り合いに、アパートの掃除を頼みたい人がおるっちゃが。
やってみらん?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が痛みました。
「母の世話になりたくないし、まだ人を信じられない。」
あの母の同級生とのトラブルの過去がよぎったのです。
一応、話を聞くと、知り合いとは、母が自ら起業した建築系ビジネス関連の人。
ネットワークビジネスの繋がりとは一切関係ない人で、少し安心しました。
依頼の内容は、不動産の賃貸物件で、入居者が退去した後の部屋の清掃でした。
いわゆる下請けの仕事です。
報酬はワンルーム一件、5,000円。
部屋、キッチン、浴室、トイレ、玄関、ベランダ、窓ガラスなど、全部清掃し、仕上げのワックス掛けまで。
すぐに頭の中で電卓を叩くように考えました。
5,000円は正直、安すぎる。
時給にすればアルバイトのほうがいいかもしれない。
もし、不動産から直に受ければ、報酬1万円は手堅い内容だ。
だからといって──
僕が、不動産から直で受ける力も人脈も、今はない…
人が足りない時期のようで、仕事は毎日数部屋あるとのこと。
お金には確実になる話。
実際、僕にはハウスクリーニングの実績は何もありません。
仕事にもまだ慣れてないし、技術を磨く修行も必要。
自分でお客さんから直接仕事を受けられるようになるまで、修行と思って頑張ればいい。
もう一切の迷いはありませんでした。
「やるよ、お母さん。」
母に感謝しました。
お金も必要でしたが、自分の力で仕事をもらう第一歩を踏み出すこと。
それができることが、ただただ嬉しかったです。
初めての現場
以前に揃えた掃除道具を、車に綺麗に整頓しながら積み込む。
洗剤、ワックス、掃除機、ブラシ、脚立、バケツ、ホース、雑巾、スポンジ、ゴム手袋、ゴミ袋──。
作業着の胸と帽子には、僕がデザインしたお店のロゴが入ったワッペンが丁寧に縫い付けてある。
ホウキに乗ったロゴのキャラクターが、少し誇らしげに笑っていた。
下請けの仕事なので、お客さんには会いません。
けれど、このロゴのこだわりが仕事のモチベーションを高めてくれました。
母から「がんばってね」と激励の声。
「頑張ってくるよ。」
現場は家から近くのマンション。
伝えられた部屋に行くと、玄関は空いていました。
時が止まったような、よどみのある空気。
すぐに窓を全開にして換気しました。
築年数が十数年ほどの比較的綺麗なマンション。
掃除はしやすそう。
現場につくまではどんなに汚い部屋だろうと不安もありましたが、初めての仕事がハードじゃなくて良かったとホッとしました。
必要な洗剤や道具を、部屋に運び終える。
自分ひとりで、自分のペースで仕事ができるのは、なんだかすべてから解放された気分でした。
「よし、やるぞ。」
誰が住んでいたかはわからないけど、少し前まで確実に誰かが住んでいたワンルーム。
一人で黙々と掃除を始めました。
誰にも見られてない仕事でも、一切手抜きはできません。
お風呂を磨き、トイレを磨き、床を磨き、窓を拭き、キッチンの油汚れを落とす。
気づけば、時間を忘れて作業に没頭していました。
作業が終わるころには、全身が汗だく。
けれど、仕上がった部屋は、別の空間のように明るく、そして完全に新鮮な空気に入れ替わってました。
頑張りすぎたのか、計画の時間をオーバーしてましたが、仕上がりは自分の中では満点。
それでも、母の知人がどう評価するかは分かりません。
返事が来るまでは、不安でした。
後日、一切のクレームもなく
「助かりました、ありがとう。」
と報酬を受け取ったときは、嬉しいよりも緊張の糸が切れたかのように、ホッとした気持ちでした。
父を仕事に誘う
初めての仕事から少しずつ、新しい依頼が入るようになりました。
1日に2件入る日も増えていきました。
単価は相変わらずワンルーム1件5,000円でした。
安く受けているから、僕に仕事を振ってくれたのかもしれません。
それでも、その時の僕にとっては、仕事があることがなにより嬉しくて。
張り切って現場に向かいました。
誰かに必要とされている実感。
それが何よりの励みになってました。
とはいえ、もう少し稼ぎを増やさないと、早く居候生活から抜け出ることができない。
稼ぎを増やすには、休みなく働くことしかない。
ちょうど入退去が激しい時期だったので、まだ仕事は順調にありそうです。
けれど、いつ依頼が止まるかもわかりません。
「今が稼ぎ時だ。」
そう感じた僕は、安い時給でアルバイトをやっていた父を、思い切って誘いました。
「お父さん、もしよかったら、掃除手伝ってくれんかな?
今のバイトより稼げるよ。」
父は少し戸惑いながらも
「そうか…いいぞ。」
と一言。
ひとりでは、毎日2件が限界でした。
二人だったら、3〜4件はこなせます。
早速、母の知人にそれを伝えました。
父は自営業を長年やってました。
僕が小学生の頃、父の雑用を手伝ってお小遣いをもらったことがありました。
僕が親になって、父を誘って一緒に働くことになるとは不思議なものです。
仕事人の父の顔
思えば、父は掃除の練習はしてません。
そんな時間を取る余裕もありませんでした。
父は、「掃除ぐらい出来るが。」と、いつもの偉そうな調子。
正直、ハウスクリーニングを舐めてると思いました。
そして現場へ。
作業を始めた父は、やっぱり職人気質。
指示しなくても、黙々と部屋中を掃除。
丁寧に磨いている。
無駄な言葉は一切ない。
ただ、仕事だけに集中している父。
すでに汗だくな父。
道具の扱いも、仕上げも、やっぱり几帳面で丁寧。
そういえば、僕の父の思い出はといえば、怒っているか掃除しているかのどちらか。
掃除が趣味と思ったくらい。
仕事用の車の外装も内装も、いつもピカピカだった。
あまりに丁寧すぎるので、
「そこまでやらんでいいよ。」
と伝えるも、父は無言で一切手を抜かずに磨き続ける。
「まあ、俺が作業を進めれば時間通りに終わるか…」
と半分諦めつつも、こう思ったのです。
「でも、こんなに仕事を一所懸命にするとは。
父は本当に裏切らない人だ。」
信じた人に裏切られ、人を信じることをやめかけていた僕にとって、父の誠実な仕事ぶりは本当に胸を打たれました。
作業を終えて、アパートの前にある自販機で、父は冷たい缶コーヒーを買った。
汗を首に掛けたタオルで拭きながら、腰掛けて、ひと呼吸入れて、ゆっくりコーヒーを飲む父。
その姿を見て、胸の奥がじんわり熱くなった。
「おつかれさん。ありがとう、お父さん。」
そして、こう思った。
「俺のコーヒーも買ってよ…」
家族4人、ようやく自分たちだけの家に住む
宮崎に戻って3ヶ月。
少しずつ安定してきた仕事のおかげで、わずかながら引っ越し資金を貯めることができました。
ようやく、親の市営住宅の居候生活から出られるタイミングが訪れたのです。
賃貸物件を探してみると、今の地域の近くに小さな一軒家を見つけました。
チラシを撒き続けていたので、周辺の土地勘もついている。
少ないけど、この地域にお客さんもできた。
「ここに決めた。」
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