60代のリアル|第29話:【実録・介護の地域格差】地元の特養はバルンカテーテルの受入不可!?あの施設も「1件もない」なんて──どのようにして私が病院併設型の施設に辿り着いたのか?
前回までのあらすじ
4月末の激務。支払証明書300件、入金消込130件という膨大な手作業を、一人きりの体制で必死に捌き切った私。
しかし、息を吐く間もなく、今度は入院中である母の「次の居場所」を探すという、介護の大きな局面に立たされていました。
歩行が難しく、バルンカテーテルの挿入や子宮脱のリング交換など、多くの医療的ケアが必要な母。
地元で特別養護老人ホーム(特養)を探すものの、「カテーテルがある」というその一条件だけで、ことごとく受入不可(全滅)という非情な現実に直面します。
世間がゴールデンウィークの連休に沸く中、私の心はちっとも休まらないまま、仕事の合間を縫ってネットの海へと潜っていくことになるのです──。
最初の壁:地元の特養は「バルンカテーテル」で全滅
5月3日(日)
母の「次の居場所」を必死に探す連休。
費用を抑えつつ長期で預けられる特別養護老人ホーム(特養)への入所を考えましたが、ケアマネジャーさんから非情な現実を告げられていました。
「地元では、バルンカテーテルが入っていると、受け入れ可能な特養はありません」
その一言で地元の選択肢は全滅。
高齢者には珍しくない処置のはずなのに、病院を出ようとした途端、これほど高い壁になるのかと目の前が真っ暗になりました。
しかし、ここで諦めるわけにはいきません。
「助けてくれないなら、自分で探すしかない」。
私は、藁にもすがる思いでパソコンに向かいました。地元がダメなら、他の区はどうなのだろう?
焦燥感に押しつぶされそうになりながら、私は世界を広げるために、ネットの海のさらに奥深くへと潜っていったのです。
ネットの海で見つけた「大田区のデータ」が、私の視野を広げてくれた
「医療的ケア 特養 受入状況」
そんなキーワードを頼りに、必死にキーボードを叩き続けていたときのことです。画面に表示されたのは、大田区のホームページでした。そこには、他では見かけなかった驚くべき資料が公開されていたのです。

それが、「大田区内特別養護老人ホームにおける医療行為が必要な方の受入状況一覧」というPDFファイルでした 。
▼大田区のホームページ

おそるおそるファイルをダウンロードし、文字がびっしり詰まった表に目を走らせます 。
私の指が止まったのは、母の条件である「尿道カテーテル」の列でした 。
地元では全滅だと告げられたその項目に、なんと「〇(受け入れ可能)」や「△(要相談)」のマークがいくつも並んでいたのです 。
「家族の付き添いが必要」などの条件付きの施設もありましたが 、受け入れの門戸を開いている特養が、確かにそこに存在していました。
「……そっか。区が変われば、基準も変わるんだ!」
真っ暗だった視界に、一筋の光が差し込んだ瞬間でした。
地元でダメだからと諦める必要はまったくない。この大田区のデータが、凝り固まっていた私の視野を一気に広げてくれたのです。
さらなる衝撃。私の住む地元には、あの施設が「1件もない」!?
「区が変われば、受け入れの基準も変わる」
大田区のデータによって大きな希望の光をもらった私は、一気に視界が開けたような気持ちになりました。
特養でも条件次第で受け入れてもらえる場所があるのなら、もっと医療体制が万全な「介護医療院」という施設であれば、母のバルンカテーテルやリング交換も、さらに安心してすべてお任せできるはず。
そう確信した私は、満を持して「自分の住む地元の区」にある介護医療院を調べ始めました。
しかし、検索窓に地元の区名と「介護医療院」を打ち込んで何度エンターキーを押しても、一向に対象の施設が出てきません。
最初は検索の仕方が悪いのかな、と思ったのですが、どれだけ行政のホームページを掘り起こしても結果は同じでした。
そこで突きつけられたのは、あまりにも残酷な現実でした。 なんと、私の住む区には、介護医療院がそもそも「1件も存在しない」という事実だったのです。
「えっ、ゼロ……?」
せっかく見つけた突破口の先で、まさか「地域格差」という名の巨大な壁に阻まれるとは思ってもみませんでした。
地元には、母を受け入れてくれる施設がない。
その事実は、一度膨らんだ私の希望を容赦なく打ち砕き、再び深い絶望の淵へと引きずり下ろしたのです。
民間サイトは諦めた。東京都福祉局の公式ページへ突入
地元には母を受け入れてくれる介護医療院が1件もない。その事実に一度は絶望しかけましたが、ここで手を止めるわけにはいきません。
私が探さなければ、退院を迫られている母の行き場が本当になくなってしまうからです。
一般的な老人ホームの検索サイトでは、「カテーテル対応」や「病院併設」といった細かい条件で介護医療院を絞り込むのは至難の業でした。
綺麗な写真や広告が並ぶ民間サイトでの検索に見切りをつけた私は、行政の一次情報に頼ることにしました。
パソコンを開き、東京都福祉局の公式ホームページに直接アクセスします。トップページの検索窓に、迷わず「介護医療院」と打ち込みました。
▼東京都福祉局


画面に現れたのは、文字ばかりがびっしりと並ぶ無機質なPDFファイル、「東京都内 介護医療院 一覧」です。
「地元にないなら、ここから通える範囲の区をすべて上から順に見ていこう」
そう心に決め、リストに載っている施設名を一行ずつ、ローラー作戦のように目で追っていきました。
アクセスのつながる周辺の区で、なおかつ名前に「〇〇病院」とついている、明らかに病院が同じ建物内にある施設を必死にピックアップします。
こうして執念で見つけ出したのが、足立区(2箇所)、板橋区(1箇所)、練馬区(1箇所)にある4つの病院併設型の介護医療院でした。
連休返上の提案メール。母を守るための4つの選択肢
5月4日(日)
東京都福祉局のリストから、なんとか条件に合う4つの病院併設型施設をピックアップしたものの、これで終わりではありません。
次はこの希望先を、病院の退院調整看護師さんへ伝えるためのメールを作成しなければなりませんでした。
ただ感情的に「ここが良いです」と伝えるだけでは、スムーズな調整は望めないかもしれない。
母の現状、家族の現実的な判断、そしてなぜその施設を希望するのかを、論理的かつ的確に伝える必要がありました。
そこで私は、Geminiさんのチャットを開きました。
「どう書けば病院側に意図が正しく伝わるか」を相談し、文章をじっくりと推敲していったのです。
AIを壁打ちの相手にしながら、現状の課題とこちらの希望を一つひとつ整理し、非の打ち所がないメールを整えていきました。
そうして連休中の5月4日、まとまった提案メールを看護師さんへと送信しました。
母の安全な居場所を確保するための、長くて休まらない連休の闘いが、これでようやく一区切りを迎えたのでした。
──しかし、本当の闘いはここからでした。
GWが明けた連休明け、私のスマホに病院からの通知が届きます。
果たして、執念で選び抜いた「4つの候補地」に対する看護師さんの反応は? そして、母の次の居場所は無事に決まるのでしょうか?
つづく
第30回はこちらです。↓
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