見出し画像

60代のリアル|第64話:【実録・介護の崖っぷち】病院側との埋められない温度差。早く退院させたい病院側と、母の今の状態に本当に合った場所を探したいという切なる願い


前回までのあらすじ

前日の無謀な事務作業の疲れを引きずりながら、休暇を利用して健康診断へと向かった金曜日。

少しでも混雑を避けようと1時間前に受付へ到着したものの、病院のシステムの壁に阻まれてもどかしい待ち時間を過ごすことになります。

ようやく始まった検査の中で、私は身長・体重測定の数字に言葉を失いました。ちゃんと食べていたはずなのに、昨年の42.4kgから39.7kgへと激減し、何十年ぶりかに40kgの大台を割り込んでいたのです。

自覚のないまま心身に忍び寄っていた限界のサイン。

その重い余韻を抱え、長い一日がようやく終わろうとしていた夕方18時過ぎ、スマートフォンの画面に退院調整看護師さんからの「1通のメール」が着信したのです──。



6月12日(金)お昼少し前

なんとか午前中に全ての検査を終え、私がお昼少し前に帰宅したとき、体はすでに別の戦いを迎えていました。

胃の検診で飲んだバリウムと、その後に渡された下剤です。

家に着くや否や猛烈にお腹が痛み出し、私はすぐにトイレへと駆け込みました。毎年のことながら、私はどうにもこの下剤が効きすぎてしまう体質のようです。その後も断続的に襲ってくる痛みに耐えながら、何度も何度もトイレを往復することになりました。

「バリウムを早く排出するために、水分をたくさん取ってくださいね」

看護師さんの言葉を思い出し、普段はあまり進んで水分を取らない私ですが、この日はとにかく必死にお水を口に運びました。

お腹の痛みと、慣れない保水。前日の猛烈な仕事の疲れに加えて、自分の体のSOS(39.7kgという数字)を見たショックも冷めやらぬまま、私はただただ自宅で体力を削られるような午後を過ごしていたのです。


そんな風にトイレと部屋を往復しているうちに、時間は夕方の18時を回っていました。

6月のこの時間、窓の外はまだまだ昼間の明るさを残していましたが、私の体の方はようやく下剤の嵐が落ち着き、居間で一息つけるようになったところでした。

少しお腹の痛みが和らぎ、ふとスマートフォンの画面に目をやったそのときです。

画面には、転院に向けて奔走してくださっている、あの病院の退院調整看護師さんからのメールが表示されていました。

(あ、看護師さんからだ……!)

ゴクリと息をのむ音が、静かな部屋に響くようでした。

一刻も早く次の場所を見つけなければならないという焦りの中で、私は祈るような気持ちでそのメールを開いたのです──。



退院調整看護師さんからのメール

メールに書かれていたのは、候補に挙がっていた1つ目の介護医療院から「受け入れ可能」との連絡があった、という知らせでした。

(あそこが、受け入れてくれる……!)

待ち望んでいたはずの報せでした。それなのに、私の心には不思議なほど喜びの感情が湧いてこなかったのです。

もちろん、費用の問題は大前提として重くのしかかっていました。けれど、それ以上に私の胸を締め付けたのは、別の大きな不安でした。

介護医療院に移るということは、これまでの病院のような高度な医療ケアは受けられなくなることを意味します。

もしそこに入院すれば、母は今よりもさらにだんだんと衰弱し、動けなくなっていってしまうのではないか……。そんな恐ろしさが、頭をよぎって離れなかったのです。

病院側としては、とにかく1日でも早く次の場所を決めて退院させたいという思惑があるのでしょう。

しかし、患者の家族としては、単に費用が収まるかどうかだけでなく、何よりも「母の今の状態に本当に合った施設に入所(入院)してほしい」と切に願っています。

その間に横たわる、あまりにも大きな「温度差」に、私は目眩(めまい)がするような孤立感を覚えていました。

画面を見つめたまま、私はしばらく指を止め、迷った末に短い返信を打ち込みました。

『ご連絡ありがとうございます。転院するまでに準備しなければならないものもありますので、よろしくお願いします』

送信ボタンを押したあと、私はスマホをベッドに放り出しました。

それは、私の本心とはかけ離れた、あまりにも不本意なメールでした。けれど、今の私にはこうして波風を立てずに、現実を一つずつ受け止めて進むことしかできなかったのです──。

つづく


第65回はこちらです。↓


最初から読みたい方はこちらからどうぞ


いいなと思ったら応援しよう!