60代のリアル|第45話:【実録・介護の崖っぷち】母の未来がかかった大切な約束。心配性の私が重ねた、絶対に失敗できない移動劇
前回までのあらすじ
一つ目の施設とは違い、遠方で交通費もかさむ二つ目の介護医療院へは、画面上での徹底的なルート下見を行いました。
Googleマップの3D機能やストリートビューを駆使し、自分が毎回の面会に通うためのバス乗り場や坂道の有無を入念に確認します。
画面の向こうに広がるのどかな景色に、自分が暮らす騒々しい街とのギャップを感じ、そこだけ時間がゆっくり流れているような錯覚を覚えました。
提出書類を揃え、万が一の手続きに備えて母のマイナンバーカードなどの重要書類も忘れずにカバンへと収めます。
画面の中の穏やかな景色とは対照的に、私の心には新たな面談当日への緊張がじわじわと満ち始めていました。
5月25日(月)、午前
月曜日の朝を迎えても、私の緊張が和らぐことはありませんでした。むしろ、時間が経つにつれて不安は膨らむばかりです。
一番の懸念は「バスの運行時間」でした。慣れない土地の路線バスは、どれくらい時間が読めないものなのか見当もつきません。
私はパソコンに向かい、Geminiさんに
「現地のバスの時刻表が分かるサイトはありませんか?」
と問いかけました。
教えてもらったサイトにアクセスし、念のために時刻表もきれいに印刷して、持参する書類の束へと追加します。
それでも、バスには遅延がつきものです。
「もし遅れたらどうしよう」
という焦りが胸をよぎります。
15時からの面談は、母の未来がかかった大切な約束です。遅れることなど、絶対に許されませんでした。
同日 12:50
事前に調べたルート検索では、目的地までの所要時間は「1時間45分」と出ていました。
スムーズにいけば14時35分には着く計算です。
しかし、私は極度の方向音痴。乗り換えで迷ったり、バス停を探し回ったりする時間を考えれば、いくら時間があっても足りない気がしていました。心配性の私は、予定よりもかなり余裕を持たせ、12時50分に自宅の玄関を出ました。
最初の乗り換えまでは、驚くほどスムーズに進みました。
けれど、地下鉄から別の路線へと乗り換え、電車が地下を抜けて地上を走り始めた頃から、窓の外の景色が明らかに変わり始めました。
ガタゴトと音を立てながら、電車は大きな川に架かる鉄橋を横切っていきます。
視界に飛び込んできたのは、私の見慣れた住宅街ではなく、どこか無機質な工場地帯のような風景でした。
(本当に、この方向で合っているのかな……)
窓の外に広がる知らない街の輪郭を見つめていると、自分がどんどん遠くへ運ばれていくような、妙な心細さが込み上げてきます。
見慣れない場所へ向かっているという現実に、私の心臓の鼓動は少しずつ、確実に高鳴っていきました。
電車が目的の駅に滑り込み、ホームに降り立ちます。
改札を出ると、駅前は思ったよりも開けていました。たくさんの飲食店やお店が軒を連ね、活気にあふれています。
駅前に広がるロータリーへと進むと、そこには驚くほどたくさんのバスが停車していました。あちこちからエンジン音が響くなか、私は印刷してきた地図を広げ、金曜日の夜にペンで大きく印をつけた「乗り場の番号」を必死に探しました。
視線を巡らせ、目的の数字が書かれたバス停を見つけます。
まだバス自体は到着していませんでしたが、その場所にはすでに、かなりの数の人が列を作って並んでいました。
私は手汗の滲む地図をカバンに仕舞い、小さく息を吐いて、その長い列の最後尾へと並びました。
つづく
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