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デイケアに、慣れてきた頃【障害者枠でお仕事をはじめるまで⑤】

この記事は、シリーズ記事になりますが、
他の記事を、読んでいなくても、大丈夫な内容です。

適応障害で休職した私は、復職の目途どころか、
退職することしか考えていませんでした。
そんな中「障害者枠で働く」という新たな選択肢を知り、
精神障害者福祉手帳を手に入れました。
しかし障害者枠で働くためには「支援者」が居た方がいいことが、わかりました。
支援を受けるために、就労移行支援事業所に通所しようとしましたが、手続きには時間がかかります。
待っている間、主治医からの提案で病院のデイケアに通うことになりました。
「障害者枠で働く」そう考えている私は、現実に起こることのギャップを感じながら、デイケアに通い続けていました。

前回記事

デイケアに通い始めてしばらく経ったころ、私は少しずつ慣れてきていました。

毎回、私はいちばん静かな部屋で過ごします。

デイケアでは卓球や歌、絵や習字、時には料理など、さまざまなプログラムがありましたが、私はほとんど参加していませんでした。

静かな部屋で、本が読めるかどうかをまず試して、読めない日はスマホを眺めて過ごす。
そんな日々でした。

ときどき、本が読める日もあり、そのときは自分の病気について書かれた本を読んでいました。

同じ部屋にいる人たちのことも、少しずつ分かってきました。

とはいっても、話すわけではありません。

その中で、気になる人が二人いました。

一人は、髪の長い色白の女性で、メガネをかけていました。
少し年上くらいに見えます。
いつも奥の畳の上で寝ていました。

共用の布団があるのですが、誰が使っているか分からない布団に入ることに、私は少し抵抗がありました。

その女性は、時々起きて文庫本を読んだり、イヤホンで音楽を聴いたりしていました。

もう一人は、可愛い白ギャルの女性でした。
見た目の印象でそう思っただけで、話し方がギャルというわけではありません。
きちんとお化粧をして、可愛い服を着ていました。

彼女は、テーブルに座ってスマホを触ったり、うとうとしてそのまま寝たりしていました。

私はなんとなく、その二人の近くで過ごすことが多くなっていました。

ある日の昼食のときに、白ギャルの彼女が私のとなりに座りました。
その日から、彼女は毎日私のとなりに座って昼食を食べます。
特に会話はありませんでしたが、なんとなく誰が近くに座るかわからないよりも、こうして毎日一緒の人がとなりで食べてくれるのが、少し安心できました。

別の日、いつものように静かな部屋で過ごしていると、スタッフさんから声をかけられました。

利用者さんがギターの練習を、この部屋でするけど、いいですか?
という確認でした。

「大丈夫です」と答えると、しばらくして髪の長い色白の彼女がギターケースを持って入ってきました。

いつも寝たり本を読んだり、ときどき泣いている姿しか見ていなかったので、少し意外でした。

私は本を読んでいましたが、きっと集中できないと思い、読むのをやめてスマホを眺めていました。

やがて彼女はギターを弾き始め、歌い始めました。

とても小さな声でした。

ここがデイケアだから気を使っていたのか、それとも元々そうなのかは分かりません。

でも、その小さな弾き語りは不思議と心地よく、その空間にいることがいやではありませんでした。

中島みゆきさんの曲を演奏して歌っていました。

しばらくして練習が終わると、彼女がこちらに近づいてきました。

少し緊張しました。
もしかして話しかけられるのだろうか、と思ったからです。

「ありがとうございました、うるさかったですよね、ごめんなさい」

「い、いえ、そんなことないです」

それだけのやり取りでしたが、それが私にとって、デイケアで初めて利用者さんと交わした会話でした。

そんな日々を重ねるうちに、デイケアに慣れている自分がいました。
ある日、女性スタッフさんに呼ばれました。

以前、体験の日にも声をかけてくれた方でした。
静かな部屋で過ごすつもりだったのに、卓球に混ざることになったのを、思い出します。

そのときの印象が少し残っていて、私はどこか身構えながら個室へ入りました。

「デイケアはどうですか?」

そんな話から始まり、私は少し緊張しながらも、今の状況を話しました。

静かな部屋が落ち着くこと、少しずつ慣れてきたこと、障害者枠で働くことを目指していること。

スタッフさんは少し大げさに首を縦に振って、何度も頷きながら聞いてくれました。

そしてこんな話をしてきました。
まずはデイケアに通って体力をつけて、働くのはそれからです。
お金の心配をしているなら、生活保護があるから無理しなくていい。
今はデイケアに毎日通って、プログラムにも少しずつ参加できるようになっていきましょう。

その言葉を聞いたとき、私はとても驚きました。
私は就労移行支援事業所に通い、障害者枠で働くことを前提にしていて、その待っている時間をデイケアで過ごしているつもりでした。

なのに、まるで別の話が進んでいるように、感じてしまったのです。

どうしようもない気持ちになり、言葉が出てきませんでした。

そのまま黙り込み、「無理」という言葉だけが頭に浮かんでいました。

そのあと、デイケアを出てから、いつも相談に乗ってくれている、
精神保健福祉士さんを探しました。

前は席を外していなかったのですが、今日は会うことができました。

私の不穏な様子を見て、個室を用意してくれて、話を聞いてくれました。

私は言葉が出なかったので、紙に思っていることを書きました。

働くことに向けたことが、進んでいない不安、
デイケアスタッフさんの言葉への違和感、
デイケアに行く意味が分からなくなっていること、
そして、自分は本当に働けるのかという不安。

福祉士さんは急かすことなく、私が書き終わるのを待ってくれました。
そして私が書いた紙を読んだあと、少し考えて簡潔に答えてくれました。

あなたが障害者枠で働けるかどうかは、私には分からない、
ただ、主治医に今の考えをきちんと伝えた方がいい。
働きたいなら、家にいるよりデイケアに来て過ごした方がいい。
今はデイケアは昼食を食べる場所だと思っていい。
スタッフには私から伝えておく。

その言葉を聞いて、私は少し落ち着きました。

私は、ずっと一人で考えていたことに気づきました。

ぼんやりとした目標のまま、不安だけを抱えていたこと、
それを思っているだけで、誰にも言わずにいたこと。

相談する相手を選びながら、きちんと伝えることが、
必要なのだと思いました。

主治医に自分の状態だけでなく、これからどうしたいのかを伝える。
悩んだときは、一人で抱えずに信頼している福祉士さんに相談をする。

私は何をどう目指して、それには誰に助けを求めるのか。
それを整理することはたいせつなことだと、気づきました。

デイケアに通う意味は、まだはっきりとは分かりません。

それでも、ひとりで過ごすよりも、
誰かが隣に座って食事をしてくれること、
うまく話せなくても「ありがとう」と言われること。

それは、病気になってから、誰とも関わってこなかった私にとって、小さな安心でもありました。

だからこの時は、手続きを待っている間だけでも、昼食を食べに行く場所として通ってみようと思いました。


この記事は不定期更新のシリーズ記事になります。
次回記事はこちらです。

私が障害者手帳を取得して、就労するまでの記事は、こちらのマガジンにまとめています。

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