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第15話《Eternal First Love》#1 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

⬛︎第14.5話《黒く咲いた百合の花》#6

⬛︎第15話《Eternal First Love》#1

病室のベッドでゆっくりと目を開くと、白い天井が目に入った。

蛍光灯の光が強くて眩しい。

「ん……」

「芽々!?」

「おねーちゃん……?」

なかなか見ることの出来ないヒアルロン酸注入済の姉の、泣きそうな顔。

だけどどこか呆れた愛情に満ちた眼差しだった。

かと思えば目尻をつりあげ、手を勢いよく伸ばすと私の頬を思いきり引っ張った。

「あんたって奴は! 無茶ばかりするんだから!」

「ぴゃああああっ! ごめんなさいぃぃ!!」

私の頬はよく伸びる。

そういえば幼い頃は百々に色んなところを引っ張られてギャン泣きしていたと思い出す。

長年離れていたため、百々との交流も久しく感じた。


「……おねーちゃん?」

百々の手が止まり、離れていく。

ヒリヒリ痛む頬を撫でながら上目遣いにじっと百々の顔を見た。

「バカ芽々。心配ばっかかけて。丸一日寝てたのよ」

何歳になっても姉は姉だと実感する。

普段、頻繁に連絡するほど仲良しな姉妹ではないが、いざという時は駆けつけてくれる。

憎まれ口を叩きながらも、変わらずに接してくれる百々に涙が出た。

「うん。ありがとう、おねーちゃん」

「動ける?」

「……うん」


ベッドから身体を起こし、百々の手を取り立ち上がる。

「黒咲くん、先に目を覚ましてるよ。会いに行くんでしょ?」

「黒咲くんっ!」


その言葉に反応して足を前に出すも、ずっと寝ていたためにふらついてしまう。

百々に抱き止められるも、あまりの慌てように深いため息が頭上で聞こえた。


「落ち着きがないのは相変わらずね」

「……えっと、黒咲くんの病室は」

「バーカ。あんた何歳だと思ってるのよ」

「えへへ」

「褒めてないから」


***


「由利、ごめん。本当にごめん……」

由利が入院する病室には拓司が見舞いに来ていた。

ベッドから上半身を起こし、無表情に、まっすぐに拓司を見ている。

いつもニコニコしていた由利が全く笑わないことに動揺しながらも、拓司は声を震わせながら本音を伝えた。


「ムカついてた、けどそれ以上に由利が好きやった。あの時、俺も余裕なくて……本当にごめん」

「大丈夫、わかってるよ」

ゆっくりと、ぎこちなく口角が上がっていく。

泣きたい気持ちをこらえて笑顔を作る子どものような顔だった。


「お互い、ボロボロだな。これが三十歳の大人だぞ?」

「あ……ぁあ……、ごめ、ごめん……。っぁああああああ!!」

だんだんと泣くことが許されなくなる。

泣くのはズルい。

子どもじゃないんだから。

そうして泣くことを忘れていく。

泣きたい気持ちが消えるわけではないのに、泣き方だけが抜けてしまい、内側にとどまってしまう。

大人なんてそんなものだ。

由利はようやく拓司を正しく認識することが出来た気がすると、穏やかに微笑んでいた。


(うわぁ、入りにくい。山村くんと何かあったのかな?)

勢いのまま病室の前に来たものの、緊張してしまい唾を飲み込む。

気合いを入れて扉を開こうとすると、中から声が聞こえてきて開くに開けない。

黒咲くんと拓司が話しているようだが、拓司の泣き声が響いておりなかなか入るに至らない。


(なんだろ、探してる時も様子おかしかったからなぁ)

「……邪魔」

「ま、麻理子様!?」


目を細めて冷ややかにこちらを見てくる。

キョトンとした顔をして見上げてくる静夜としっかり手を繋がれていた。

「静夜くん、こんにちは〜」

「……こんにちは」

「恋人が生きてるんだからなりふり構わず行けば?」

「えぇ……でもぉ」

「男の泣きっ面に需要なんてないから」

「わっ!?」

ガラッと扉が開かれ、思いきり突き飛ばされる。

ピシャンと音をたてて扉は閉まり、パントマイム中のようなポーズで病室に乱入することとなった。

「……時森?」

「えっと……ど〜も~……」

ヘラヘラ笑って誤魔化すも、空気をぶち壊して乱入してしまったことは変わらない。

心の中でハラハラと泣くしかなかった。

「……オレ、飲み物買ってくる!」

「拓司!?」


椅子から立ち上がり、顔を真っ赤にして病室から飛び出す拓司。

何も言っていないはずなのに、悲鳴のような叫びが聞こえた気がした。

拓司が去り、残された私はチラリと黒咲くんに目を向ける。

「時森、俺……」

バツが悪そうに目をそらす黒咲くんに私は手を伸ばしていた。

「会いたかった」

変わらない。

夜空に浮かぶ星を観るように、焦がれる気持ちは何一つ変わらなかった。

「ずっと今の黒咲くんに会いたかった」

ぎこちない手つきで背中に回される手。

高校生の時と比べてずいぶんと荒れており、腕が赤く腫れていた。

「……ごめん」

「ありがとう、だと嬉しい。なーんにも気づけなかったから、来るの遅くなっちゃった」

「変わらないな、時森は」

その言葉に衝撃を受け、とっさに黒咲くんの肩を掴んで顔を上げる。

「ええー、変わったよぉ? シミ、そばかす、ほうれい線……めちゃくちゃやばいんだよぉ」

「大丈夫。 全部かわいいから」

ーードッキーン!!

