第12話 秘めた想い(メイド✶アリサ―Wishmoreな学園日記)
ご覧いただき、ありがとうございます⛄
前回「次回からは建築学科コンテスト編です!」とお伝えしましたが、ここで一度フリィジア視点を挟ませていただきます。
前回のお話📕
登場人物紹介など📝
フリィジアとアリサの、学園出発前のやりとり
(こちらをお読みいただくと、今回のお話がより楽しめると思います🌿)
補足《登場キャラ紹介》
ロッタ:
先輩メイド。フリィジアの専属。
フレンドリーで明るく、情報通っぽい眼鏡女子。
可愛い女の子が大好きで、『女の子同士の秘密の関係』をアリサとフリィジアに期待しているらしい。
˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
フローラ芸術学園に入学してから、早一週間。
私は今、寮の自室にて、万年筆を手に机に向かっているところだ。
平日の19時過ぎ。夕食はすでに済ませ、専属メイドのロッタさんがトレイを下げてくれた。
さて、と。
万年筆を握った手を、ゆっくりと動かしはじめる。
『お父様へ
お変わりありませんか? 私は、学園で元気に過ごしています。
朝から晩まで絵に向き合えることが、こんなにも楽しいだなんて……。
本当に、入学を許してくださってありがとう』
同級生や先輩方のキャンバスを覗いては、刺激を受けていること。一緒にお昼ご飯を食べる友人ができたこと。肌寒い朝晩は、お父様が「リジィが風邪を引かないように」と誕生日に贈ってくださったカーディガンを羽織っていること。専属メイドのロッタさんは、話しやすい雰囲気の方だということ。
手紙を読むお父様の嬉しそうな顔を想像して、楽しく綴っていく。
そして、きっと気にかけていらっしゃるだろう彼女のことも……。
『ロッタさんからお聞きしましたが、アリサは日々てきぱきと仕事をこなしているそうです。なかなかゆっくり話す機会はないけれど、この前すれ違ったときには、嬉しそうに挨拶をしてくれました。
元気で明るいアリサは、きっとみんなから好かれ愛されるはずです。
どうか、私たちのことはご心配なさらず。
お父様もお身体に気をつけて、日々を楽しくお過ごしくださいね。
あなたの娘 フリィジアより』
手を止めると、ひとりでにため息が漏れた。
" 元気で明るいアリサは、きっとみんなから好かれ愛されるはず ”
自分が綴った文字が、ひどく浮いて見える。
今日、勇気を出してロッタさん(アリサから、彼女と私が旧知の仲だと聞いたみたい)にアリサの近況を尋ねたところ、「アリサさんは、ルミナス・ローズ様の専属なんですよ。なので、やっかみは受けちゃってますね~。だけど、彼女全然気にしてないみたいです!」と笑顔が返ってきた。
だけど、私は笑えなかった。
ルミナス・ローズというお名前が、心に引っかかって仕方がなくて。
だって、私は――。
コンコン
控えめなノックの音に、はっとする。
……ロッタさんかしら……? もう、用事はないはずだけれど……。
「はい」
扉の前まで行って答えると、すぐに返事が聞こえてきた。
「ロッタです。食後のデザートをお持ちしました」
「え?」
驚き、扉を開ける。
そこには、トレイを手ににっこり微笑むロッタさんの姿があった。
縁が波打つ皿には、卵色のシフォンケーキがふわりと乗っている。生クリームと一緒に添えられているのは、まるで宝石のように艶めく苺とブルーベリー。そして、紺碧のカバーがかけられたポットとティーカップも準備されていた。
「あの……私、デザートなんて……」
「すみません。わたくしの思い違いかもしれないのですが、フリィジア様、少しお疲れのご様子だったので……。学生食堂のショーケースの中で、一番美味しそうなものをお持ちしちゃいましたっ」
ロッタさんが、冗談めかして声を弾ませる。
彼女のふいの優しさに、ほんの少し泣きたくなってしまった。
「……ありがとう、ロッタさん。どうぞお入りになって」
「はい。失礼いたします」
ロッタさんが、恭しく一礼して部屋に入ってくる。
その姿を見ているうち、ひとりでにアリサのことを思い出した。
生まれ育ったあの家では、アリサと数えきれないほどのお茶会をした。
他愛のない話をして笑ったり、お菓子や紅茶の感想を伝え合ったり……。本当に楽しくて、とても幸せな時間だった。
