ノカナのジャック【ダンジョン・第2話】 − 157
その衛士は、親父さんから研ぎの済んだ剣を受け取ると、
「親父、今日は非番なんでダンジョンへ行く。
物持ちに、この小僧を借りたい。」と、慣れた調子で言った。
親父さんは、頭を下げながら、
「へい。バカル様なら安心でさ。
どうぞ、よろしくお願いします。」 と応じた。
バカルと呼ばれた衛士は、 俺に小さな剣と、背嚢を買い与えてくれた。
研ぎ代と、剣と、背嚢。
それに俺への前払いを合わせて、 180バリイを、ポンと支払った。
ダンジョンというのは、 城の北へ2マイルほど行った先にある、 旧市街の別名だ。
ダンジョンへ向かう道を歩きながら、 辺りを見回しつつ、バカルは注意深く言った。
「人に聞かれたくない話をするなら、 ダンジョンが一番安全だ。
ヤバい狩りをする気はねえから、安心しろ。」
ダンジョン。
旧市街は、風向きによっては硫黄の匂いがきつくなる。
そのせいで、随分前から人は住んでいない。
そこに、いつからかカナクイドリが棲み着いた。
そしてそれを目当てに、野犬が集まるようになり、野犬は増えすぎると群れを作り、城下に現れる。
だから、野犬を殺して鼻先を切り落とし、役所に持っていけば、25バリイ。
だが、カナクイドリは、野犬なんかより、ずっと金になる場合がある。
名前のとおり、 あいつらはキラキラ光る物を飲み込み胃袋に溜め込む。
コインや指輪、真鍮の金具なんかが出てくる。
飛ばない鳥だが、足と首が長く、大物になると身長は3メートル近くになる。
簡単には狩れない、かなりヤバい鳥だ。
旧市街の住居跡に腰掛けると、ようやくバカルは表情を緩めた。
俺から水筒を受け取りながら、バカルは自分の話をしてくれた。
二十三歳。
去年から、ようやく衛兵になれた。
だが、レドゥビアは弓兵自慢の国だ。
剣士は、なかなか出世できない。
「衛兵隊長なんかじゃなく、もっと偉くなりてぇ。」そう言った。
俺も話した。
砲丸で儲けた金を元手に、レドゥビアへ出てきたこと。
武具屋で働きながら、チャンスを待っていること。
理由は分からないが、精霊と話が出来ること。(無論、秘密だ。)
そして、言った。
「笑われてもいい。 俺は名を上げて、 戦姫アルス様にお仕えして、英雄になりたい。」
バカルは、きょとんとした顔で口を開けたまま、
「えっ!?」と言った。
それから、急に真顔になったかと思えば、それから急に相好を崩した。
「オマエみたいな奴を探してた。
俺よりデカい夢を持ってる男に、初めて会ったぜ!」
その後、バカルは懐から、20センチほどの鞘に収められたナイフを取り出した。
「ジャック。 これを、どう見る?」
そのナイフの刀身はレドゥビアの鉄じゃなく、鞘が柄にぴたりと合わさっている。
細工の精度が、やけに高い。
「あれ……」
思わず、声が出た。
「何か分かったのか?」バカルが、興奮した声を上げて顔を近づけてくる。
刀身と柄の継ぎ目が、見当たらない。
― 魔弾と、同じだった。
精霊よ精霊よ
お願いだから、お前の力を見せてくれ。
そう、何度か祈ると、ナイフの刀身が紫色に光り始めた。
全体から、低い唸りが生じている。
俺はナイフをバカルに渡し、レンガの壁に突き刺してみるよう言った。
バカルが短刀を握りしめ、 石壁に刃を当てる。
すると、すっと刃が石壁に入っていった。 バカルが体重を預け、腕を横に振ると、レンガが切り裂かれ、ばらばらと床に落ちた。
「な、なんとぉ!」
驚くバカルに、俺は言った。
「それ、どこで手に入れたの? 宝具だよ。」
バカルがナイフを鞘に収めると、その宝具は唸りを止めた。
もう一度抜き、バカルがレンガの壁に刀身を当ててみる。
だが今度は、普通のナイフだった。
刃は弾かれ、壁に浅い傷がついただけだ。
「……なんだよ。 」
バカルはつまらなそうな顔をして、ナイフを俺に放ってよこした。
「オマエに預けとくわ。」
その宝具は、大物のカナクイドリの胃袋から見つかったという。
売り払おうにも、ナイフや短刀に大した値段はつかないらしい。
だからバカルは、武具屋で働く俺が、単にナイフがレドゥビア製かどうかを見極められるか、試したのだと言う。
「しかし、宝具とはな。
カナクイドリ狩りが、クセになりそうだ。」
しばらくは、そう言って喜んでいたが、やがてバカルは、本題を話し始めた。
「ジャック。 お前は武具屋で働きながら、 変な客がいないか探せ。
妙な武器。
レドゥビア製の鉄じゃない武具。
それと、精霊の気配もか…
危険は犯すな。
何かあったら、俺を尋ねて来い。」
そう言うバカルに、俺は言った。
「真名をかけて、精霊王に誓えるか? バカル。」
「誓おうジャック。
お前を、決して裏切らない。」バカルは、即答した。
「バカル。 俺には、何もない。
だから、これを好きに使ってくれ。」
俺は、レドゥビア鉄で儲けた全て ―
金貨六枚を、バカルに渡した。
* * *
住居跡を出ると、日が傾いていた。
バカルが「今日は狩りは無しだな。」と言った、その時だった。
旧市街のシンボルだという石塔や大きな木の周りに、カラスが集まってくるのが見えた。
「バカル、見て!」何羽かのカラスが、夕陽を ― キラっ、キラっ……と弾いて光っている。
「レドゥビアのあちこちから、
カラスが巣に光る物を持って帰るんだ。」
「なるほどな。それが落ちたりしたのを、カナクイドリが飲み込むってわけか。」今まで、そんなことは考えもしなかったとバカルは感心しながら、
「次は、塔や大木の周りを縄張りにしてるカナクイドリを狙おう。」と言った。
「バカル、あんた凄腕ハンターになるつもりかい?」俺がそう言うと、バカルは少し考えてから、笑った。
「成り上がれなかったらな。
その時は付き合えよ。」そう言うバカルに、首を振りながら答えた。
「俺がアルス姫に会えないって、
諦めるまで待ってくれ。」
そう言うと、バカルはまた、笑った。
続きます。
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成り上がれジャック!
ノカナのゴミ捨て場スラムから
