染めないリーダーが、強い。 〜古代帝国とWBCに学ぶ束ね方〜
こんにちは。
株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。
先日、ある企業で課長職のみなさんと話していて、こんな相談を受けました。
「チームを一つにまとめたいのに、どうしてもバラバラになるんです」
よく聞いてみると、ベテランも若手もいる。時短勤務の方も、転職してきたばかりの人もいる。価値観も働き方も、見事にてんでばらばら。
だから「同じ方向を向かせよう」として、ルールを増やし、報告を細かくし、少しずつ自分の色に染めようとした。そうしたら、かえって空気がギスギスしてきた——。
すごく、わかります。
私も昔、同じことをやって、盛大にこけました。
「どうすれば、バラバラな人たちを一つに束ねられるのか」
実はこの問いに、二千年以上も前から人類が挑み続けてきた、壮大な実験場があります。
それが、「帝国」です。
今日はこちらの書籍からの学びシェアです。
🏛 「帝国=悪」は、あとから貼られたレッテル
「帝国」と聞いて、どんなイメージが浮かぶでしょうか。
映画『スター・ウォーズ』のダークサイド。皇帝がいて、圧政をしいて、人々を虐げる——だいたい、そんな感じだと思います。
私もそうでした。
ところが本書を読むと、その印象が気持ちいいくらいにひっくり返ります。
そもそも帝国とは、言葉も宗教も民族も違う人々を、一つにまとめて治めるための「統治のしくみ」だった。
「帝国=悪」というイメージは、実はわりと最近、近代になってから貼られたレッテルにすぎない、というのです。
言い換えれば、帝国とは、「多様性をどう束ねるか」という、壮大な組織マネジメントの実験だった。
そう聞くと、急に他人事じゃなくなってきませんか。
そして歴史は、この実験に、はっきりと一つの答えを出しています。
⚔ 15年で滅んだ帝国と、400年続いた帝国
中国で初めて天下を統一したのは、秦の始皇帝です。
万里の長城を築き、文字も、通貨も、ものさしの単位まで統一した。とんでもない実行力です。
けれど秦は、人々を法でガチガチに縛り、力ずくで一つの色に同質化しようとしました。
結果どうなったか。
始皇帝が死ぬと、わずか15年ほどで、あっけなく崩れ去ります。
一方、その後を継いだ漢は、各地のやり方をある程度そのまま認め、ゆるやかに束ねる方針をとりました。
すると、なんと約400年も続くのです。
力で染めた帝国は、短命。
ゆるさで束ねた帝国は、長命。
これ、そっくりそのまま、私たちのチーム運営の話だと思いませんか。
握りしめるほど、なぜか手からこぼれていく。
あの課長さんの悩みも、まさにこれでした。
なぜ私たちは、つい握りしめてしまうのでしょう。
ここで一つ、心理学の話を。
💡ちょこっと理論紹介💡
🎰 コントロール幻想
人は、自分ではどうにもできないことまで「コントロールできる」と思い込んでしまう——これを心理学では「コントロール幻想」と呼びます。
心理学者エレン・ランガーの実験では、宝くじを「自分で選んで買った人」は、ただ配られただけの人よりも、その券をずっと高く評価し、手放したがらなかったそうです。
当たる確率は、まったく同じなのに、です。リーダーが報告を増やし、ルールで縛りたくなるのも、これに近い。
「細かく管理すれば、思いどおりになるはずだ」という幻想です。でも、サイコロをいくらにらみつけても、出る目は変わりません。
握ろうとするほど、すり抜けていく。
なんとも皮肉な話です。
⚾ 栗山監督が、スターたちを「染めなかった」話
ここで、2023年のWBCを思い出してください。
あの侍ジャパンは、よく考えると、とんでもない寄せ集めでした。
メジャーの第一線で戦うダルビッシュ有、大谷翔平。日本のプロ野球で結果を出してきた猛者たち。そして、日本語より英語のほうが得意な、日系のラーズ・ヌートバー。
