60代のリアル|第36話:【実録・介護の崖っぷち】ストリートビューの情報は古い?実際に歩いて知った、4年の歳月で変わった景色。極度の方向音痴だからこそ、面談当日のパニックを防ぐための徹底的な準備
前回までのあらすじ
休んだせいで引き継ぎボックスにドッサリと溜まった書類の山を、私は必死に片付けていました。
ひと段落がついた頃、私は席を立ち、緊張しながら介護医療院への面談予約電話をかけに行きました。
ようやく1件目の予約を取り付け、その面談日程を病院の退院調整看護師の方へメールで報告すると、「連絡待ちだったもう1つの施設からも面談予約をとってください」と退院調整看護師さんからの返信メールが届いていました。
ホッとする間もなく、翌日にもう1つの施設へ電話を入れると、無事に日程は決まったものの、電話口の担当者から予想もしない一言を告げられたのです。
「こちらの施設は入り口が3箇所に分かれているので、間違えないでお越しくださいね」
ただでさえ極度の方向音痴な私です。母のために絶対に遅れられない大切な面談を前に、私の心には大きな不安が膨らんでいくのでした。
5月16日(土)、夜
母のための絶対に遅れられない大切な面談。当日になって道に迷い、焦ってパニックになることだけは、何としても避けなければなりませんでした。
私は異常なほどの方向音痴です。初めて行く場所へ向かうのは、それだけで大きなプレッシャーでした。
「当日困らないように、事前に現地の下見に行こう!」
そう心に決めた私は、下見前日の5月16日の土曜日、自宅のパソコンの前で念入りな情報収集を始めました。
まずはGoogleマップを開き、最初に面談予約を入れた施設への地図の確認とルート検索。
そして、実際の街並みがわかるストリートビューを表示させてみました。
画面をスクロールしながら現地の様子を必死に確認しますが、画面の隅にある文字を見て、私は思わず動きを止めました。
画像の撮影時期が「2022年」になっていたのです。
「うーん、これじゃあダメかも……?」
画面に映る工事中の場所を見つめながら、私はため息をつきました。これだけ月日が経っていれば、工事はとっくに終わって、周りの景色もガラリと変わっているはずです。
ストリートビューに写る建物や看板をあてにして歩いたら、かえって迷子になる原因になりかねません。
「これは目印にはならない」と、私は画面を頼るのを諦めました。
それでも、自分の足で歩いて確かめなければならない事実に変わりはありません。
私は気を取り直して、当日乗る予定の地下鉄の時間を確認し、ノートにしっかりと書き留めました。
そして翌日の5月17日、日曜日。 私はついに、初めての場所へと予行演習に出発したのです。
5月17日(日)、朝
私は朝8時20分に自宅を出発しました。
最寄り駅に到着し、事前に調べたルートを実際に歩き始めます。するとすぐに、ストリートビューの「2022年」からの月日の流れを肌で感じることになりました。
「あ、セブンイレブンが、まいばすけっとに変わってる……」
画面で見ていた景色と目の前の現実が、さっそく違っていたのです。
さらに歩き進めると、ストリートビューでは工事中だった場所が、立派な一戸建ての住宅に変わっていました。ベランダには洗濯物が干してあり、すっかり新しい生活が営まれている様子が伝わってきます。
そんなことを思いながら、自分の足で一歩一歩、確実な目印を記憶に焼き付けていきました。
そしてもう一つ、実際に歩いてみて痛感したのが「坂道の多さ」です。
駅から施設に向かうまでの道は、想像以上に坂道が続いていました。
(これなら、事前に3D表示で確認しておけばよかったな……)
(もしここに決まったら、これから何度も面会に足を運ぶことになる。そのたびにこの坂道を歩くのは、なかなか大変になりそうだな……)
母が入院した後の生活をリアルに想像し、少し身が引き締まる思いでした。
坂を登りきり、ようやく目的の介護医療院に到着しました。 建物の外観は、お世辞にも新しいとは言えず、少し古い印象を受けました。
しかし、敷地内を見渡したとき、私の心に少し違う感情が芽生えました。
日曜日であるにもかかわらず、外を熱心に掃除している職員の方の姿があったのです。
「日曜日なのに、こうしてきれいに掃除をしてくれているんだ。ここはちゃんとしている病院なのかもしれないな……」
外観の古さとは裏腹に、行き届いた手入れの様子を見て、私の心の中にあった不安が、すうっと信頼感へと変わっていくのを感じました。やっぱり、自分の目で直接見に来て本当によかったです。
当日のルートをしっかりと頭に叩き込み、大きな安心感に包まれながら駅への帰路につきました。
張り詰めていた緊張の糸がふっと緩んだからでしょうか?
特にお腹が空いていたわけではないのに、私は帰り道にコンビニへ寄り、何故かプリンを衝動買いしてしまいました。がんばった自分への、小さなご褒美のつもりだったのかもしれません。
母のための大切な面談は、もうすぐそこ。でも今の私には、確実なルート案内と、冷蔵庫で冷えている甘いプリンという心強い味方がついていました。
つづく
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