60代のリアル|第59話:【実録・介護の崖っぷち】人工関節、脊髄損傷、吐血……母の壮絶な記録は「個人情報だから持ち帰れない」という「お役所ルール」をどう乗り越えたか?
前回までのあらすじ
母の尿路感染症による入院や転院の危機に追われるなか、動き出した要介護認定の面談。
私は仕事の引き継ぎなどでバタバタのまま有給休暇を迎え、母の既往歴やアレルギーの資料を手に、一般面会開始の20分前から病院の受付の前に並んで待っていました。
15時ちょうどに受付を済ませ、期待と緊張を胸に母の病室へと急いだ私。
しかし、そこで目にしたのは、いつもは横になっているはずの母がなぜか車椅子に座っている姿と、
「区役所の方との面談は、もう終わっていますよ」
という看護師さんからのまさかの一言でした──。
6月9日(火) 病院で行われる「要介護認定の面談」
看護師さんに促されるまま、私は困惑を隠せないまま面会コーナーへと急ぎました。
そこに座っていたのは、区役所から派遣された調査員さんでした。
手元には、お決まりの質問事項がずらりと並んだ調査用紙を持っています。どうやら誰に対しても同じ項目を一つずつ確認し、そこに書き込んでいくスタイルのようでした。
「では、お母様のこれまでの病気や、今回のような長期の入院歴について教えていただけますか?」
そんな質問を投げかけられたとき、私のカバンに忍ばせておいた「あの書類」が、これ以上ないほど大きな意味を持つことになります。 バタバタの有休前夜、母のために印刷して持参した、これまでの既往歴やお薬のアレルギーをまとめたメモです。
私はそれをスッと調査員さんの前に差し出しました。
そこには、母がこれまで何度も病魔と闘い、乗り越えてきた壮絶な歴史が刻まれていました。
69歳頃: 腰部脊柱管狭窄症の手術のため入院
70歳頃: 変形性膝関節症のため、左右2回に分けた人工関節の手術で入院
81歳頃: 肺炎で動くことができなくなり入院
(3ヶ月後、リハビリのため別の病院へ転院)
83歳頃: 中心性脊髄損傷で救急搬送
85歳頃: 胃炎のため入院
(入院の前日には吐血、このときも3ヶ月後、リハビリのため
別の病院へ転院)
そして今回の、尿路感染症による緊急入院。
書き並べるだけでも、母がどれほど過酷な試練をくぐり抜けてきたかが分かります。そのたびに母は立ち上がり、車椅子になりながらもデイサービスに通う日常を維持してきたのです。
私の手元から差し出されたその詳細な記録を見て、調査員さんは少し目を見張ったようでした。
しかし、そこでお役所ならではの壁が立ちはだかります。
「あの、これだけ詳しく書いていただいて大変ありがたいのですが……個人情報になりますので、私の方でこの資料を区役所に持ち帰ることはできないルールになっているんです」
丁寧だけれど申し訳なさそうにそう告げる調査員さんに、私は少しも躊躇しませんでした。
せっかく母のために用意した正確なデータです。この場で口頭で写してもらうには時間がかかりすぎます。
「それなら、報告書の記載が終わりましたら、そちらでシュレッダーにかけて処分していただければ大丈夫です。どうぞ使ってください」
私がそう言って資料を託すと、調査員さんはホッとしたような表情を浮かべ、ありがたくそれを受け取ってくれました。
こうして、母が何度も病気を乗り越えてきた歴史と、現在の「尿路感染症で自立歩行が困難になった」という厳しい現実が、しっかりと区役所の書類に刻まれることになったのです。
つづく
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