心臓が飛び出すくらいに跳ね上がる。

「か、かわ、かわいい!?」

「うん。俺にとって時森はずっと……かわいいよ」

「あ、ありがとう」


途端に恥ずかしくなり、二人して真っ赤になって目をそらす。

(ちょっと待って! これ、ズルいよね!?  かわいいとか……高校生じゃないのに!?)

ドキドキと胸がくすぐられる気持ちが止まらない。

だがそれに集中するわけにもいかなかった。

病室の扉が僅かに開いており、そこからいくつかの視線を感じる。

察するに麻理子と拓司、百々あたりが覗き見をしているのだろう。

(ああー! くそぅ、めちゃくちゃみんな見てるー!)

それは黒咲くんも気づいていたようで、困り気味に笑っていた。

「お、屋上行かない? そろそろ夜になるからさ。星、見に行こうよ」

「……うん!」

私たちが動き出すと、外にいた面子がササーッと逃げ出していく。

なんだかおかしくなり、黒咲くんを見上げると柔らかく微笑み返してくれるのだった。

病院の屋上は高いフェンスに囲まれている。

それでも真上をみれば夕日が沈んで、星空が見えはじめていた。


「……いつ、こっちに帰ってきたの?」

不安げな目が向けられる。

このような形での再会となり、戸惑いが大きいのだろう。

風が吹き、高校生のときとは違った短い髪をおさえてふわりと笑う。


「十二日に飛び出してきた。黒咲くんに会うために来たんだよ」

「なんで……だって俺、本当に衝動的で……」

言葉にするのを躊躇っている。

本人の自覚さえない衝動と、その行動に身を委ねたくなる目の前の真っ暗さに飲まれていた。

それだけ苦しくて辛かったというのに、誰にも何も言えなかった。

弱音を吐くこともなく、明るく笑う黒咲  由利。

頑張らないと、と暗示をかけて走り続け、自分の状態もわからなくなっていた。

あの自殺未遂は、頑張り続けた果ての折れた心が強制的に痛感を遮断しようとした結果だ。

心も身体も痛すぎて、何も感じなくていい境地へと至ろうとしたものだった。


「死ぬとか……そんなことわからなくて……」

「うん。間に合ってよかった」

「と、時森?」

細い腰にギュッと抱きついて、胸に擦り寄る。

少し早い鼓動を耳にしながら、私はここに至るまでの道を口にした。


「……私ね、変わりたくてこの町飛び出したんだぁ。でも頑張ろうとしても周りから叩かれてばかりで、正直疲れてた」

何をしても空回り。

上を向こうとすればするほど、大きなハンマーで叩かれてまるでモグラ叩きのようだった。

頑張り方がわからなくなって、何をするにも怖いが付きまとう。

連鎖するように罵倒が襲いかかり、自分を守るように自分を殺した。

無価値な石っころになり、周りが輝いて見えた。

惨めで、寂しくて、泣きっ面になっていた私に残された光は黒咲くんだった。

その光が失われたと知り、どうしようもない感情を持て余して流星群の空を眺めた。


「変な話かもしれないけど……私は黒咲くんの自殺を知っていたんだ」

「……っこれは衝動的で」

「ずっと黒咲くんが好きだった。ずっとずっとその想いが消えなくてその想いは時をかけた。 また黒咲くんに会って、もっともっと好きになったんだ」


だけど、とヘラヘラ笑いながら不安げな漆黒の瞳を見つめる。

「告白する勇気なんてなかった。でもね、やっぱり私には黒咲くん以上に好きになれる人がいないの」

結局この現象がなんだったのかはわからない。

それでも私は星を掴みに行っただろう。

私が焦がれた星は、空に浮かぶ星ではなく目の前にいる私だけの一番星なのだから。

一人で笑えなかった人生も、これからは二人で笑っていけると思えた。

「黒咲くんがいい。一緒に、生きていくこと選んでもいい?」

「……俺には何もない。時森を守れるだけの財力も、地位も、技術も……何一つないんだ」


肩に顔を埋め、弱音を吐き出す黒咲くん。

「俺は自分がわからない。 今では何がしたかったのかも、何になりたかったのかもわからない」


私はそっと背中に手を回すことしか出来ない。

「ずっと、俺はじいちゃんを追いかけていた。 じいちゃんみたいな職人になって、町を盛り上げて、親父や従業員に楽させたかった」


ボロボロと途端に溢れ出す涙。

手は小さくすがるように握られる。


「もう何も残ってない。俺は……器を作れない。腕、ずっと治らないんだ。足も、違和感なく歩くことが出来ない。
こんな状態で時森に顔向け出来ない。あんな漆器を作ったところで重たすぎて絶対に、渡せないって……」

「由利くん」


その苦しい叫びに胸が痛む。

きっと“黒咲  由利”であることを背負いすぎて泣くことも出来ずに生きてきた。


「私はあれが欲しいの。あのどっしりとした朱と黒の椀」

だけどその苦しみさえ愛おしい。

全てを背負おうとした姿でさえ、私の愛した由利くんだった。


⬛︎NEXT
第15話《Eternal First Love》#2

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#第15話
#最終章

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