第11話 王子様の本性(メイド✶アリサ―Wishmoreな学園日記)
今回は、文字数が多めになっております。
お休みしつつ、ぜひゆっくりとお楽しみください☕🌿
(いつもありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします!)
前回のお話📕
登場人物紹介など📝
✶前回の軽いあらすじ✶
怒涛の洗濯当番をこなしつつ、ルミナスから頼まれていた昼食の席取りをしたアリサ。いい席を確保できたと達成感に浸っていたのだが、ルミナスは浮かない様子。さらには、「話がある」と言われてしまう。
彼には『前任をクビにした』という噂があり、まさかあたしも!? と怯えるアリサだったが……?
˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
午後の洗濯は、ロッタ先輩に絡まれたり性悪リゼ先輩に嫌味を言われたりしつつも、無事に終わった。
残りの仕事は、ルミナス様のお部屋に夕食を届けることと、トレイを下げに伺うことだけ……なんだけど……。
「はぁ〜」
すっかりオレンジ色に染まった空の下。
男子学生寮に続く道を歩きながら、ふか〜いため息をつく。
手にはビーフシチューとパン、それからフルーツののったトレイ。そして、エプロンの腰元についたポケットには、スピカが入ってる。
少し前に合流したんだ。
「(アリー、だいじょぶ?)」
スピカがポケットからちょこんと顔を出して、ひそひそ声で心配してくれた。
「(お仕事、疲れた……?)」
「(ううん、心配してくれてありがと。スピカこそ疲れてるでしょ?)」
スピカは一日中、島の中を探索していたらしい。草むらに隠れて生徒たちの話を盗み聞きしたり、建物の隙間に入ってみたりしたけど、『いちばんの宝物』については何もわからなかったんだって。
あたしも今日は情報収集する余裕がなかったし、収穫はゼロ。部屋に戻ったら作戦会議しようってことで、一度話は終わった。
余計な心配かけたくないし、ルミナス様のことは今は触れなくていいや。
前任のことクビにしたっていうのもさ、よく考えてみたらただの噂だし。怯える必要なんてないよね?
あ、そうだ。
「(スピカ。今日って、ちゃんと食事できた? どうしてるんだろうって気になってたんだよね)」
「(ありがと。実は、何も食べてな……)」
ぐぅ〜って音が鳴った。恥ずかしかったのか、顔を引っ込めたスピカが可愛い。
「(ふふ。夕食、パンの欠片とかチーズとか、こっそりポケットに入れるようにするね)」
スピカが、恐る恐るポケットの中で顔を上げる。
「(……ボクがもらってもいいの……?)」
「(もちろん)」
スピカの宝石みたいな瞳がうるうるしはじめた。
「(うう、助かるよお~。アリーってほんとに優しいね)」
「(へへ。そうかなぁ〜?)」
なんて調子に乗って笑うと、憂鬱な気持ちもふわぁ〜ってどこかに飛んでいった気がした。
ルミナス様からのお話、案外褒め言葉だったりして! それは前向きすぎ?
「(スピカ、この先はお喋りしちゃダメだよ)」
「(うん、わかった)」
スピカがポケットの中にしっかり顔を隠したことを確認して、あたしは男子学生寮へと入った。
男子生徒やメイドとすれ違いながら階段を上り、三階の角部屋――ルミナス様のお部屋の前で小さく深呼吸。そして、扉を軽くノックする。
「ルミナス様、アリサです。夕食をお持ちいたしました」
扉が開いて、ルミナス様が顔を出した。
「待っていたよ。さ、中に入りたまえ」
「はい。失礼いたします」
初めて入った部屋は、たしかに、あたしに掃除を頼む必要もないくらい綺麗に片付いていた。
アイボリーの壁、ダークブルーのカーテン、金で縁取られた白い家具たち。
本棚には楽譜がきっちりと並び、窓辺には譜面台が一つ。ベッド脇の壁には、黒いヴァイオリンケースが静かに立てかけられている。
「ああ。夕食は、そこのテーブルに置いてもらって構わないよ」
あたしは指示通りに部屋の隅にある小さな丸テーブルにトレイを乗せると、ソファーに腰かけているルミナス様の元へと歩み寄った。
すると、彼はあたしに着席を勧めることもなく(まぁ、当然っちゃ当然だけど)話し出した。
「昼にも伝えた通り、君に聞いてほしい話があるんだ」
「……はい」
立ったままで頷く。
ごくり、と唾を呑んだタイミングで、ルミナス様が口を開いた。
「今後僕の専属として勤めてもらううえで、最も重要なことだ。君を専属にしたのも、これが大きく関わっている」
どうやらクビにされるわけじゃないらしい。
よかったぁ……。
でも、一体何の話――。
「僕は、女性が受け付けないんだよ」
へ?
