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60代のリアル|第47話:【実録・介護の崖っぷち】仕切りのない面談席での戸惑いに輪をかけて「面会時間は15分、完全予約制」の戸惑いから一転。崖っぷちの私を救う施設内容とは?


前回までのあらすじ

遠方への慣れない移動に緊張しながらも、私は15時からの面談に遅れないよう、予定よりかなり早く目的の介護医療院へ到着しました。

併設されたケアセンターの送迎車や、5月の厳しい暑さから涼みを求めて入ったロビーで、地域の介護拠点としての規模を肌で感じます。

ロビーの大きなモニターに流れるMCI(軽度認知障害)のビデオを見つめながら、この施設への期待と安心材料が頭をよぎりました。

予定の15分前、忙しそうな受付の方に声をかけるも「担当者は手が離せない」と言われ、私は一人静かにその時を待ち続けたのです。



5月25日(月)15:10頃

静かなロビーで待ち続けること、しばらく。15時10分を回った頃、ようやく面談の担当者の方が姿を現しました。

「大変お待たせいたしました。こちらへどうぞ」

案内されたのは、1階のフロアにあるパーティションで区切られただけの簡素なスペースでした。その場所を目にした瞬間、私の胸に小さなざわめきが起こります。

あらかじめ個室を用意し、周囲に話が漏れないよう細心の配慮をしてくれた「一つ目の施設」の記憶が頭をよぎったからです。

母のプライベートな事柄や、我が家の切実な事情を話すというのに、ここでは遮る壁すらない――。そんな環境に、私はどうしても拭えない不安と戸惑いを覚えていました。

心の動揺を抑えながら、事前に提出を求められていた介護保険証のコピーなどを手渡します。

担当者の方から施設についての簡単な説明があり、続けて
「お母様の現在の状況はいかがですか?」
と尋ねられました。

私は、あらかじめ自宅で入念にまとめておいた母の様子に関する資料を開き、説明を補うようにして担当者の方に見せました。

そして、話がいよいよ核心である「費用」へと移ったとき、私の心は激しく震えました。

(……安い。一つ目の施設より、一ヶ月あたり25,000円も安い……!)

毎月の介護費用、そして自分のこれからの生活や収入の危機に怯えていた私にとって、この「25,000円」という差額は、ただの数字ではありませんでした。

崖っぷちに立たされていた私の背中をそっと支えてくれるような、あまりにも大きくて切実な、救いの数字だったのです。

しかし、安堵したのも束の間、次に担当者の方の口から告げられた利用規約に、私は思わず言葉を失いました。

「なお、面会時間は1回につき15分までとなっております。こちらは完全予約制です」

(15分……完全予約制……?)

胸の奥に、冷たい塊がストンと落ちていくような感覚がしました。

片道1,300円もの交通費を払い、ルートを徹底的に下見し、極度の方向音痴の私が2時間以上も前からハラハラしながら時間をかけて、ようやくたどり着いたこの場所。

こんなに遠くまで必死の思いで通ってきても、母の顔を見られるのは、わずか15分だけというのか。 あまりにも短いその時間に、私の心には大きな懸念がじわじわと広がっていきました。

一通りの説明が終わり、私たちは席を立ちました。

「それでは、実際のフロアをご案内しますね」

担当者の方に導かれ、私たちは一度外に出て別棟の2階へと案内されました。この2階が、介護医療院の病棟になっているとのことでした。



介護医療院の病棟

「こちらのフロアは、実は昨年、内装を全面的にリニューアルしたばかりなんです」

担当者の方の説明を聞きながら廊下を歩くと、足元にどこか独特の弾力を感じました。

「万が一、入所者様が転倒されても大きな怪我につながらないよう、床を全面、衝撃を吸収する柔らかい素材に変更いたしました。それから、照明機器もすべてLEDに新調し、フロア全体を明るく、過ごしやすい空間にしているんですよ」

その言葉通り、リニューアルされたばかりのフロアはとても明るく、清潔感に溢れていました。ハード面での細やかな配慮に感心していると、ちょうど時計の針が15時15分を回ろうとしていました。

「あ、ちょうど今はおやつの時間ですね。皆さん、お部屋から出てこられますよ」

その言葉に促されるように周りを見渡した瞬間、私は目を見張りました。

廊下の奥にある談話室のようなスペースでは、何人もの入所者様がのんびりとテレビを眺めています。

ナースステーションの前では「これ、借りていくね」とスタッフさんに声をかけながら、嬉しそうに雑誌を手に取る方の姿もありました。

車椅子に乗った方々も、窮屈そうに部屋に閉じこもるのではなく、当たり前のように廊下に出てそれぞれの時間を楽しんでいます。

そこには、はっきりと「人の動き」と「生活の息遣い」がありました。

脳裏に、先日見学した「一つ目の介護医療院」の光景が苦々しく蘇ります。あそこでは、ほとんどの方がベッドの上で寝たきりの状態でした。

静まり返ったあの空間と比べると、目の前に広がる光景は、同じ「介護医療院」とは思えないほど活気に満ちていたのです。

「うちは季節ごとのイベントも結構多いんですよ。ほら、あそこに写真が貼ってあります」

指さされた壁には、催し物を楽しむ入所者様たちの笑顔の写真がたくさん飾られていました。驚いたのは、その写真の誰一人として、顔にモザイクなどの目隠しがされていなかったことです。

ありのままの生き生きとした表情が並ぶその壁を見て、施設とご家族、そして地域との間に、よほどの深い信頼関係があるのだろうなと温かい気持ちになりました。

続いて案内されたのは、実際に生活の場となる4人部屋の病室でした。

一つ目の介護医療院を見学したときは、どこかプライバシーが置き去りにされているような、割り切れない思いを抱いた記憶があります。

しかし、ここの病室は違っていました。現在母が入院している病院と同じように、4人部屋であってもそれぞれのベッドがカーテンできちんと区切られており、入所者様のプライバシーがしっかりと確保されていたのです。

「ここならお母さんも落ち着いて過ごせるかもしれない」
と、大きな安心感が胸に広がっていきました。



1階のあのオープンなパーティーションで面談が始まったときは、「本当にこの施設で大丈夫なのだろうか」と、正直なところ大きな不安と戸惑いしかありませんでした。

けれど、実際にこうして自分の目で施設内を歩き、ハード面の細やかな配慮や、そこで暮らす人々の生き生きとした日常に触れたことで、最初の不信感は綺麗に消え去っていました。

遠くからハラハラしながら時間をかけてやってきた月曜日。案内を終えてロビーに戻る私の心は、出発前とは比べものにならないほど、穏やかで前向きな光栄に満たされていました。

「こちらで内部検討会をしてからご連絡しますので、もし他にお探しの施設があれば、平行して手続きを進めておいてくださいね。こちらの結果を待つために他をお断りしてしまうと、万が一うちがダメだった場合、また最初から探し直さなければならなくなってしまいますから」

そんな風に、私の負担を先回りして気遣ってくれるような言葉をかけられたことも、この施設への信頼感をさらに後押ししてくれたのです。

つづく


第48回はこちらです。↓


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