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60代のリアル|第2幕、第13話【実録・無謀な事務仕事】「この開発スタイルで本当に大丈夫?」届かぬ現場の危機感


前回までのあらすじ

全社を巻き込むシステム大改造が始動し、2023年秋から2024年春までに及ぶ要件定義がスタートしました。正社員が猛烈な残業に追われる中、パートの私もなぜか打ち合わせに召集されます。

「退職後に残る人が困らないシステムに」と、VBA依存の解消やデータ自動変換などを切実に提案したものの、周囲の味方はゼロ。すべて却下されてしまいました。

紙の郵送や手入力からの解放という「劇的改善」を信じつつも、足元には小さな違和感と課題が残されたまま、プロジェクトは次のステップへと進んでいきます――。



理不尽な会議の余韻と、見えぬ場所で決まった未来

2023年秋~

前回の打ち合わせの帰り道、私の心の中にはどうしても拭いきれないモヤモヤが渦巻いていました。

(ちょっと愚痴になってもいいでしょうか……)

そもそも、なぜパートの私が新システムの要件定義にまで出席させられているのか、今でも意味が分かりません。

現場のやり方を丸投げしておきながら、いざ会議になれば社内の誰も味方になってくれないなんて、あまりにもおかしな話です。

私がVBAを駆使して何とかこなしている程度の作業なら、プロのシステム開発会社ならもっと効率よく、綺麗な仕組みとして取り込めるはず。そう思って出した提案すらあっさり却下され、ただただ虚しさと理不尽さが残る時間でした。

そんなモヤモヤを抱えたまま月日は流れ、2024年春で要件定義はほぼ終了となりました。

その後、複数のシステム開発会社によるコンペが始まったようですが、もちろんパートの私にその様子がうかがい知れるはずもありません。

どのような議論が交わされていたのか不明なまま月日は過ぎ
——2024年夏頃、ついにシステム導入の具体的なスケジュールが発表されたのです。

そこには、「2027年夏 本番リリース予定」と記されていました。



決定した開発スタイル「アジャイル+プロトタイプ」

2024年夏~

発表されたスケジュール表には、今後の進め方としてひとつの開発スタイルが提示されていました。

それが「アジャイル+プロトタイプ作成」という手法です。

簡単に言えば、最初から完璧な設計図を作り込まず、小さな単位で試作品(プロトタイプ)を作りながら、実際に動く画面や機能を何度も確認・修正して完成へと近づけていくやり方です。

一見すると
「実際の画面を見ながら確認できるなら分かりやすそう」
「途中で変更が利くなら安心だ」
と思われるかもしれません。

確かに、仕様が固まりきっていない新規サービスや、小規模なシステム開発であれば、柔軟に対応できる非常に優れた手法です。

しかし、今回のプロジェクトは全社の業務を一新する
「大規模システムのリプレイス」です。

このスケール感でアジャイル開発を採用すると、何度も修正を繰り返すうちに全体像やゴールが見失われ、手戻りが多発する危険性を抱えています。

「本当に、この大改造をアジャイルで進めて大丈夫なのだろうか……?」

スケジュールが決まった安心感どころか、私は新たな、そしてより大きな不安を抱くことになりました。


【ご参考】
システム開発には、目的や規模に応じていくつか代表的な「進め方」があります。

👉ウォーターフォール開発
滝の水が落ちるように、計画・設計・開発・テストを順番に確実に終わらせていく手法。手戻りが少なく、計画通りのゴールを目指す大規模開発に向いています。

◆主なメリット
・スケジュールや予算が管理しやすい
・最初の設計が堅固で手戻りが少ない

◆主なデメリット
・途中の仕様変更に弱い
・成果物が終盤まで見えにくい


👉スパイラル開発
システムを機能ごとに分け、設計と開発のサイクルをグルグルと螺旋(スパイラル)状に繰り返しながら完成度を上げていく手法。外部業者へ依頼する際も品質確認がしやすいのが特徴です。

