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『平成狸合戦ぽんぽこ』—開発と自然は共存できるのか【映画×授業 #16】

最近、住宅街にクマが出没したというニュースを、よく目にします。

他にも、
畑を荒らすサル、
住宅地に現れるシカ、
河川敷を走るイノシシ…などのニュースも。

そのたびに、
「なぜ動物たちは、人間の町へ降りてくるのか」
という言葉が繰り返されます。

そんなニュースを見ながら、私はある映画を使った授業を思い出しました。それは、『平成狸合戦ぽんぽこ』です。

ジブリ作品には、強いメッセージ性を持つものが数多くあります。
例えば、

『もののけ姫』ならば、自然と文明の共存とは?
『となりのトトロ』ならば、里山を守る必要性とは?
『天空の城ラピュタ』ならば、科学と戦争の未来とは?

その中でも『平成狸合戦ぽんぽこ』は、「都市開発と自然は共存できるのか」という問いを、真正面から描いた作品だと思います。


1.舞台は「多摩ニュータウン」


映画の舞台となるのは、多摩丘陵。そしてモデルとなったのが、東京西部で進められた大規模開発「多摩ニュータウン」です。

高度経済成長期、日本では人口増加と都市化が急速に進みました。
その中で、「人間が住みやすい町」をつくるため、山が削られ、森が切り開かれ、住宅地が広がっていきます。人間にとっては、必要な「発展」だったかもしれません。

でも、タヌキたちにとってのそれは、「故郷の消滅」…そのものでした。

だから、映画の中でタヌキたちは、次々と消えていく森を前に、不安と怒りを募らせていきます。

その姿は、決して、ただの動物としては描かれていません。むしろ、開発によって居場所を失っていく存在として、人間社会そのものを映しているようにも感じます。

2.なぜ、タヌキは人間を襲うのか


映画の中でタヌキたちは、人間に対して反撃を始めます。

子どもたちにこの映画を見せると、最初はこう言います。
「タヌキが悪い」
「人間を襲うなんて怖い」

でも、そこで問いかけます。
「そもそも、なぜタヌキたちは怒ったのだろう?」

すると、少しずつ見方が変わっていきます。
「人間に森を壊されたから」
「だから、住む場所がなくなった」
「食べ物だってなくなったんじゃない?」

ここで初めて、人間中心ではない視点が生まれます。

人間にとって便利な開発も、別の生き物にとっては、生きる場所そのものを奪われる出来事なのです。

これは今、全国で起きているクマ出没問題にも重なります。山を切り開き、道路を通し、住宅地を広げる。その結果、動物たちの生活圏と人間社会がぶつかり始めているのです。

つまり、一連のニュースは、「動物が人間社会へ来た」というよりも、「人間が動物の世界へ入り込んだ」結果と言えるのかもしれません。

3.授業で子どもたちに問いかけたこと


この映画を見た後、子どもたちにこんな問いを投げかけました。

「開発と自然は、本当に共存できるのだろうか?」

すると、子どもたちは悩み始めます。
「でも、人間も家が必要だし…」
「便利になるのは悪いことじゃない」
「でも、動物がかわいそう」

単純な正解は出ません。だからこそ、この映画には価値があるのだと思います。

社会科の授業では、「開発=発展」として学ぶことが多いです。
けれど、その発展によって失われるものは何なのか。誰にとっての豊かさなのか。

『平成狸合戦ぽんぽこ』は、そうした問いを、子どもたちに自然に考えさせてくれる映画なのです。

特に印象的だったのが、映画の終盤のこのシーン。タヌキがありったけの力を使って、わずかな時間だけですが、元の自然をよみがえらせます。いつも私はここで、映画をストップし、こう問いかけます。

「高畑勲監督は、このシーンにどんなメッセージを込めたのだろう?」
「そのメッセージを、短い言葉で表現してみよう。」

すると、
「便利さの裏で、自然が消えている」
「人間だけの地球じゃない」
「開発しても、自然を忘れるな」
「共存は簡単じゃない」

そんな言葉が、子どもたちから出てきました。

映画を見るだけではなく、自分の言葉で考え直す。そこに、授業として扱う価値があると感じています。

4.『ぽんぽこ』が今につながる理由


この映画が公開されたのは1994年。けれど、今見てもまったく古く感じません。むしろ、環境問題、生物多様性、都市開発、人口の一極集中、野生動物との共存といった現代社会の課題を、30年以上前から鋭く問いかけていた作品だと感じます。

しかも、それを説教くさくではなく、笑いとユーモアを交えながら描いている。さすが高畑勲監督だと思います。

タヌキたちは、どこか滑稽で、にぎやかで、時にどうしようもない。だからこそ、最後の切なさが胸に残るのです。

5.おわりに


『平成狸合戦ぽんぽこ』は、単なるタヌキのアニメではありません。それは、「人間の発展とは何か」を、私たちに問いかける作品です。

人間にとっての開発は、別の生き物にとっては故郷の消滅なのかもしれない。私たちは、便利さを求めながら、何を失ってきたのだろう。

そしてこれから、自然とどう共に生きていくのだろう。

『平成狸合戦ぽんぽこ』は、そんな問いを、静かに投げかけてくる映画です。

だからこそ今、改めて子どもたちと見て欲しい一本だと思っています。


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