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60代のリアル|第42話:【実録・介護の崖っぷち】両手も心もボロボロに。「もう仕事を辞めたい」限界を迎えた金曜日


前回までのあらすじ

初めての介護医療院の見学を終え、私は自宅でパソコンを立ち上げました。退院調整看護師さんへ「面談の状況をご連絡します」と自分から伝えていたため、報告メールを送るためです。

事務職のスキルを活かし、相手が必要とする情報を美しく箇条書きに整えて送信した私。しかし、そこへ並べたのは「高度医療は行わない」「食事ができなくなったときの選択肢」という、母の命に直結する重い事実でした。

翌日の夕方に届いた返信は、「面談の報告ありがとうございました。」という、あっさりとした業務的な一言。病院側との埋まらない温度差に、私は不思議な寂しさを覚えました。

本当の重い宿題はまだ始まったばかり。追い詰められた私が思わず口にした「ある本音」に対し、母から返ってきたのは、私の心を粉々に砕くような思いもよらない一言だったのです――。



5月22日(金)退勤時間一時間前

オフィスの時計を見上げながら、私は文字通り、心身ともに「崖っぷち」に立っていました。

母の介護や病院の手続きのために毎週のように休みをいただいていたツケは、すべて私のデスクに跳ね返ってきていました。

仕事は溜まりに溜まり、どれだけ残業を重ねても、全くと言っていいほど追いつかない。焦りと疲労から、普段なら絶対にしないような小さなミスを連発するようになっていました。

幸い、提出前の事前確認を人一倍徹底しているため、誰にも気づかれる前に自分で修正することはできていました。

しかし、その「ミスをしては自分で直す」という水面下の自転車操業が、さらに私の精神をすり減らしていきます。

それだけではありません。

体もとっくに悲鳴を上げていました。 キーボードを叩き続ける両手は、もう限界を迎えていたのです。

重度の腱鞘炎により、左手の手首はまるで「こぶ」のように痛々しく腫れあがり、右手の手首には内出血のような赤黒い痣(あざ)ができていました。

(もう、2名体制にしてもらえる見込みもない。両手もボロボロ……。これ以上、どう頑張ればいいの?)

画面を見つめる視界が、一瞬、悔しさと情けなさで歪みそうになります。

「もう、仕事を辞めたい」 その切実な本音が、胸の奥から止めどなく溢れ出して止まりませんでした。



5月23日(土)母との面会

心に重い澱(おり)を抱えたまま、翌日、私は母の入院先へと面会に向かいました。

病室に入ると、母はベッドの上で静かに眠っていました。疲れ切った私の心に、静まり返った病室の空気が冷たく染み渡ります。

私はそっとベッドに近づき、眠る母の顔を覗き込みました。

「お母さん、来たよ。どうですか?今日のお昼は食事できたの?」

声をかけても、母はひどく眠そうな様子で、うっすらと目を開けるものの、何も答えてはくれませんでした。

意思疎通すらままならない母の姿を前に、私の心には、昨日から続く「仕事を辞めたい」という張り詰めた思いが、さらに重くのしかかっていました。

この静まり返った病室で、私の限界を迎えた本音がこぼれ落ちたとき、まさか母からあんな言葉が返ってくるなんて、この時の私はまだ知る由もありませんでした――。

つづく


第43回はこちらです。↓


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