「……え、ええと……。女性が苦手、ということ……でしょうか?」
ルミナス様が首を横に振る。
「苦手なんてものじゃない。必要があれば仕方なく会話するが、できることなら口も利きたくない。目に入れることさえ苦痛でね」
爽やか王子様の口から飛び出した衝撃事実に、あたしはぽかーんと口を開けた。だって、これを知ったら何人の女性が泣くか……!
「そういうわけだから、昼食の席は必ず二人席を確保するように。可能ならば、女子生徒担当のメイドを覚え、彼女たちと遠い場所を選んでもらえるとありがたい。近くの席からチラチラ見られると鳥肌が立つんだ」
なるほど。
だから、食堂であんなに辛そうだったのか。
悪いことしちゃったな……
……って、ちょっと待って。
あたしも女性なんだけど! 大丈夫なの!?
「あの、ルミ――」
「君の前任は、それはもう最低な女でね。……信じられるかい? 洗濯の際に、僕の……僕の下着を盗んだ挙句、そのことを問い詰めたところ、あろうことか涙ながらに愛の告白をしてきたんだ!」
げ! なにそれ!!
「それは……大変でしたね……」
「だろう!?」
質問も忘れて感想を呟くと、ルミナス様がヒートアップした。
「だから僕は、即刻解雇するようメイド長に申し入れたのさ! 生徒とメイドの恋愛はご法度、さらにあの女の場合、窃盗罪も加わっているからね。翌日には学園を出ていったよ」
うわ。ほんとにルミナス様がクビにしてたんだ……。
「ここは素晴らしい学舎だが、専属メイド制度というものは理解しかねる。
しかし、校風だからね。仕方ないと入学時に腹をくくったが……あの女には耐えられなかった……! そのあと訪れたメイド長との日々が、なんと平穏だったことか」
……ええと……
「……つまり、お年を召した女性だったら問題ないんですね?」
「ああ、そういうことさ。卒業まで彼女に専属を頼みたかったが、さすがにそのようなわがままは通らなくてね。しかし、君が来てくれて本当に助かったよ」
……ん?
「ルミナス様。ひとつ質問をしてもよろしいですか?」
「なんだい?」
「念の為に確認させていただきますが、わたくしの性別はわかっていらっしゃいますよね?」
言ってて虚しくなるような質問を投げかけてみると、ルミナス様は瞳をぱちぱち瞬かせたあとに小さく笑った。
「なるほど、そういうことか。大丈夫。君がそばにいることには、なんの問題もないよ」
「問題ないって、どうして――」
「簡単な話さ。君は女性ではないだろう?」
……は? はああああ!?
「男に見えるって言いたいんですか!?」
「いや、生物学的に女性だということは無論わかっているよ? 僕が言いたいのはそういうことではない。わかるね?」
「ぜんっぜんわかりません!」
思わず前のめりになったあたしを見て、ルミナス様はやれやれと大袈裟に肩をすくめた。
何この人! 恩人に向かってあれだけど、すっごく鼻につく!
「君は幼いということさ。まだ女性とは呼べない」
「……幼い……」
あれ……?
ちょっと待って。
不吉な予感に、ぞぞぞっと背筋が凍った。
……雇用書類にはちゃんと年齢を書いたけど、あの情報がルミナス様に共有されてないとしたら……?
学園メイドの採用試験は、12歳以上から受けることができる。つまり……あたしのことを、12歳やそこらの女の子って勘違いしてる可能性は大いにあるってことだ……!
あたしの表情の変化に気付いたのか、ルミナス様が「ああ」と小さく眉を下げた。
「すまないね。子ども扱いされて不満かもしれないが、僕はむしろありがたく思っているんだ。ちなみに……まだ聞いていなかったね。——年齢はいくつなんだい?」
!!!!?
頭が真っ白になる。
どうしよう……!
12歳って言いたい。死ぬほど言いたい。
でも、いつかバレたら……詐欺ってことになるよね……?
「君?」
「じゅ……」
「じゅ?」
「……じゅう、はち……です」
しん……。
怖いくらいの静寂が落ちた。
「……今、なんと言った?」
整った顔が、みるみるうちに青白くなっていく。
これは……まずいかもしれない……。
あたしは何とか声を絞り出した。
「……十八です、と……」
そう言った瞬間、ルミナス様がテーブルをダン!!!と叩くようにして立ち上がった。
ひっ……!
