60代のリアル|第54話:【実録・介護の崖っぷち】「本当に母のため?」葛藤のなかで押した送信ボタン──終わらない施設探しと、夜遅くの割り切れない想い
前回までのあらすじ
突然の体調不良から夜中に緊急入院となった母。病名は「尿路感染症」でした。
「延命治療をするか、しないか」
という重い決断を迫られるほどの緊迫した状態でしたが、
母は驚異的な生命力で危機を脱してくれました。
しかし、今回の入院によって、それまではできていた「立ったり座ったり」の動作さえもできなくなってしまいます。
病院にいられるのは最長で3ヶ月。期限が来れば、次の施設が決まっていなくても退院を迫られます。
そうなれば、動けない母を家に連れて帰り、私ひとりで介護するしかありません。それは現実問題として、あまりにも無理があることでした。
長期で預けられる「特養」を望んだものの、
「地元ではバルンカテーテルが入っていると受け入れ可能な特養はゼロ」
という非情な現実を突きつけられます。
有料老人ホームよりは費用を抑えられ、医療が充実している「介護医療院」へ希望を託したものの、なんと地元の区には1件もありませんでした。
地域格差という厚い壁に直面しながらも、他区の施設を必死にピックアップ。どこも「新規受け入れ停止」や「3ヶ月待ち」と一様に厳しい回答ばかりでしたが、諦めずに動き続け、なんとか2つの介護医療院との面談まで漕ぎ着けました。
2つ目の介護医療院から質問があると退院調整看護師さんからメールをいただき、電話をすると母の出身地などを聞かれ、私は今それは必要なことなのかと疑問に思いました。
6月4日(木)夕方
私のスマホに、病院の退院調整看護師さんから一通のメールが届きました。
画面を開き、そこに並ぶ文字を目にした瞬間、指先がすっと冷たくなるような感覚を覚えました。
メールの内容は、このようなものでした。
「現在、介護医療院を2箇所待っている状態ですが、そのうちの1箇所は受け入れまでの待機期間が長くなりそうな状況です。 つきましては、できれば他の介護医療院も新たに視野に入れてご相談させていただきたいのですが、検討いただけますでしょうか?」
地域格差の壁にぶつかりながら、他区にまで必死に目を向けて、ようやく漕ぎ着けた2箇所の面談。どちらかで決まってほしいと祈るように待っていたのに、「1箇所は厳しい」という非情な報せでした。
最長3ヶ月という退院のタイムリミットは、容赦なく一日ずつ削られています。
もしこのまま期限が来てしまったら、動けない母を家に連れて帰り、私一人で介護するしかなくなってしまう。それは現実問題として、あまりにも無理なことです。
「簡単に言ってくれるけれど、医療体制が整っていて、費用も抑えられる都内の介護医療院なんて、もう他に選択肢は残されているの……?」
仕事中、頭の片隅にずっとその焦りが焦げ付いたまま、落ち着かない時間を過ごしました。
6月4日(木)帰宅後の夜
夜、帰宅してから、ようやく落ち着いてパソコンを開きました。
都内にある病院併設の介護医療院は、確かもう調べ尽くしたはず。そう思いながらも、何か見落としがないか、必死に画面をスクロールして検索を繰り返しました。
暗闇を手探りで進むような作業の末、夜遅くなって、なんとか新しく2つの施設を見つけ出しました。
1つは、病院が別の場所にあり、建物としては併設されていない介護医療院。 もう1つは、画面越しにも、かなり老朽化が進んでいそうなことが伝わってくる建物の病院併設の介護医療院。
どちらも、心から「ここなら安心」と思えるような、前向きになれる選択肢ではありませんでした。
正直、あまり気乗りはしません。けれど、立ち止まっている時間は1秒もないのが現実です。
時計の針は、すでに夜遅い時間を指していました。
重いため息を一度つき、私はあまり気乗りしないその2つの情報を手に、退院調整看護師さんへの返信メールを書き始めることにしました。
「本当に、この選択肢は母のためになるのだろうか?……」
画面を見つめながら、割り切れない不安と申し訳なさが胸を締め付けます。 けれど、タイムリミットという冷酷な現実が、私の背中を容赦なく押し進めていくのです。
これが正解なのか分からない。それでも動くしかない。 そんな祈るような、すがるような複雑な想いを抱えながら、私は夜静まり返った部屋で、そっと送信ボタンを押しました。
つづく
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