#業務設計者論|改善の裏にしくみを描く力
業務改善という言葉は、いまやどの職場でも聞かれるようになりました。
しかし、同じようなツールを使い、同じような改善活動をしているはずなのに、ある組織では定着し、ある組織では一過性のイベントで終わってしまう。
この違いはどこから生まれるのでしょうか。
私は、その分岐点は設計(デザイン)にあると考えています。
目の前の不便さを解消するのは対処ですが、その不便さが生まれる構造自体を書き換えるのが設計です。
今日は、私が実務の中で行ってきた具体的な改善事例をいくつか挙げながら、その裏側でどのようなしくみの設計を意図していたのか、少し解像度を上げてお話ししてみたいと思います。
事例①:Excelとシステムの平和条約を結ぶ
一つ目は、多くの現場で火種となりがちなExcel vs システムの問題です。
システム部門はデータを一元管理するためにデータベース(Webシステム)化を望みますが、現場は柔軟で手慣れたExcelを手放したがりません。ここで「Excelは悪だ、廃止しよう」と強行突破すると、現場の納得感は失われ、システムは敵になります。
私が設計したのは、入力と加工はExcel(現場の自由)、しかし承認と保存はシステム(組織の秩序)という、ハイブリッドな構造でした。
現場には、使い慣れたExcelをそのままインターフェースとして残します。
その代わり、承認ボタンを押すと、データだけが裏側でシステムに格納され、プロセスがロックされるように設計しました。
これは、現場の身体性(慣れ・自由度)と、組織の統制(データ保全)の、ちょうどいい妥協点を探る設計です。
どちらかを切り捨てるのではなく、それぞれの得意領域を接続することで、摩擦のない移行を実現しました。
事例②:迷わせないための引用と集約
二つ目は、入力負荷を下げるための設計です。
業務システムにおいて、最大のストレスは入力量ではなく迷う時間です。
あのデータはどこにあったっけ?コードは何番だっけ?と画面を行き来するたびに、人の思考は分断されます。
そこで徹底したのは、人間が記憶しなくていい設計です。
顧客名を選べば、関連する過去の取引や条件がすべて自動で引用される。
そして、判断に必要な情報は、画面遷移することなくすべてその一画面にある状態を作りました。
これは単なる時短ではありません。
入力という作業の負荷を極限まで下げることで、人間が本来やるべき判断や確認に脳のリソースを使ってもらうための設計です。
情報は、人が入力するものではなく、システムが提案し、人がそれを承認する形に変えていくのです。
事例③:デジタルの中に体温の居場所を作る
三つ目は、定性情報の扱いです。
システム化を進めると、どうしても業務が無機質になりがちです。
承認、却下というステータスだけでは伝わらない、あのお客様、最近少しお忙しそうですとか、この件、念のため電話入れておきましたといった、現場の微細なニュアンス(行間)がこぼれ落ちてしまうのです。
そこで設計したのが、業務フローと並走する申し送り(コメント)機能と、全体の動きが見えるタイムラインです。
単なるデータ処理の道具ではなく、そこに人の気配を感じられるようにする。
自分の仕事が今どこにあり、誰がボールを持っているのかが可視化されることで、孤独な作業がチームの仕事へと変わります。
システムの中に、人間らしいおしゃべりや気遣いが入り込む余白(スキマ)を意図的に残すこと。それが、長く使われるしくみには不可欠です。
設計とは、納得感の醸成である
こうして見ていくと、業務設計者の仕事は、単にツールを作ることではないとお分かりいただけるかもしれません。
私たちが作っているのは、なぜ、その業務をそうするのかという納得感です。
Excelを残すのも、自動入力を増やすのも、コメント欄を作るのも。
すべては、現場の人がこれなら自分たちの仕事が進めやすいと感じ、かつ組織としてもデータが正しく管理されている状態を作るための、パズルのようなものです。
改善の裏側に、しっかりとした構造(しくみ)を描くこと。
それが、一過性のブームで終わらせず、改善を組織の文化として根付かせるための、唯一の方法なのだと思います。
次回は、こうしたしくみを描く人=業務設計者という職能について。
なぜ今、この役割に名前を与え、定義する必要があるのか。その意味について考えてみたいと思います。
▼ 読後に効く処方箋
この記事を読んで、もし心に何かが引っかかったなら。
その「違和感」の正体に合わせて、いくつかの視点を処方しておきます。
💊 「正しさ」と「現場」の板挟みで苦しい方へ
システム側の正論もわかる。現場の痛みもわかる。その両方が見えるからこそ、動けなくなっていませんか?
その苦しみは、あなたが組織にとって不可欠な「翻訳機能」になり始めている証拠です。
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それは個人の能力ではなく、組織の「年齢」と「構造」の問題かもしれません。
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