#創作大賞【小説】オネエのいる結婚相談所、嘘からはじまる家族計画④
第4話 気まずい二人
「どうぞ」
マスターが焼きあがったピザとポテトをテーブルに載せる。ポテトからはトリュフソルトの香りが漂い、ピザは懐かしいパン生地のようなタイプだった。どこで仕入れているのだろう、などと考えながら口に運ぶ。胃が満たされていくうちに、先ほど仲人に取ってしまった失礼な態度が恥ずかしく思えてきた。
相談所では最初に見合い相手に会うとき(いわゆる初回お見合い)には、男性側が食事代(場所代があれば場所代も)をお支払いする、というルールがある。ここ最近男女平等がうるさくなってきて、割り勘の相談所も増えたようだが、基本的にはお見合いにかかる支払は男性もちである。朋香のように中途半端な条件をあげつらって、冷やかしのように男たちに会うのは、相手側からすれば時間と金の無駄だと言われても仕方ないことだったと冷静になってみれば理解できる。
いろいろ思い出してなんだか申し訳ない気持ちになった朋香は、ふと目の前のテーブルを見た。食べ物の入っていた皿が空になり、もう一杯飲もうかどうか迷う。もう落ち着いたし、そろそろ良いかなと思った朋香が席を立ち、店を出る前にお手洗いに向かおうとしたとき、自分と同じようにカウンターで飲んでいる見慣れた人影に気づいた。
「天川……さん?」
彼女が恐る恐る尋ねると、彼は嫌そうな表情を浮かべながら彼女を一瞥する。二人はしばし無言で見つめあっていた。
貴之はトイレから戻ってくると同時に、カウンターに見覚えのある人物が座っている事に気づいた。ピッタリしたニットに、タイトなスカート。男受けを擬人化したらこんな感じになるだろう、というような格好で彼女はカウンターに腰掛けている。カウンターの背後に向かって立っている貴之の姿は彼女からは見えないが、おそらく先ほど面談した春朋香で間違いなさそうだと思った。なぜこんなところで飲んでいるのかは知らないが、非常に気まずい。
カウンター越しに目が合った祐司に向かって彼は「黙ってろ」と言わんばかりに人差し指を唇に当てる。祐司は理由は分からないものの、貴之を見ないフリをしてくれた。春が彼のことを気づかないのなら様子を見ても良いのかもしれない。と思った貴之は、そのまま彼女の死角になるよう、L字型のカウンターの隅に腰掛けた。
ずっと彼女のことを観察していたが、特に婚活の愚痴が出るわけでも、何か言うわけでも無く、ただ黙々と酒を飲みつまみを口にしている。彼は親の敵のようにポテトを口に運び、ピザに食らいつく彼女の姿をただ黙って見守っていた。この女が何のためにゲイバーなんて場所に来ているのかは知らない。もしかしたら、しがらみの無い場所で息抜きしたかったのかもしれない。と貴之が思い至った時、席を立った彼女と目が合った。
しまった! 気づかれないうちに早く店を出れば良かった。――そんなことを思いながら、無意識のうちに顔をしかめていたらしい。カウンターの後ろの酒蔵に映った自分の顔を見て『ひどい顔をしてるわ』と彼は思った。
「天川さん?」
と声をかけられ、逃げ場が無くなった貴之は観念して頷いた。
つづく