「僕を騙したな?」
美形が低音で凄むと迫力がすごい。
冷や汗が一気に噴き出た。
「もう一度言う。僕は、『女性』という生き物が大嫌いだ! だから君に声をかけた。恋愛なんてくだらないものに傾倒しない、純粋無垢な少女だと思ったからね!」
「お、恐れながら…っ」
カラカラになった喉で、なんとか言葉を発する。
「年齢について話す機会がなかっただけで……隠していたつもりはありませんでした」
「はっ。僕に非があると言いたいのか」
見下すような態度にカチンと来た。
あるに決まってんでしょうが! 確認もせず勘違いしておいて、なんでそんなに偉そうなわけ!!?
…って言ってやりたいけど、グッと我慢……。
あたしはしっかりと頭を下げた。
「滅相もございません」
「……ふん。だが、まぁ……確認を怠った僕にも責任はあるな。その素直さに免じて、メイド長に解雇を申し立てるのは明日にしてあげよう」
「ありがとうござ……え? 解雇!?」
「ああ」
「……ちょ……っと、待ってください。解雇にされる理由なんてありませんよね?」
尋ねた瞬間、ギロリと睨まれた。
「あるさ。メイドとは主人が快適に過ごせるようにすることが仕事だろう? 君がそばにいると、僕は不快になる。これ以上の解雇理由がどこにある?」
正論を突きつけられ、あたしは一瞬言葉を飲み込んだ。
……って! いやいや、理不尽すぎでしょ!
「……たしかに、おっしゃる通りです。しかしながら、これはあまりにも横暴では——」
「どう思われようが構わない。運がよければ、メイドではなくとも、他の職で島に残れるんじゃないか? 幸運を祈っているよ」
にこりともせずに、ルミナス様が続ける。
「さぁ、出ていきたまえ」
他の職なんて言われても、この学園の従業員はいずれも狭き門だ。そうそう空きがでないことだってわかってる。
スピカの宝探しを手伝って、お嬢様の幸せを叶えるためには、ぜっったいにこのポジションを失うわけにはいかない。
ぐっと拳を握って、ルミナス様を強く見つめる。
「——嫌です。出ていきません」
「……なんだと?」
「わたくしをこのまま専属にしてください。必要以上に近づかないと誓いますし、陰ながらお役に立ってみせますから」
「……なぜそこまで必死になる? ……やはり、僕に気があるのか……!?」
一気に青ざめたルミナス様。
……なにこの人!!!
「いいえ、違います。本当に違います」
「……女性はすぐに嘘をつくからな。信用ならない」
いや、なにその自信! 無理すぎ!!!!
「さぁ、出ていけ」
「……っ、嫌です」
「仕方ない」
ルミナス様が横を通り過ぎていく。
扉に向かってると気づいた瞬間、あたしは彼の腕を掴んでいた。
「待ってください!」
部屋に居座ろうとしてるなんて告げ口されたら、それこそ解雇される!!!
「!? 僕に触るな!」
「いたっ!」
振り返りざまに思いっきり振り払われて、あたしは床に尻もちをついた。
「~~っ、信じらんない! なにすんの、この勘違いナルシスト!!」
……はっ!
「勘違い、ナルシスト……だと!?」
「いや違うんです! 今のはちょっと、ええと、言い間違いっていうか」
慌てて立ち上がったあたしに、ルミナス様が犯罪者でも見るような目を向ける。
「よっぽど解雇されたいようだな。望み通りにしてやろう」
ルミナス様がドアノブに手をかけた。そのときだ。
「う、動かないで!」
存在をすっかり忘れていたスピカが、ポケットから飛び出した!
床に着地すると、必死に叫ぶ。
「で、出ていくなら! 魔法で……ええと! カチコチにしちゃうよ!!」
ルミナス様が固まった。そして——。
「……ひぃっ!! な、なな、なんだその生き物は!!!」
扉に背中をくっつけて、大袈裟なくらい青ざめちゃってる!!イケメンが台無し!!!!
「――ルミナス? ずいぶん騒がしいけど、どうかしたの?」
はっ、扉の向こうからエディ様の声が……!
「エ、エディ……ッ! 助け——」
やばい!!!!!!
あたしはソファに置いてあったクッションを掴み取ると、ルミナス様の前へと駆け出した。
万歳するみたいにして、クッションを綺麗な口元に——ぼふっ!!
