江戸の食卓に隠された「建前と本音」― 猪のテリーヌから見えた肉食の真実|食×授業#12
「江戸時代、日本人は肉を食べなかった」
本当にそうでしょうか。
先日、フレンチレストランを訪れたときのことです。前菜として運ばれてきたのは、美しい「猪肉(ししにく)のテリーヌ」でした。しっとりと柔らかく、野性味がありながらも上品な味わい。

最初の一口を噛み締めたとき、ふと江戸時代の授業の記憶がよみがえりました。
今回は、一皿の料理から始まる
「江戸の食のミステリー」を紐解いてみます。
1.【クイズⅠ】江戸っ子は肉を食べていた?
まずは、ちょっとしたクイズです。「江戸時代、人々は肉を食べていたでしょうか?」
① まったく食べていなかった
② 一部ではこっそり食べていた
③ 現代と同じように普通に食べていた
👉 正解は……
(少し考えてみてください)
↓
↓
↓
↓
↓
👉 ② 一部では食べていた です。
江戸時代の日本では、仏教の影響や、農耕に使う牛や馬を大切にする考えから、表向きは「肉食禁止」とされていました。
しかし、人間とは正直なものです。
「どうしても肉が食べたい」
その思いは、あるユニークな知恵を生み出しました。そのヒントが、当時の浮世絵に描かれています。
2.【クイズⅡ】浮世絵に描かれた肉食の証拠

「名所江戸百景 びくにはし雪中」
「この浮世絵の看板に描かれた『やまくじら』とは、何の肉を表しているでしょうか。」
① 鯨
② 熊
③ 猪
👉 正解は……
(少し考えてみてください)
↓
↓
↓
↓
↓
👉 ③ 猪 です。
「やまくじら」とは、猪肉を意味する言葉です。でも、なぜ「くじら」なのでしょうか。
当時、魚を食べることは許されていました。そこで人々は、「これは山にいる、くじらだから大丈夫!」という、少しユーモラスな理屈を考え出したのです。
他にも、肉には風流な「別名」も付けられました。
3.【クイズⅢ】この名前、何の肉?
「次の名前は、何の肉を表しているでしょうか?」
① ぼたん
② もみじ
③ さくら
👉 正解は……
(少し考えてみてください)
↓
↓
↓
↓
↓
① ぼたん → これも猪(切り口が牡丹の花に似ているため)
② もみじ → 鹿(紅葉と鹿の取り合わせから)
③ さくら → 馬(肉の色が桜色など諸説あり)
表向きは「薬」として、あるいは「花」の名前で呼び変えて。
江戸の人々は、建前と本音を使い分けながら、ちゃっかり肉を楽しんでいたのです。
4.現代に息づく江戸の残り香
東京・両国には、今もその歴史を語り継ぐ店があります。
「ももんじや」
店の軒先には、今も猪のはく製が吊るされています。(※ヘッダー画像は、みんなのフォトギャラリーより使わせていただいた、「ももんじや」の看板の写真です)
高層ビルが立ち並ぶ現代の中で、
そこだけ時間が止まったかのような光景です。
私は、何度かこの店の前を通ったことがあります。
しかし、そのたびに思わずこう感じました。
「あれ、ここだけ江戸時代?」
5.食から見える、歴史の深み
「肉を食べる」という、現代では当たり前になった行為。
実は、日本人はもともとまったく肉を食べなかったわけではありません。
古代には、猪や鹿などの狩猟が行われ、肉を食べる文化も存在していました。
しかし、仏教の広まりとともに、
特に牛や馬といった家畜の肉は、
「食べるべきではないもの」とされていきます。
つまり、 「肉を食べない文化」は、あとから強まったものなのです。
そして、その文化の裏側には、
宗教、社会のルール、人々の知恵などが深く関わっています。
猪のテリーヌから始まった、小さな歴史の旅。
江戸の人々のしたたかさは、現代の私たちにも通じるものがあるのかもしれません。
さて、あなたならどう思いますか。「食べてはいけない」とされていた時代に、名前を変えて食べる。それはズルいのか、それとも知恵なのか。
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