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新陳代謝の設計 #2|6割を捨てる、その「痛み」の正体 ─ 上位企業だけが知っている生存の物理法則

前回、私たちは「昨年と同じ」を繰り返すことが、組織にとっての「緩やかな死」であることを確認しました。
変わらないことは、安定ではなく腐敗であると。

では、組織が健全に呼吸し、生き続けるためには、具体的に「どれくらいの量」を代謝させればよいのでしょうか?
少しの手直し(マイナーチェンジ)でいいのか。それとも、もっと根本的な入れ替えが必要なのか。

ここで、経営と業務設計の世界における、ひとつの冷徹な「物理法則」を提示します。

生き残り、進化し続ける組織が維持している変化の比率。
それは、「6割」です。

「6割の法則」という衝撃

この数字を聞いて、多くの現場リーダーは息を呑むか、あるいは「無理だ」と首を横に振るでしょう。
「業務の半分以上を捨てろというのか? そんなことをしたら現場が回らなくなる」

しかし、データは残酷なまでに正直です。
継続的に高収益を上げ、市場で生き残り続けている上位企業のリソース配分を分析すると、彼らは「リソース(人・モノ・金)の60%以上を、常に動かし続けている」という事実が浮かび上がります。
• 成果の出ない事業からの撤退。
• 形骸化した会議体の廃止。
• 人員の大胆な配置転換。

彼らは、組織の半分以上を常に流動させ、新しい血を巡らせています。
逆に、リソースの入れ替えが「1割程度」に留まっている組織。つまり、前年踏襲率が90%を超えている組織は、例外なく「進化」が止まり、静かに負け戦へと向かっていることが分かっています。
なぜ、これほどの差が生まれるのでしょうか。
それは、「1割の変化」では、外部環境の変化スピード(エスカレーターの逆走速度)にすら追いつけないからです。
現状維持のための微調整は、変化ではありません。それは「誤差」です。
「6割」という数字は、組織が重力圏を脱出して、次の軌道に乗るために必要な「脱出速度」のようなものなのです。

ポンプ機能としての「破壊」

「6割も変えるなんて、現場への愛がない」
そう感じるかもしれません。

しかし、業務設計者の視点で見れば、これは「非情さ」ではなく、組織を生かすための「ポンプ機能」が正常に働いている状態です。

心臓をイメージしてください。
心臓は、体内の血液を絶えず送り出し、入れ替え続けています。
もし心臓が「今の血液に愛着があるから、送り出したくない」と言ってポンプを止めたらどうなるでしょうか?
血液は滞留し、酸素は届かず、身体(組織)は壊死します。

上位企業のリーダーたちは、このメカニズムを直感的に、あるいは論理的に理解しています。
だからこそ、彼らは心を鬼にして「変える」決断を下します。
うまくいっている事業であっても、あえて担当者を変える。
慣れ親しんだ業務フローであっても、あえて壊して作り直す。

それは、現場を混乱させたいからではありません。
「常に新しい酸素を送り込まなければ、組織は死ぬ」という物理法則への、深い畏敬の念があるからです。

「痛み」の正体をリフレームする

とはいえ、実際に「6割を変える(捨てる)」となれば、現場には強烈な「痛み」が走ります。
「慣れたやり方を変えたくない」「せっかく覚えたのに」という反発。
そして、リーダー自身も「申し訳ない」という罪悪感に苛まれます。

ここで重要なのは、その「痛み」の正体をどう定義するかです。

代謝が止まった組織において、変化の痛みは「喪失の痛み(怪我)」として捉えられます。
だから、みんなで痛みを避けようとし、結果として動脈硬化が進みます。

しかし、代謝が回っている組織において、変化の痛みは「成長痛(筋肉痛)」として定義されます。
筋トレをした翌日に筋肉が痛むのは、古い筋繊維が壊れ、より強く太い繊維に生まれ変わろうとしている証拠です。
「痛い」ということは、「効いている(代謝している)」ということ。

6割を変えるときに走る痛み。
それは、組織が次のステージへと脱皮しようとしている時にのみ生じる、「生きている証(バイタルサイン)」なのです。

「微調整」という逃げ道を塞ぐ

明日から、あなたのチームでも「新陳代謝」を始めてみませんか。

おそらく、最初は無意識に「1割の変化(微調整)」でお茶を濁そうとするでしょう。
「定例会議の時間を10分短縮しました」
「日報のフォーマットを少し変えました」

厳しいことを言いますが、それは代謝ではありません。ただの「化粧直し」です。
化粧を直しても、骨格は変わりません。

目指すべきは「構造的な入れ替え」です。
• その定例会議自体を、なくせないか?
• その日報を、自動化できないか?
• そのプロジェクトチームを、解散できないか?

まずは、あなたの手元にあるリソースの「6割」に、「廃止・変更」のタグをつけてみてください。
実際に全てを実行できなくても構いません。
「聖域なく、6割を疑う」という視座に立った瞬間、初めて見えてくる「無駄(脂肪)」があるはずです。

痛みを感じる設計者であれ

6割を捨てる決断は、痛いです。怖いです。
しかし、その痛みから逃げないことこそが、リーダーの、そして業務設計者の最大の責務です。

あなたが痛みを感じているなら、それは正しい。
あなたが「可哀想だ」と感じてブレーキを踏めば、その優しさは、数年後に「組織の死」という最悪の形で現場に降りかかります。

未来の生存のために、今の痛みを引き受ける。
それが、私たちが目指すべき「新陳代謝の設計」です。

次回は、そうは言っても「やめる」と言い出せない私たちのために。
個人の勇気に頼らず、システムとして業務を強制終了させる**「ブレーキ機能の実装」**について、具体的な設計論をお話しします。

(つづく)

【記事の誘導】
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