思いきり押し当てて、扉との間に閉じ込める。
「!!!!?」
「(ルミナス様。余計なことは言わないでください)」
「アリーかっこいい……!」
スピカが拍手してるっぽい音が聞こえてくる。
ルミナス様はクッション越しにむーむー抵抗してるけど、大嫌いな女性に接近されてるからか力が入らないみたいだ。
「おーい、ルミナスー?」
扉に向かって、あたしはすました声を作った。
「エディ様。ルミナス様は体調が悪く、現在寝込んでいらっしゃいます。少々うなされておりまして」
「アリサさん? ええと、少々……じゃなかった気がするけど」
「恐れ入ります。感染防止のため、どなたもお通ししないよう申し付かっております」
「そっか……心配だな。お大事にするように伝えてね」
「はい、畏まりました」
エディ様の足音が遠ざかり、バタンと扉が閉まる音がした。……ふう、危ない危ない。
力を緩めると、ルミナス様はあたしからクッションを奪い取った。
そのまま盾みたいに胸の前に構えて、めちゃくちゃ涙目で睨んでくる。
「き、君……っ、今すぐ離れたまえ……!」
この気を逃すわけがない。
あたしはルミナス様にずいっと近づいた。
「解雇しないって約束してくれるなら、離れてあげてもいいですよ?」
「!? 汚いぞ……っ!」
「汚くても結構です。ちなみに、もしあたしを解雇したら……ルミナス様は恋人を絶賛募集中だって嘘言いふらしますから」
「!!?」
にーっこり笑ってあげると、ルミナス様は耐え切らなくなったように、クッションで顔を覆った。
「……わかった……っ、解雇しない……! だから頼む! 距離をとってくれ……」
よし……!勝った!!!
* *
あのあと。
さすがに「ただのネズミ」を装うには無理がありすぎて、スピカはルミナス様に「魔法使いになるための試練中」なのだということを説明した。
「この島にある『いちばんの宝物』を探さなくちゃでね。アリーは、そのお手伝いをしてくれてるの」
「――なるほど。事情はわかった」
ソファーに腰かけたルミナス様が、数十分前とはまるで別人のような涼しい顔で、長い脚を組み替える。
ちなみに、あたしはもちろん立ちっぱなし。肩にはスピカが乗っている。
「しかし、『いちばんの宝物』か……。ふっ、実に簡単な謎かけだな」
え??
「もしかして、何か知ってるのっ!?」
スピカが耳元で声をあげた。
「おそらく、入学式の際に話があった『最優秀生徒』に贈られる品のことだろう」
「? それ、なあに?」
「一年を通して、最も優れた芸術活動をしたと認められた生徒が表彰されるんだよ。『すごい魔法使い』とやらが人間と協力しろと言ったのは、そういうことさ。学園の生徒でない限り、決して手に入れることはできないからね」
「あ、そうか……!」
思わず手を打つと、ルミナス様が呆れたような目を向けてきた。
「どうしてこれほどまでに簡単なことがわからないんだ。頭を使うということを知らないのか?」
「うっ……」
たしかに、少し考えればわかることだったのかもしれないよ? だけど、ここで大人しく負けを認めるほど、あたしはデキた人間じゃない。
「ずいぶん自信満々ですけど、まだ確定ってわけじゃないし」
「最優秀生徒に贈られる品は、宝石がふんだんに使われた王冠だ」
完全に無視された!!!
ていうか……。
「なんでそんなことわかるんですか?」
「先日アーティラスの事務局で君と最低最悪な出会いをした時、事務員がデザイン画を持っているのを偶然見たのさ。そこには、納品日……終業式間近の日付が書いてあった。景品と考えるのが妥当だ」
最低最悪って! だけど……くっ、何も言い返せない……!
あたしがぐっと唇を噛むと、ルミナス様は勝ち誇ったかのように口角を上げた。
「スピカ。わかっただろう? このちんちくりんよりも、僕の方がよっぽど役に立つ」
そう言って膝に肘をつき、身を乗り出すようにしてスピカを見つめる。
「どうだ? こんなのとは縁を切って、僕と手を組まないか?」
はぁ!!?
「もう我慢の限界! なんなのあんた!!!」
「大きな声を出すな! 空気が汚れる!」
「え? え?」
スピカは困惑しきった様子で、睨みあうあたしとルミナス(もう『様』なんてつけたくない!!)を交互に見ている。
「僕には、最優秀生徒賞を授与する自信がある。一方で、このちんちくりんは生徒じゃない。その時点で、協力できることなど何もないのさ」
「ちんちくりん、ちんちくりん、しつこいな! 大体、どうしてあんたがスピカに協力するわけ!?」
「もちろん、善意だよ」
唇は綺麗に弧を描いてるけど、目が笑ってない。
絶対なんか企んでる……!
