「参勤交代は幕府の嫌がらせだった」は本当か?-『超高速!参勤交代』で考える歴史の授業【映画×授業 #17】
私が中学生だったころ、参勤交代をこう教わっていた気がします。
「幕府が大名の財力を弱めるためにつくった制度」
多くの教科書もそう説明していましたし、それを疑うこともありませんでした。ところが最近は、少し違う見方が示されています。
参勤交代を制度化した幕府は、
「最近、大名行列の人数が多すぎる。人々の負担にもなっているので減らしなさい」
という趣旨のお触れを出しているのです。もし幕府が本気で大名に無駄遣いをさせたいのなら、こうしたお触れは少し不思議に感じませんか。
では、なぜ大名たちは豪華な行列を続けたのでしょうか。そんなことを考えさせてくれた映画が、『超高速!参勤交代』です。
1.弱小藩に突きつけられた無理難題
物語の舞台は江戸時代中期。
わずか一万五千石の湯長谷藩に対し、幕府は通常八日かかる参勤交代を四日で行えと命じます。
目的はただ一つ。
藩をつぶすこと。
藩主と家老たちは知恵を絞りながら江戸を目指します。設定そのものは荒唐無稽なのですが、参勤交代を授業で扱う教師にとっては、思わずメモを取りたくなる場面が次々に出てきます。
2.「えっほ、えっほ」と走る大名行列
映画の中で最も印象に残ったのは、大名行列の移動シーンです。
田んぼや人気のない道では、
「えっほ、えっほ・・・」と、ほとんど駆け足で進みます。
ところが宿場町が近づくと、一転してゆっくり歩き始める場面があります。背筋を伸ばし、隊列を整え、威厳たっぷりに進むのです。
ここで、私はいつも
「町では、なぜゆっくり歩いてるのかな?」
と聞いてみます。
「人が多くて危ないから。」
「店の看板にぶつかるからじゃない。」
「砂ぼこりが立つからだよ。」
さまざまな考えが飛び交います。
「ちがうよ。カッコよく見せたいんだよ」
そう、大名行列は単なる移動ではありません。
見られること自体に意味があったのです。
大名の権威、藩の格式、家臣団の結束
生徒たちは、それらを人々に示す、一種のパフォーマンスでもあったことに気が付きます。
3.家来が最後尾へ走る?
もう一つ、生徒たちが思わず笑ってしまう場面があります。
家来の人数が少ないため、農民たちを集めて家来の格好をさせるのです。
さらに、大名行列が町を通り過ぎると、先頭を歩いていた者たちが裏道を全力疾走。最後尾に回り込み、再び行列の一員として歩き始めるのです。
そしてまた走る。
また並ぶ。
これを繰り返すのです。
もちろん映画的な誇張もあるでしょう。
しかし、
「大名行列は、いつも整然と並んで行進していた」
という子どもたちのイメージを崩すには絶好の場面です。
実際、大名行列は常に儀式モードだったわけではありません。見せ場では整列し、それ以外は比較的自由に移動していたとも言われています。
映画のギャグが、意外にも史実と重なるのです。
となると、次の疑問は、
「なぜそこまで人数を多く見せたいのだろう」
となります。
生徒たちは、すぐに答えにたどり着きます。
「立派な藩と思われたいから」
「さっきと一緒でカッコつけるためだよ」
「他の藩に負けたくないから」
実は、ここに最近の研究成果とつながる面白さがあります。幕府は大名行列の人数を減らすよう命じています。それにもかかわらず、大名たちは豪華な行列を続けたのです。
つまり、
「幕府が無理やり豪華な行列をさせた」
だけでは説明できないのです。
大名たち自身が競争し、見栄を張り、体面を保とうとした結果、行列は大きくなり、費用も膨らんでいった。
映画の中で描かれる滑稽な行列は、実は江戸時代の人間らしさそのものなのかもしれません。
4.授業で使えるクイズがたくさんある
私は参勤交代の大名行列を扱うとき、よくクイズを出していました。
例えば、
大名行列が通るときの掛け声は?
土下座しなければならなかったのはどの大名?
関所で厳しく調べられたものは?
なぜ大きな川に橋を架けなかった?
こうした問題には、生徒たちが意外と盛り上がります。映画には、それらの答えにつながる場面がたくさん出てきます。
特に川越えの場面は印象的。
江戸幕府が大河に橋を架けなかった理由として、
「敵の侵入を防ぐため」
という考え方があります。
教科書では一行で終わる内容ですが、映画を見るとその不便さや苦労が実感できます。
5.歴史は変わる
教師になって三十年以上。その間に、教科書の内容は何度も変わりました。
鎌倉幕府の成立年、聖徳太子の扱い、大化の改新の説明
そして参勤交代の見方も変わりつつあります。
歴史は「過去」を学ぶ教科ですが、実は現在進行形の学問です。新しい資料が見つかれば、これまでの定説が見直されることもあります。
だから授業で本当に大切なのは、
「これが正解です」
と教えることだけではないのでしょう。
なぜそう考えられていたのか。
なぜ新しい見方が生まれたのか。
そこまで考えることが、歴史を学ぶ面白さなのだと思います。
私が中学生の頃に習った「参勤交代は幕府が大名を苦しめるための制度」という説明も、決して間違いではないのだと思います。
しかし今は、「大名たち自身の見栄や競争も大きな要因だったのではないか」という見方も加わっています。
映画の中で、農民に家来の格好をさせたり、行列の人数を多く見せようと必死になる姿は、思わず笑ってしまいます。
けれども、その姿はどこか現代人にも似ています。他人によく見られたい。少しでも立派に見せたい。周りに負けたくない。
そんな人間らしい感情が、実は江戸時代の大名たちを動かしていたのかもしれません。
『超高速!参勤交代』は、肩の力を抜いて楽しめる娯楽時代劇です。
しかし教師の目で見ると、参勤交代とは何だったのか。なぜ人は見栄を張るのか。そして歴史の常識はなぜ変わるのか。
そんなことまで考えさせてくれる一本でした。
次に参勤交代を教える機会があっても、私は教科書を開く前に、まずあの「えっほ、えっほ……」の場面を見せることから始めると思います。
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