お茶会だけじゃない。アリサが隣にいてくれるだけで、私はいつも幸せな気持ちになって……。
だけど、それと同時に切なかった。もどかしかった。
そんな感情を抱き始めたのは、いつからだったんだろう。
それはもうわからないけれど、このままそばにいたら、きっと永遠に続くだろう――それだけはわかっていた。
だから、この学園を受験した。
寮に入れば、アリサと離れることができる。会わずにいる間に、この感情を捨て去ることができるかもしれない……いっそのこと忘れてしまいたい。そう願ったから。
もちろん、絵を学びたい気持ちは本物だ。
だけど、それ以上に、アリサのことが頭を占めていた。
それなのに、あなたが学園に来てしまうなんて。
男子生徒――。それも、あの完全無欠な王子様の専属だなんて。
そんなの……やっぱり、嫌よ。
「紅茶は、パティシエおすすめのブレンドをお持ちしました。花のように香るとのことで。このケーキによく合うそうですよ」
「そう。一緒にいただくのが楽しみだわ」
私は、気付けばソファに腰掛け器用に微笑んでいた。
目の前のテーブルにはケーキの乗った皿とティーカップが置かれている。ロッタさんがポットの縁を持ち上げると、湯気がほどけるように立ちのぼった。ふわりと届くやわらかな香り……どこか苦く感じるのは、今の私の気持ちのせいだろう。
「それでは、わたくしは一度失礼いたします。のちほどトレイを下げに参りますので、ごゆっくりお召し上がりください」
「あ……待って、ロッタさん」
「? はい」
「その……次回からは、ぜひロッタさんの分もお持ちになって。一緒に、お茶会ができたら嬉しいわ」
伝えると、ロッタさんがこれでもかというほど目を丸くした。
「え? ……え? よろしいのですか……?」
きっと、前に担当されていた生徒とは、きっちりと線を引いていたのね。
驚かせてしまって申し訳ない気持ちになりつつ、私は控えめに微笑む。
「ええ。もし、ロッタさんさえよければ。それと……もう少し気軽に接してほしいなって……。その方が、お互いに楽だと思うから」
伝えたあとで、ほんの少し胸が痛む。
ロッタさんとの日々を、アリサとの思い出に上塗りしようとしている自分に気付いているから。
だけど、ロッタさんとゆっくりお話ししてみたいのも本当だ。
気を遣われてばかりの関係は苦手だし、せっかくのご縁なのだから仲良く楽しく過ごしたい。
……って、私は言い訳ばかりね。
「……まさか、こんなことが……」
ぼやき声に、私は落ちていた視線を上げた。
すると、うつむき肩をふるわせているロッタさんが目に入る。
「? あの……ロッタさ――」
「フローラ芸術学園ばんざーい!! 新学期ばんざーい!!!」
ロッタさんが、トレイを手にしたまま両手を天井に突き上げた。
私はつい、呆気にとられてしまう。
「……えっ? ええと……」
「すみません、お言葉に甘えて素を出しちゃいました」
ロッタさんが楽しげに笑う。
「あのですね? ウチ、ずーっと女子生徒の専属になるのが夢だったんですよ! 可愛い女の子が大好きで……あ、これはおかしな意味じゃなくてですね――」
おかしな意味。ロッタさんの明るい声が、胸にチクリと刺さった。
アリサ。
私はね、あなたに抱いてはいけない、この感情とお別れしたかったの。
それなのに……だめね。そばにいたかったと言われて、嬉しいと思ってしまった。「足枷にはなりたくない」なんて言いながら、離れずにいてほしいと強く願ってしまっているのよ。
私の隣にいるときに、一番の笑顔を浮かべてほしいの。
だから――
どうか、他の人を好きにならないで。
せめて私がこの気持ちを忘れられるまでは、今のあなたのままでいて。
お願いよ、アリサ。
(✶次回はアリサ視点に戻り、『建築学科コンテスト編』に突入します。
フリィジアの恋の行方についても、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです)
˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
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