◆主なメリット
・段階的に確認できるため外部委託でも安心
・仕様変更に比較的柔軟

◆主なデメリット
・全体のスケジュールやコストが膨らみやすい
・開発期間が長引きやすい


👉プロトタイピング
早い段階で試作品(プロトタイプ)を作り、実際のイメージを確認・修正しながら進める手法。

◆主なメリット
・早期に試作品でイメージを共有できる
・認識のズレを防ぎやすい

◆主なデメリット
・試作の作り直しでコストがかさむ
・仕様の膨張(スコープクレープ)が起きやすい


👉アジャイル開発
優先度の高い機能から短い期間で開発・リリースを繰り返す、小回りの利く迅速な手法。

◆主なメリット
・仕様変更にとても強く、短期間で試せる
・ユーザーのフィードバックをすぐ反映できる

◆主なデメリット
・全体像やゴールを見失いやすい
・大規模システムでは手戻りや管理不足が起きやすい


👉DevOps(デブオプス)
開発担当(Development)と運用担当(Operations)が連携し、システムの改善や更新をスムーズにし続ける取り組みのこと。

◆主なメリット
・開発と運用の連携でリリースが迅速化する
・障害対応や改善のサイクルが速い

◆主なデメリット
・組織全体の文化や体制の改革が必要
・導入・運用ツールの構築にコストがかかる



膨らむ懸念と、周囲との温度差

2027年夏という明確な目標が決まり、社内にはどこか
「これで一安心」
「いよいよ本格的に動き出すぞ」
という前向きでホッとした空気が漂っていました。

しかし、私の心の中にあったのは安心感ではなく、日に日に大きくなる強い不安と胸騒ぎでした。

(本当に、この巨大なシステムをアジャイル+プロトタイプで進めて大丈夫なのだろうか……?)

もし自分が一から開発する立場なら、仕様をがっちり固めて計画通りに進められる「ウォーターフォール開発」を選びます。それが一番手戻りが少なく、着実にゴールへ辿り着けるからです。


もし外部のプロに全面的にお願いし、開発からその後の運用まで任せるのであれば、私は「スパイラル開発」が最適だと思っていました。

確かに完成までの期間が長引く懸念はあるものの、段階ごとに確認を挟むことでブレが少なくなり、途中の仕様変更にも柔軟に耐えられます。

何より、私たちが「本当に想像していた通りの、現場で使いやすいシステム」へと着実にかみ合っていくはずだからです。

※素人考えなので、もっといい方法があるかもしれませんが・・・


ですが同時に、もう一人の冷めた自分が頭を振るのです。 もし自分が開発を受注する立場だったらどうだろう、と考えました。
私なら「スパイラル開発なんて絶対にやりたくない」と思うはずです。

途中で何度も仕様を見直せば、
「どこまでが当初の基本機能で、どこからが追加の仕様変更なのか」
という境界線が、途端に曖昧になってしまいます。

追加修正となれば当然料金の上乗せが発生するはずですが、その費用請求を巡って現場と開発側で揉めてしまうのは目に見えています。コストもスケジュールも管理できなくなるリスクを考えれば、開発側が敬遠するのも当然のことでした。

「使いやすいシステムが欲しい」
という現場の理想と、
「境界線を曖昧にして費用などのトラブルを起こしたくない」
という開発側の現実。

その板挟みのなかで選ばれたはずの
「アジャイル+プロトタイピング」
という言葉が、どこか都合のいい看板のように思えてなりませんでした。

周囲の晴れやかな表情とは裏腹に、私の中の違和感と胸騒ぎは、静かに膨らんでいくばかりだったのです。


「社内の人たちは、この開発スタイルが持つリスクや特徴を、どこまで理解しているのだろうか?……」

周囲の晴れやかな表情を見るたび、私の専門的な知識や経験からくる懸念との間に、どうしようもない温度差を感じていました。

2027年の本番リリースに向けて動き出した巨大なプロジェクト。その足元で密かに芽生えた予感は、この先どんなドラマを引き起こすのか?
——拭えない違和感を抱えたまま、私は静かにその行く末を見つめていました。



🌿次回予告

ついに始まった基本設計。

開発会社から上がってきた第一弾の「プロトタイプ(試作品)」を画面で確認した瞬間、私の胸に走ったのは「……何かおかしい」という強烈な違和感でした。

頭の中に描いていた理想のシステムと、目の前にある画面のギャップ。アジャイル開発の波に呑み込まれながら、現場の混乱がじわじわと広がり始めます。

つづく


▼ 第14話はこちらです。



※「🌿Excelの小技」につきましては、別記事として読みたいというお声をいただきましたので、今回から通常の投稿に戻すことにいたしました。
どうぞご了承ください。



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