育った環境も、文化も、野球観もバラバラ。
普通なら、まとまらなくて当たり前です。
でも栗山英樹監督は、彼らを一つの型に「染めよう」とはしませんでした。
大ベテランのダルビッシュ投手を早めに合流させ、若手と自然に交わる場をつくる。あとは、それぞれの自主性に委ねる。
ヌートバー選手は、あの独特の「ペッパーミル」で、自分らしくチームに溶け込んでいきました。
もし力でまとめにかかっていたら、あの一体感は生まれなかったと思います。
多様なまま、ゆるやかに束ねた。
まさに、漢の400年型のリーダーシップでした。
実は、ビジネスの世界にも同じ知恵があります。
経営の神様・稲盛和夫さんの「アメーバ経営」です。
大きな組織を小さな自律したチーム、つまりアメーバに分け、それぞれに自分たちで考えて動いてもらう。中央が全部を握るのではなく、現場に任せる。
倒産寸前だったJALを再生させた力の、一つの源でした。
なぜ、任せると人は伸びるのか。
もう一つだけ、理論を。
💡ちょこっと理論紹介💡
🌱 自己決定理論
人のやる気は、「自律(自分で決められる)」「有能感(できるという感覚)」「関係性(つながっている感覚)」の3つが満たされたとき、内側からふつふつと湧いてくる——心理学者デシとライアンが提唱した理論です。
ポイントは、いちばん上に「自律」がくること。人は、誰かに決められて動かされるより、自分で選んで動くときに、ずっと大きな力を出します。
上から染められた人は、言われたことしかやらない。任された人は、自分の頭で考えて、勝手に走り出すのです。
🧭 「染める」より「束ねる」
ここまでの話を、明日からの現場に引き寄せてみます。
束ねるリーダーがやっていること
🎯 向かう先、つまり目的は、はっきり共有する
🤲 やり方は、できるだけ本人に委ねる
🌿 違いを、無理に消そうとしない
一方で、染めるリーダーは、こうなりがちです。
染めるリーダーがやりがちなこと
🚧 細かいルールと報告で、行動を縛る
🔁 「自分のやり方」を、全員に求める
😶 違う意見を、ちょっとめんどくさがる
おもしろいのは、「束ねる」ほうが、リーダー自身もラクになることです。
全部を握らなくていい。
サイコロの目を、にらまなくていい。
肩の力が、すっと抜けます。
🚗 ハンドルを、そっと渡す
実はいま、わが家でちょうど、この「手放す」練習をしています。
長男の運転免許の取得が、見えてきたのです。
最初は「駅まで送ってくれる人が増える、ありがたいなぁ」なんて、呑気に思っていました。
直後に、22歳以下・取り立ての自動車保険がびっくりするほど高いと知って、別の意味で震えましたが……それはまた別の話です。
でも、いざ自分が助手席に座る場面を想像すると、これがなかなかの修行でして。
ブレーキ、もう少し早くない?
そこ、寄せすぎじゃない?
今のタイミングで曲がる?
口を出したくて、うずうずする。
これ完全に、報告を増やしたくなる課長の心理とおんなじだな、と一人で苦笑しました。
たぶん、親も上司も、いちばん難しいのは「黙って任せる」ことなのだと思います。
握っていたハンドルを、そっと相手に渡す。
怖いけれど、そうしないと、相手はいつまでたっても、自分の力では走れるようにならない。
力で染めた秦は、15年。
ゆるさで束ねた漢は、400年。
長く強いものは、たいてい、いい意味で力が抜けています。
あなたのチームに、あるいはあなたの家庭に、「もう少し手放してもいいのかもな」と思える場面は、ありますか。
もしよければ、コメントでこっそり教えてください。
「ここは握りすぎてたかも」というエピソード、私もひそかに集めております。
収集癖です。
あなたの一つが、誰かの肩の力を抜くかもしれません。
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