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60代のリアル|第46話:【実録・介護の崖っぷち】約束まであと25分。涼みを求めて入ったロビーで、私が目にしたMCI(軽度認知障害)のビデオ。


前回までのあらすじ

遠方で交通費もかかる二つ目の施設へ向けて、私は金曜日の夜に画面上での徹底的なルート下見を行いました。

15時からの面談に遅れることは絶対に許されないため、Geminiさんに確認したバスの時刻表を印刷し、1時間45分の道のりに備えます。

極度の方向音痴である私は不安を抱え、予定よりもかなり余裕を持たせた12時50分に自宅を出発しました。

地下鉄から別の路線へ乗り換え、地上へ出ると、窓の外は大きな川や工場地帯といった見慣れない景色へと変わり、緊張が高まります。

目的の駅に到着した私は、駅前の広大なバスターミナルで事前に印をつけた番号のバス停を見つけ、長い列の最後尾に並びました。



5月25日 14:10

心配していたバスは、ありがたいことに定刻通りにバスターミナルを出発しました。

ふと車内を見渡すと、乗客のほとんどが高齢者の方々。これから向かう施設の性質を、乗客の顔ぶれからもひしひしと感じるようでした。

バスが駅前を離れると、まず目に飛び込んできたのは大きな団地群でした。

それは、私が子どもの頃によく見かけた、どこか懐かしい佇まいの団地。

最近ではめっきり見かけなくなっていましたが、
「こんな場所に、まだあの頃のまま残っていたんだな……」
と、胸の奥が少しだけきゅんとするような不思議な感覚を覚えました。

しばらく続いた団地エリアを抜けると、頭上を高速道路が横切っていきます。

それを境にするように、窓の外の景色はだんだんと、事前のネット下見で見たようなのどかな風景へと移り変わっていきました。

目的地に到着し、バスのステップを降ります。

しかし、一歩地面に降り立った瞬間、自分がどちらの方向へ歩き出せばいいのか、全く分からなくなってしまいました。

私はカバンから印刷した地図を取り出し、金曜日の夜に頭に叩き込んだストリートビューの光景を必死に思い出します。

さらにスマートフォンでも地図を開き、自分の位置を確かめようとしました。その時、ハッと気づきます。

(あ、私、いつもGPSを切っているんだった……)

画面のマップは現在地を正確に示してくれません。

それでも、バス停からは徒歩5分のはず。
「まだ時間もたっぷりあるし、これなら何とかなるかな」
と自分に言い聞かせ、記憶のなかの景色を頼りに歩き始めました。



同日 14:35

迷いながらも、無事に目的の介護医療院へとたどり着くことができました。

見上げると、建物のすぐ隣には大きな高齢者ケアセンターが併設されていました。

そこはデイサービスやショートステイを運営しているようで、敷地内には送迎用と思われる小さなバスのような車が2台、静かに停車しています。地域の介護を支える一大拠点なのだという実感が、その光景からじわりと伝わってきました。

視線を戻すと、事前に聞いていた通り、建物には三つの入り口が並んでいます。

あらかじめ「真ん中の入り口から入ってください」と指定されていたため、迷わずその扉をくぐりました。

この日は、5月とは思えないほど厳しい暑さでした。

歩いてきたこともあり、とにかく早く建物の中に入って涼みたい一心だったのです。

約束の15時までは、まだ25分もあります。

受付の前の椅子に腰掛けて待つことにしました。ここは大きな病院でもあるため、受付には次から次へと様々な人がやってきては、何事かを尋ねています。対応する受付のスタッフの方々は、見るからに忙しそうに立ち働いていました。

ぼんやりと待っている間、座っていた椅子のすぐ傍に、大きなモニターが設置されているのが目に留まりました。

そこには施設の紹介映像と一緒に、MCI(軽度認知障害)に関する解説ビデオが繰り返し流されていました。

(そういえば、この病院には精神科や心療内科があったっけ……)

ビデオの画面を見つめながら、私はそんなことを考えていました。

それだけ、この介護医療院でも認知症や心のケアに対するサポートが充実しているのかもしれない。そんな期待のような、少しだけ安心できる材料が頭をよぎります。



同日 14:45

時計の針が15分前を指した頃、私は意を決して、忙しそうに動いている受付の方へ声をかけました。

「すみません、15時から面談の約束をいただいているのですが、担当の方に繋いでいただけますでしょうか?」

受付の方は手を止め、丁寧に応対してくれましたが、やはりお忙しいようです。

「担当者はただいま手が離せませんので、申し訳ありませんが、もうしばらくそのままでお待ちいただくことになります。」

私は
「分かりました」
と静かに頷き、再び元の椅子へと戻りました。

母のこれからを決める大事な面談を前に、誰も知り合いのいない静かなロビーで、私はただ一人、その時が来るのをじっと待ち続けていました。

つづく


第47回はこちらです。↓


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