第15話《Eternal First Love》#2 拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
第15話《Eternal First Love》#1
第15話《Eternal First Love》#2
「私は仕事も辞めちゃったし、ずっと都会で枯れてきた。なーんにもないよ」
少しずつ少しずつ、ワクワクした心で行動出来ていた私がいなくなった。
何かを行動する前に他人の目が気になり、怯えながら取り組んでいた。
ミスが連鎖し、伺ってから取りかかるに切り替えるとやがて面倒な人間となり、無価値の烙印がおされた。
残ったのは昔から変わらない、自分が押し込めてきたものばかりだった。
「あったのは由利くんが好きって気持ちだけ。私には世界で一番、由利くんが最高で素敵な人なんだよ」
「……今までの俺は、俺じゃないかもしれないって言っても?」
不安そうな表情は、小さな男の子と変わりない。
なんとなくその顔を見たことがあるような気がした。
「俺はずっと、じいちゃんの真似をしてただけの……」
「それも含めて由利くんでしょ? おじいさんが由利くんを生かした」
ペタペタと由利くんの頬を触り、親指と人差し指で挟んでみる。
何度触っても由利くんは由利くんのままだった。
「似てるけど二人は違う。だって由利くんはおじいさんからたくさんの愛情をもらった最高の人なんだから」
見つめれば見つめるほどに愛おしさが増す。
黒真珠に映る自分はとても幸せそうで、こんな風に笑うことが出来るのだとはじめて知った。
「私が好きなのは、愛を知ってるからこそ頑張ろうとする黒咲 由利くんだよ」
「……ありがとう」
涙がポロポロこぼれ落ちる。
真珠のような淡いキラキラが頬を濡らし、私の手を濡らしていく。
拭っても止まらないそれに愛おしさを感じた。
「俺……じいちゃんに会いたかった」
「うん」
「またじいちゃんに褒めてほしかった。じいちゃんの凄さ、絶対に消したくなかった」
「うん」
「じいちゃんが残したもの守りたくて、それで俺がもっとそれをすごくしてやるんだって、そう思ってた」
「……うん」
「なのに残ってたのは壁とプライドばかり。 何にも……守れるだけの力はなかった……」
「……っうん」
せき止めていた叫びは止まらず溢れ出す。
やっと、由利くんは恐怖の大王が起こした現実に泣き叫ぶのだった。
「うっ……うぁあ……ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!! じいちゃんっ………じいちゃんっ!!」
空が夜に染まる。
黄昏の色はすっかり消えてなくなっていた。
「なんでこんなもんだけ残してくんだよ!
プライドだけデカくなって他はなんも残らなかったじゃないか!!
何も守れなかった!
俺は弱くて、なんの力もなくて!!
何一つ、形にならなかった……。
頑張っても頑張っても全部ダメだった!!
結局、全部失った……。
親父の気持ちだって、わかってたのに全然寄り添えなくて……もう謝ることも出来ない!!」
足元から崩れていく彼を、支えることしか出来ない。
「ごめん、ごめんなさい……。
守れなくてごめん。助けられなくてごめん。
親父の夢、叶えられなくてごめん。
……ごめんなさい」
彼の声は、自分を突き刺すようなたくさんの針だった。
じわじわと血が流れ、いつの間にか血溜まりの上に立っている。
「うっ、うぅ……やだよ、じいちゃん。
会いたい。じいちゃんに会いたいよ……」
目も、耳も、覆ってくれる人はいない。
「じいちゃん……」
1999年、蝉が鳴く7の月末のこと。
灼熱の中で恐怖の大王により、小さな男の子は時を止める。
月に太陽の残像をみて、ほんの少しだけ動いていた奇跡。
月も見えなくなった世界で、星は遠くて誰もその光に気づかなかった。
ふと、空を見上げる。
「由利くん、見て」
腕の中にいた由利くんがゆっくりと顔をあげ、私の後ろに広がる空を見た。
「星だよ、流れ星がいっぱいだよ」
「ーーっ……!」
その光景に息を飲む。
由利の中で、幼い頃の記憶が駆け巡った。
***
「じいちゃん! いま、流れ星が見えたよ!」
ふたご町の丘の上、小さな望遠鏡を前に少年が空を指さす。
老人の腕に抱かれ、少年は目を輝かせていた。
「星はロマンがあるな。由利も好きになってくれたら嬉しい」
