60代のリアル|第50話:【実録・介護の崖っぷち】一刻を争うと思ってかけた電話。けれど受話器の向こうから聞こえた無情な現実
前回までのあらすじ
土曜日の面会日、お気に入りのスーパーが改装休業中だったため、私は病院の近くのスーパーでサイコロ状のカットスイカを購入して母のもとへ向かいました。
一切れが少し大きく心配しましたが、母は自ら手で持って器用に食べ、その生命力溢れる姿に私は嬉しい驚きを覚えます。
スイカを食べ終えた後、母から
「おんぶして……帰る」
と突然の切実な本音がこぼれ、言葉に詰まる私を見て
「そんなことできないか!重たいよね!ハハハ」
と大笑いする姿に、
退院しても家には帰れない現実を抱える私は胸を締め付けられるような心苦しさを感じました。
その後、
「さくらんぼ、3つ食べたい!」
という愛らしいおねだりを受け、
「売ってたら買ってくるね」
と約束を交わし、
別れ際にタオルケットから小さく手を振り返してくれる母を後にしたのです。
6月2日(火)、退院調整看護師の方からのメール
母との切なくも温かい面会を終えた土曜日が過ぎ、新しい週が始まった火曜日のことでした。
日常の用事や仕事を済ませて帰宅した私は、スマホの画面で、あるメールの着信に目を留めました。送り主は、母の入院先である病院の退院調整看護師さんでした。
画面を開くと、そこには「二つ目の介護医療院」に関する動きが記されていました。
先日の面談を終えたばかりの二つ目の施設側から、病院のほうへ、母の受け入れにあたってのいくつかの具体的な「質問(確認事項)」が届いている、という内容です。
(あ、もう先方で話が進んでいるんだ……!)
そのメールを見た瞬間、私の胸にはパッと明るい期待が広がりました。
わざわざ具体的な質問をしてくるということは、それだけ母の受け入れに向けて、前向きかつ現実的な検討が水面下で動き出した証拠に違いない。そう確信したのです。
月額25,000円の差、そしてあの活気ある明るい病棟の風景が頭をよぎり、私は嬉しさに胸を弾ませました。
「早く内容を確認して、お返事しなきゃ」
そう思った私は、何よりもまず一刻を争うと思い、その場ですぐに二つ目の介護医療院の担当者の方へ電話をかけてみることにしました。
受話器を握りしめ、呼び出し音が響くのを祈るような気持ちで待ちます。
しかし、メールに気がついたのは帰宅後のこと。すでに時計は夕方のいい時間になっていました。 やがて繋がった電話口から聞こえてきたのは、無情な現実でした。
「申し訳ありません、本日、担当者はすでに退勤いたしました」
「あ……左様ですか。かしこまりました。明日かけ直します。」
電話を切り、受話器を置いた私は、ぽつんと部屋に取り残されたような焦りと落胆に包まれました。あと少し早くメールに気づいていれば、その「質問」の中身を今すぐ知ることができたのに。
けれど、ここで立ち止まっているわけにはいきません。
私はすぐにパソコンを立ち上げました。
私はスマートフォンの小さな画面での文字入力があまり得意ではないため、大切な連絡や長文のやり取りは、いつもパソコンのキーボードを使って行うことにしているのです。
パソコンの前に座った私は、まずは連絡をくださった退院調整看護師さんへ返信メールを作成しました。
まずは情報共有のお礼を述べ、そして、二つ目の施設へすぐに電話をかけたものの既に担当者の方が退勤されていたため、明日(6月3日)に改めてこちらから電話をして確認する旨を書き添えて、送信しました。
てっきり、二つ目の施設への受け入れに向けて、すべてが良い方向へ前向きに動き出したのだ――。このときの私は、確かな手応えのようなものを感じ、そんな風に大きな期待を抱いていました。
けれど、この日聞くことができなかった「質問」の真意が、のちに私をさらなる翻弄の渦へと巻き込んでいくことになるのです。
夜の静けさのなかで、私はただ、翌朝の電話を待ち侘びるしかありませんでした。
つづく
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