60代のリアル|第63話:【実録・健康診断のSOS】体重測定で言葉を失った瞬間。ちゃんと食べていたはずなのに、まさか、40kgを割り込んでいるなんて……
前回までのあらすじ
社用での外出を控え、前日からのしわ寄せを解消するために早朝から出社した木曜日。
正社員の方が来るのを待って事務所の鍵を開けてもらい、猛ダッシュで資料を作成してダブルチェックを済ませ、なんとか外出を乗り切りました。
しかし、戻ってきた私を待っていたのは
「手作り請求書60件」と
「監査用伝票の整理」という無謀な事務作業。
課長から『2名体制はできない』と言われ、
誰にも頼れない孤独な状況の中、
翌日の休暇に向けた引き継ぎ作業も含めて、
限界ギリギリのスケジュールを一人で必死に乗り切ったのです──。
6月12日(金)
前日の無謀な事務作業と引き継ぎをなんとか一人で乗り切り、泥のように眠った翌朝、私は「健康診断」の日を迎えました。
ボロボロの体調で受ける、心の中での通称『不健康診断』。 その予約表には、朝の9:00からと記載されていました。
しかし、毎年の経験から、その通りの時間に行けば受付が激込みになることは火を見るより明らかです。
「今年も少しでも早く終わらせるために、先手を打とう」
そう考えた私は、1時間前には現地に着くように家を出ました。 病院の受付に到着したのは、狙い通り朝の7時58分。9時からの予約に対して1時間以上も早い到着です。
(よし、これならさすがにスムーズに進むはず……)
そう思いながら中に入ると、目の前の光景に思わず心の中で絶句しました。 受付の前には、私と同じように「激混みを避けよう」と考えたであろう人たちが、思った以上にたくさん詰めかけていたのです。
みんな考えることは同じなのだと、苦笑いするしかありません。
私はすぐに受付の番号札をとりました。
まだ診察の始まっていない静かで広い待合室。壁に設置されたテレビモニターの前の椅子に腰を下ろし、自分の番号が呼ばれるのをじっと待ちます。
時計の針が8時10分を指した頃、ようやく私の番号が呼ばれました。
受付へと進み、マイナンバーカードでの本人確認と事前に記入してきた問診票を提出します。
「お名前をお呼びするまで、あちらの椅子でお待ちください」
次に呼ばれるのは、検査着に着替えるためのロッカーへの案内です。よし、これでようやく進むぞ……と思ったのですが、ここからがまた長かったのです。
どうやらこの病院では、防犯やスムーズな誘導のためか、ロッカーへは一度に何人かをまとめて案内する仕組みになっているようでした。
しかも、女性エリアへの案内は「少なくとも2名以上」が揃わないと動かないシステムだったのです。
ふと周りを見渡すと、男性の受診者はかなり待っている人が多いようで、次から次へと名前が呼ばれてロッカーへと案内されていきます。
しかし、この日のこの時間、女性の受診者はなんと私しかいませんでした。
(これじゃあ、もう一人女性が来ないと私はずっと動けないの……?)
早く終わらせるために1時間も前に家を出て、7時58分には到着していたというのに、システムの壁に阻まれてただ時間が過ぎていく。 結局、もう一人の女性受診者が現れて、私の名前が呼ばれたのは8時35分のことでした。
前日のあのクタクタな大忙しの状態から、ようやく辿り着いた休日の朝。すでに足の裏や肩に重い疲れが残っているのを感じながら、私はようやく手渡された鍵を握りしめ、ロッカー室へと向かったのです──。
健康診断
ようやく名前が呼ばれ、案内されたロッカーで検査着に着替えてからは、検尿、血液検査、血圧測定と、驚くほどスムーズに進んでいきました。ここまでは毎年の見慣れた光景です。
しかし、次にやってきた身長・体重測定のブースで、私は文字通り言葉を失うことになります。
カチッと音がして表示された体重の数字は、39.7kg。 昨年の測定では42.4kgだったはずです。つまり、1年で2.7kgも落ちていたのです。
(えっ……40キロを割っている……?)
私の記憶をどれだけ遡っても、体重が40kg以下になったのは、学校を卒業して就職したばかりで、仕事が猛烈に忙しかった頃に37kg台まで落ちて以来のことです。それから何十年もの間、一度だって40kgを割ったことなどありませんでした。
頭の真ん中が冷たくなるような衝撃の中で、心の中の声がぐるぐると渦巻きます。
(どうして? 母が入院してからも、私は私の分をちゃんと用意して、ちゃんと食べていたはずなのに……)
私はもともと身長が低く、小柄な体型です。そのため、普段から体重自体は軽い方なのですが、それでも40kgの大台を割り込むというのは、私にとって全く別次元の話でした。
自覚がないことほど恐ろしいものはありません。
「食べている」と思っていても、
日々の介護の心労、
施設探しへの焦り、
そしてあの職場の終わらない雑務のストレスが、私の体を確実に削り取っていたのです。
まさに『不健康診断』という自虐が、笑えない現実として目の前に突きつけられた瞬間でした。
「あの……体重が昨年よりもかなり減っているのですが……」
戸惑いを隠せないまま看護師の方に告げると、その方は少し心配そうな顔をして「もう一度、測り直してみますか?」と言ってくれました。
しかし、機械の故障ではないことは自分が一番よく分かっています。測り直したところで、変わってもせいぜい0.1kg程度でしょう。現実から目を背けても仕方がありません。
「いえ、大丈夫です。このままで結構です。」
私はそう答えて、静かに測定器を降りました。
自分の体のSOSを数字で突きつけられ、なんとも言えない重い気持ちを抱えたまま、残りの検査へと進むことになったのです──。
自分のことで精一杯になりそうな心の揺れをなんとか抑え込み、残りの検査メニューを消化していきました。
なんとか健康診断を終えて自宅に戻り、少し落ち着いた時間を迎えていた夕方18時過ぎのことです。
スマートフォンの画面に、退院調整看護師さんからの「1通のメール」が着信しました。それは、母の転院先をめぐる新たな展開の始まりを告げる通知だったのです──。
つづく
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