「うん! 星ってすごく綺麗だ」
望遠鏡ではなく、直接空を観ると星よりも月が大きいことに気づく。
黄金に輝くそれを見て首を傾げた。
「うーん、でも月の方が大きいよなぁ。星と違ってすぐに見つけられる」
「星はな、小さく見えるけど本当はとっても大きいんだ。遠いだけで本当は太陽より大きいものかもしれない」
その言葉に少年は目をギョッと大きく開いた。
「えーっ!? じいちゃんよりすごいってこと!?」
「んん? どういうことだ?」
「だってじいちゃんはみんなの太陽だから! オレ、じいちゃんみたいになりたいよ!」
思わぬ発言に老人は目を細め、穏やかに微笑む。
「そうか。でもな、じいちゃんは星がいい!」
「わっ!?」
少年を後ろからギュッと抱きしめ、いたずらっ子のようにしわくちゃになって八重歯を見せた。
「星はたくさんある。可能性は無限大だ」
少年の頭を撫で、特定の星を指すわけでもなく空に道標を出す。
「由利にしか照らせない星だってある。月は一人で輝けないのと同じようにな」
「あんなにキレーなのに、一人じゃ輝けない……」
妙に心がワクワクしてきて、ニンマリと笑う。
こんなに心躍る星空。
宇宙はロマンがいっぱいだ。
「きっと照らしてくれる人がいるから圧倒的になれるんだね!」
「……あぁ。由利はどんな大人になって、どんな風に輝くのか。……楽しみだなぁ」
空に流れる星。
1998年の大火球。
燃えるような朱の色……。
じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん。
ずっと会いたかった。
でももう大丈夫。
自分の輝き方、探しに行くよ。
俺を可愛がってくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。
じいちゃんが大好きだった。
これからもずっとずっと、じいちゃんが大好きだ。
だけど、じいちゃんと同じくらい大好きな子がいるんだ。
俺が器をあげたただ一人の相手だよ。
***
「時森、これ……」
病衣の胸ポケットから粉々になった小石を取り出す。
一見、何かわからなかったがよく見ると七色の石だった。
「割れちゃったの……?」
「ずっと持ってたんだ。あの時はポケットに入れてたんだけど、目を覚まして確認したらこうなってた」
いまだにわからない七色の石。
唯一無二の輝きは、今ではどこにでもある石ころのようだ。
「割れるものなんだ。……結局これ、なんだったんだろ?」
「時森?」
うーんと唸り、考えてみるもやはり答えは出ない。
そもそも答えがわかるならば、タイムリープという摩訶不思議な現象にも回答がつくはずだ。
「ま、割れちゃったなら仕方ないね。大丈夫だよ、由利くん」
わからないものはわからない。
それよりも大切にすべきことは目の前にあるのだから。
この温もりが、私の答えだ。
「これからは私が一緒にいるから」
「一緒に……いてくれるの?」
「私が由利くんといたいの。ずっとずっと好きだった」
長年、拗らせた初恋。
「心はいつだって由利くんに向いてた。だけど由利くんはそばにいなくて……ちゃんとしなきゃって、しがみついた生き方をしてきた。そんな風に生きてたら拗れて拗れて……寂しいばかりだった」
彼への愛情は色褪せることなく、いつだって私を照らしてくれた。
私の色は、無色でないと知ることが出来た。
「私は由利くんが大好き。私の初恋で、拗らせた恋になって、現在進行形の想いなんだ」
この世界で一番価値のある笑顔。
あなたが笑うと私も笑顔になれる。
「由利くんと出会ったときに見た笑顔に心惹かれて、それからずーっと私の一番星なんだよ」
「……っありがとう」
出来ること、出来ないこと。
それも含めて由利くんで、私はその色が好き。
完璧じゃないから大好きなんだ。
「俺も、ずっと芽々が好きだった。 今も、大好きなんだ」
「一緒に生きよ?」
空を光らせるのは流れ星。
ふたごの空は、やさしかった。
「二人ならなんとかなるよ。 星祭りだって、あんなすごいこと出来ーーー」
唇に触れるは胸をくすぐるちょこんとした温もり。
まるで高校生に戻ったかのような、初々しいそれに笑った。
「大好きだ。一緒に、生きよう」
「……うん!」
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