60代のリアル|第65話:【実録・介護の崖っぷち】利益率の確保とベッドの回転。透けて見える病院側の効率優先に覚えた憤り
前回までのあらすじ
健康診断の疲れが残る金曜日の夕方、退院調整看護師さんから「1つ目の介護医療院で受け入れ可能(ただし順番待ち)」というメールが届きました。
待ち望んだはずの報せ。
しかしそこには、早く退院させたい病院側と、母に合った場所を探したい家族側との、埋められない大きな「温度差」がありました。
高度な医療は受けられなくなり、だんだん衰弱していくかもしれないという不安を抱えながらも、私は本心とは裏腹に、大人の対応として短い承諾の返信を送ったのです──。
6月15日(月)
不本意ながらも「よろしくお願いします」と返信したあの金曜日から、週末を挟んだ6月15日の月曜日のことです。退院調整看護師さんから、次なる打診のメールが届きました。
そこに書かれていたのは、あまりにも唐突な要求でした。
『受け入れ可能となった介護医療院ですが、つきましては6月22日(月)〜26(金)の間で、手続きや転院にあたってご都合のいいお日にちを教えてください』
メールの文字を見た瞬間、私は自分の目を疑いました。
先日のメールでは、確かに「順番待ちの状態」と書かれていたはずです。それなのに、もう来週のピンポイントな日程を指定してくるなんて。
(そんなに早く追い出したいの……?)
現在入院中の病院側としては、少しでも早くベッドを空けて回転率を上げ、経営の利益率を確保したいという思惑があるのかもしれません。
けれど、医療や介護とは、そんな風に効率だけで片付けていいものなのでしょうか。 あまりのスピード感に、私の心は完全に置き去りにされていました。
それに、私自身、転院に向けて何一つ準備ができていませんでした。 一体何を用意すればいいのか、何から手を付ければいいのか、頭の中が真っ白になってしまい、考えることすらできなくなっていたのです。
追い打ちをかけるように、指定された「6月22日〜26日」という時期は、私にとって最悪のタイミングでした。
私のパート事務の仕事は、月末から月初にかけてが最も忙しい繁忙期です。
そこにあるのは、どれも「私にしか分からない、代わりのきかない作業」ばかり。この時期にまとまった休みを取るなど、到底不可能なことでした。
かといって、職場の課長にすべてを正直に話して相談すれば、問題が大きくなって余計にややこしいことになるのは目に見えています。仕事に穴は開けられない、でも母の転院も迫っている。
私は追い詰められた末に、必死の思いでこう返信しました。
『大変申し訳ありません。月末月初は仕事の都合でどうしても休むことができません。勝手を言って申し訳ありませんが、7月7日(火)〜9日(木)のいずれかの日程でお願いできませんでしょうか』
これが、当時の私が必死にひねり出した妥協案でした。
けれど、送信ボタンを押した指先が微かに震えるのを感じながら、私は心の底から思い知らされていたのです。
仕事、母の介護、病院との交渉。これらすべてを一人で抱え込み、一人で決断していくことには、やはり無理がある。万が一、私が倒れたらどうなってしまうのだろう……。
そんな消えない不安を抱えたまま、翌日、あの冷酷なメールが届くことになるとは、この時の私はまだ知る由もありませんでした──。
つづく
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