60代のリアル|第53話:【実録・介護の崖っぷち】外は大嵐、中はトイレ難民。文字通り「内も外も崖っぷち」の職場で、嵐の日のハプニングが幕を閉じるまで
前回までのあらすじ
台風が直撃した6月3日の朝。激しい雨風の中、なんとか職場に到着したものの、排水制限によって「地下1階以外のトイレがすべて使用禁止」という異例のハプニングが発生していました。
誰もが地下まで足を運ぶため、フロアが慌ただしくなった午前10時過ぎ。
私は前日から持ち越していた「宿題」である、二つ目の介護医療院へリベンジの電話をかけました。
無事に担当者へと繋がり、母の受け入れに関する前向きな医療ケアの確認だろうと胸を弾ませた私。
しかし、受話器の向こうから飛び出してきたのは、
母の「出身地」「結婚年齢」「学歴」「職歴」といった、
現在の状況とはおよそ関係のない、予想外の個人的な質問ばかりでした。
釈然としないまま質問に答え終えた私は、切羽詰まった現状とのギャップに奇妙な違和感とモヤモヤを抱えながら、再びあの騒がしいフロアへと戻るのでした。
6月3日(水)11時過ぎ
介護医療院からの、あの腑に落ちない質問攻めにモヤモヤしたものを抱えながらフロアに戻ったものの、職場の混乱はさらに加速していました。
午前11時を過ぎる頃には、地下1階のトイレを目指す人が各階から続出。ビル全体が完全にキャパシティ(受け入れ能力)をオーバーし始めていたのです。
台風の日のエレベーター難民
何より事態を深刻にしていたのは、エレベーターでした。
ただでさえ各階に停止するうえに、運悪くこの時期、ビルでは老朽化したエレベーターの改修工事が行われていたのです。複数あるうちの1機が完全にストップしている状態だったため、普段から「エレベーター難民」が多発しているような状況でした。
そこへ来て、この全館を巻き込んだトイレパニックです。
ようやくやってきたエレベーターの扉が開いても、中はすでに上の階から乗ってきた人たちでギューギューの「満員御礼」状態。
乗るのを諦めて次の便を待つ人、仕方がなく階段に向かう人など、フロアはさながら駅のラッシュ時のようでした。
地下1階では
なんとか満員の隙間に滑り込み、やっとの思いで地下1階にたどり着いたものの、そこでもさらなる試練が待っていました。
「……うそ、こんなに並んでるの?」
目に入ってきたのは、トイレの外まで長く伸びた行列でした。
並んでいる人たちの間からは、
「いつになったら復旧するんだろう……」
「仕事に戻れないよね」
といった、困惑と焦りの混じった声がちらちらと聞こえてきます。
外は記録的な大嵐、ビルの中はまさかのトイレ難民。文字通り、内も外も「崖っぷち」のような状況に、誰もが疲弊していました。
用を済ませ、自席へ戻る道中も一苦労です。
帰りもやはりエレベーターは混雑を極めており、何度も見送った末に、やっとの思いで自分の職場のフロアへと帰還しました。
席を外してから戻るまでに、一体どれほどの時間を費やしてしまったことか。ただトイレに行くだけで、まるで一大イベントを終えたかのような、どっとした疲労感が押し寄せてきました。
雨音が落ちつてきて
それからしばらく経った頃でしょうか。 窓の外を叩きつけるように激しかった雨の音が、少しずつ、心なしか落ち着いてきたように感じられました。
そのとき、不意にスピーカーからピンポンパンポン……とチャイムが響き、防災センターからの館内放送がフロアに流れました。
『──先ほど制限がかかっておりました各階のトイレですが、排水の安全が確認されましたので、ただいまをもちまして、すべて復旧いたしました。通常通りご使用いただけます』
「あぁ、よかった……!」
フロアのあちこちから、小さく安堵のため息が漏れるのが分かりました。
これでわざわざ満員のエレベーターを待つことも、地下の長い行列に絶望することもない。時間を気にせず、いつでも自分のフロアのトイレに行ける。
張り詰めていた緊張が、その放送一本でふっと解けた、まさにその瞬間でした。
つづく
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