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60代のリアル|第40話:【実録・介護の現実】母が重ねた病の歴史。プライバシーのない4人部屋、目で見て分かった介護医療院の日常。


前回までのあらすじ

初めて訪れた介護医療院の会議室で、私は「延命措置は行わない」「食事ができなくなったときの栄養補給」という、母の命に直結するあまりにも重い選択肢を提示されました。

すぐには答えを出せず、その宿題を実際の入院時まで持ち帰ることに決めた私は、重い動揺を胸に秘めたまま、次の一歩を踏み出しました。



5月21日 一つ目の介護医療院にて

一通りの説明が終わり、張り詰めた空気の中で私が小さく息を吐いたのも束の間、担当者の方から静かに告げられました。

「では、こちらからも幾つか質問があります」

ここからは、母の現在の状況についての確認でした。 今の病院での生活ぶりやこれまでの既往歴、お薬のアレルギーの有無など、次々と質問に答えていきます。

私は、この日のために事前に用意していた「母の既往歴をまとめたメモ」と「かかりつけ医の情報」の資料を開き、それを見ながら一つひとつ丁寧にお話ししました。


▼介護医療院への提出書類

・介護保険証のコピー
・介護保険負担割合証のコピー
・後期高齢者医療資格確認書のコピー
・障害者手帳のコピー
・母の既往歴をまとめたメモ
・かかりつけ医の情報
・使用してはいけないお薬のリスト
・ケアマネジャーさんの連絡先
・食物アレルギーの有無
・おくすり手帳のコピー

▼かかっている科

内科      :高血圧
消化器内科   :逆流性食道炎、大腸憩室症
代謝内科    :甲状腺異常
整形外科、麻酔科:変形性膝関節症、腰部脊柱管狭窄症、肩の痛み、
          骨粗鬆症
泌尿器科    :尿の菌を検査
精神科     :せん妄のような症状
婦人科     :子宮脱
眼科      :白内障、緑内障
歯科      :歯の汚れ除去
皮膚科     :変形した爪を切ってもらう為
耳鼻咽喉科   :耳の痛み

手元の資料に並ぶたくさんの科の文字を追いながら、母がどれほど多くの不調を抱え、必死にそれらと付き合ってきたのか、その苦労の歴史が目の前に一気に広がっていくようでした。

ひと通りの聞き取りが終わると、
「それでは、中をご案内しますね」
と、病院内の見学へ向かうことになりました。



院内の見学

実際に足を踏い入れたその場所は、まさに「療養の場」そのものでした。 ベッドで過ごされている殆どの方が、寝た切り状態のように見えました。

案内された4人部屋では、ベッドごとのカーテンが開いたまま平行に並んでいます。

そのため、隣のベッドとの間隔がかなり狭く、お互いの様子がどうしても目に入ってしまいます。

(ああ、ここではプライバシーを守るのはなかなか難しいのかもしれないな……)
そんな率真な思いが、頭をよぎりました。

建物の内装自体も、お世辞にも新しいとは言えず、かなりの古さを感じさせます。

しかし、床や窓枠など隅々まで掃除が実に行き届いており、とても清潔感があることには好感が持てました。

また、車椅子の方がすれ違うときでも通りやすいように、廊下の幅がゆったりと広く作られているのも印象的でした。

ふと見ると、その広い廊下の壁に、入所者の方々のイベントの写真が何枚か飾られていました。

案内してくださる方が
「これが一番最近のイベントのものです」
と教えてくれたのは、節分のときの様子の写真でした。

ただ、セキュリティや個人情報保護の観点からでしょうか、写真に写っている皆さんの顔には、一枚一枚丁寧にシールが貼られて、お顔が隠されていました。

そのシールで隠された笑顔の向こう側にある、ここでの本当の暮らしに思いを馳せながら、私は静かに廊下を歩き続けました。



介護医療院のリアルな日常

一歩足を踏み入れなければ決して分からなかった、介護医療院のリアルな日常。古いけれど行き届いた清潔さの中に、寝た切り状態の現実とプライバシーの難しさが混在するその光景は、私の胸にまた新しい波紋を広げていきました。

重い宿題を抱え、目の前の現実をこのしっかりと目に焼き付けた私は、こうして初めての施設見学を終えました。

しかし、一息つく間もなく、私の足はすでにつぎの行動へと向かっていました。

この日見て、聞いて、感じたすべてを胸に、私がこの後に選択した「次の一手」とは――。

つづく


第41回はこちらです。↓


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