あたしはスピカに顔を寄せて囁いた。
「(……スピカ、この人はやばい。協力してくれそうな他の生徒を探そう。ね?)」
「聞こえているが?」
地獄耳御曹司が、眉間の皺を濃くした。
「さぁ、スピカ。僕の元へ来るといい」
「だめ、スピカ! あいつ、絶対に何か企んでるって!」
「笑わせる。君こそ、そこまで必死になるのは何か企みがあるからなのだろう? 僕の目は誤魔化せない」
「はぁ? あんたと一緒にしないで」
「本当に口が悪いな。育ちが知れる」
「育ちがよかろうが、ろくでもない人間もいますけどね? 今日学びました」
「なんだと?」
ルミナスが立ち上がる。
あたしたちはバチバチ火花を散らしながら睨み合った。
「ふたりとも、喧嘩はやめてよっ!」
スピカがあたしの肩から、テーブルに飛び移る。
「三人で一緒に頑張ろう! ね?」
え?
あたしとルミナスは、そろってスピカを見た。
「一緒に……だと?」
「スピカ、本気?」
「うんっ!」
スピカは、なんだか嬉しそうに尻尾をゆらゆら左右に振っている。
「ボク、初めてご主人サマ以外の友達ができたんだ。ここで過ごす間、二人と一緒にいられたら楽しそうだなって思ったの。……だめかな?」
小さく首を傾げて、うるうるしてるスピカ。
可愛い……っ!
「……なんて愛らしい生き物なんだ……」
「え? 今なんて?」
腹黒御曹司らしからぬ発言が聞こえた気がして、あたしはルミナスを見上げた。
彼はわざとらしく咳払いすると、あたしの視線から逃れるようにしてスピカを見下ろす。
「君の気持ちはよくわかった。しかし、この女の力などなくとも――」
「アリーが一緒じゃないなら、ボク、違う生徒さんのところに行く」
珍しく強い口調に、はっとした。
スピカは『お嬢様の幸せな未来』を叶えたいっていうあたしを心から応援してくれてるんだ。
さっきだって、あたしをルミナスから守ろうと飛び出してくれた。
ありがとう。
そう心の中で呟くと、ルミナスが忌々し気な目をあたしに向けた。そして、渋々と呟く。
「……仕方ない。従おう」
「!? ありがと! ルンルン」
……ルンルン……。
「――ぶっ、よくお似合いです。ルンルン様」
「わ、笑うな! おい、スピカ! そのようにマヌケな呼び名はやめないか!」
だけど、スピカは聞いちゃいない。
「二人とも、これからよろしくねっ」
のほほんとした声に怒る気力をそがれたんだろうね。
ルミナスはがっくりと肩を落とすと、額を押さえた。
「……ひとまず、今日は解散だ。僕は一刻も早く……身を清めたい」
ルミナスは扉を指さした。出ていけって言う元気もないみたいで、随分ぐったりしてる。
ちょっと可哀想かも……。
「夕食のトレイは明日の朝下げてくれ。ランドリーバッグの受け取りも明日だ。今日はもう、その顔は見たくない」
……前言撤回!
恨むなら、年齢を確認せずにスカウトした自分を恨むことだね!!
とはいえ、ここに残る理由もない。
「それじゃあ、行こうか。スピカ」
「うん。おやすみ、ルンルン」
「……その呼び名は非常に気になるが……まぁいい。おやすみ、スピカ」
スピカにしか挨拶してくれなかったことは、もう触れないでおこう。
あたしたちはルミナスの部屋を出ると、男子学生寮を後にした。
夜風を頬に感じながら、ポケットに入ったスピカにそっと話しかける。
「スピカ。たくさん庇ってくれてありがとう」
額のあたりを指で撫でてあげると、スピカは気持ちよさそうに瞳を細めた。
「アリーも、たくさんありがと」
そんなこんなで始まった、あたしたち三人(二人と一匹)の協力関係。
チームワークばっちりとはいかないだろうけど、『お嬢様の幸せな未来』とスピカの夢を叶えるために、ルミナスにはなんとしても最優秀生徒賞をとってもらわないとね!
そのために、あたしができることって何だろう?
うーんと頭を悩ませながら、あたしは歩きだしたのだった。
(✶次回からは、建築学科コンテスト編。最優秀生徒賞授与を目指した、凸凹主従+🐭の学園生活が始まります!
更新は【1月16日(金)】を予定しています🌿)
˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
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