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第3話 過去と今のあたしたち②(メイド✶アリサ―Wishmoreな学園日記) 

前回のお話📕

振り返り📒
アリサと若奥様(カーラ)のバトルはこちら↓


 夕方。汽車は何事もなく駅に到着し、あたしは歩いて屋敷へと帰った。 
 使用人用の離れ(あたしの住んでる場所。ありがたいことに自分の部屋もある)でメイド服に着替え、母屋へと向かう。

 まず訪ねたのは、旦那様のいらっしゃる書斎だ。採用試験に合格したことを伝えると、旦那様はまるでご自分のことのように喜んで、あたしの髪を大きな手で撫でてくださった。


「アリサ。ここは君の家だよ。フリィジアの卒業と同時でも、そのあとでもいい。やりきったと思えたら、いつでも戻っておいで」

 ふくよかな頬を綻ばせて、旦那様があたたかく微笑む。
 カーラとの約束で、もうこの屋敷に戻ってくることはできない。だけど……なんて嬉しい言葉だろう。

 ……旦那様。そばで暮らせなくても、心はずっとあなたにお仕えしていますからね。


「……アリサ……。泣いているのかい……?」

「……ふふ、すみません。旦那様のお心遣いが嬉しくて……って、旦那様まで泣かないでくださいよぉ……!」

「うう……だって、可愛い娘が二人揃って巣立ってしまうなんて……寂しくて寂しくて……」

「もう、旦那様ったら……!」

 あたしと旦那様は、抱き合ってしばらくめそめそしていた。
 そこに入ってきたカーラに苦虫をかみつぶしたような顔をされたけど、こっちこそ不快で涙が引っ込んだから!

「……あなた。みっともなくてよ?」

「ああ、すまない……つい……ぐすっ」

「はあ……全く。それで? アリサ。合格したんでしょうね?」

 あたしは胸を張って答えた。

「もちろんです」

「ふふ、やるじゃない。向こうでも頑張りなさいな」

  ここぞとばかりに、いい女主人ぶってきたカーラ。
 それを見ている旦那様は、「どうなることかと思ったけど、この二人もすっかり仲良くなってよかったなあ~」なんてお顔だ。

 裏事情をぶちまけたいのを我慢して、あたしは「ありがとうございます、奥様」とメイドらしく一礼。書斎を後にした。(感謝しろ!)


 次は、いよいよお嬢様にお話しする番だ。

 ……緊張するな……。

 廊下を歩いていたあたしは、ふと、窓の外にお嬢様の姿を見つけた。
 夕日の差し込む中庭。しゃがみ込んで、スケッチブックに鉛筆を走らせていらっしゃる。

 あとにしたほうがいいかな……邪魔したくないし。

 なんて思ったのと、お嬢様が顔を上げたのはほぼ同時だった。
 窓越しに目が合って、お嬢様がふわりと微笑む。おいで、と手招きしてくださったから……あたしはドクドク鳴る鼓動を聞きながら、中庭に向かった。

「おかえりなさい、アリサ。休暇は楽しめた?」

 スケッチブックを膝に乗せ、ベンチに腰掛けたお嬢様が笑顔で迎えてくださる。

 あたしが休みを取るなんて珍しいから、今朝も「楽しんできてね」とわざわざ声をかけてくださった。その優しさが嬉しくて、でも今は痛くて……あたしはぐっと唇を噛んだ。


「アリサ……?」

「お嬢様。実はあたし……」

 顔を上げ、しっかりお嬢様を見つめる。

「学園メイドの採用試験を受けてきたんです」

「え…?」

「合格したので、お嬢様と一緒にこの屋敷を出ます」

 お嬢様の表情が凍りついたのがわかった。
 覚悟してたのに、胸がひどく痛む。

「そんな……どうして、今更…?」

「留守をお守りすると誓ったのに……ごめんなさい!」

 あたしは深く頭を下げた。

「でも……どうしても、お嬢様をそばでお守りしたくて……」

「……。……顔を上げてちょうだい」

 感情を押し殺したような声だ。
 おそるおそる言われた通りにすると、お嬢様はベンチに座ったまま、小さく俯いていた。

「……そばで守りたいだなんて……。私の専属になれるとは限らないでしょう?」

「……はい」
 
 ルミナス様にスカウトされたことは、今は伝えなくていい。私はぎゅっと拳を握りながら、お嬢様の言葉の続きを待った。

「私は……アリサが他の人のお世話をするなんて嫌だわ」  

「!」

 お嬢様の少し拗ねたような声に、「大好き」とか「嬉しい」とか、熱いものがぐわ〜っ! と込み上げてくる。
 口が勝手に開いた。

「あたしだって、お嬢様にあたし以外のメイドがつくなんていやですっ! でも…お嬢様と同じ景色を見られるの、正直すごく楽しみで…」

 あたしは大きく息を吸った。

「たとえ一番近くに居られなくても、全力でお嬢様の学園生活を応援します! だから…ついていくことを、許してくれますか…?」

 見つめた先で、お嬢様が息を呑む。
 そうして何も言わずに立ち上がり……静かに私のそばまでやってきたかと思うと、ぎゅうっと抱きしめられた。

「……! ……お嬢様?」

「…私…そろそろあなたから離れなくちゃいけないと思っていたのに…。…だめね。やっぱり手放せないわ」

 お嬢様……っ。

「手放すなんて、そんな…! あたしは、まだお嬢様に恩返しできていません。そばにいさせてくれなきゃ困ります!」

 夢中で抱きしめ返すと、お嬢様の力がふっと抜けたのがわかった。

「……アリサ」

   そっと肩を押されて、体が離れた。
 すぐそこにあるエメラルドグリーンの瞳が、静かに私を見つめている。

「私は恩返しなんて望んでいないわ。あなたに出会って救われたのは、私の方だもの」

「そんなこと…」

「嘘じゃないわ!」

 珍しい大声に思わず言葉を飲み込んだあたしから、お嬢様が小さく目を逸らす。

 どれくらい沈黙が続いたころだろう。
 心を静めるように息を小さく吐き出してから、お嬢様はあたしを見つめ直した。

「学園で働くことがあなたの本当にやりたいことなら、私はもちろん応援するわ。だけど……もし私に恩を感じて自分を犠牲にしているのだとしたら、それはやめてほしいの。私は、あなたの足枷になりたくない」

「!? 足枷だなんて、そんなこと死んでも思いません!」

 あたしは夢中でお嬢様の両手をとった。ぎゅっと握って瞳をまっすぐに見つめる。

「お嬢様のお傍にいられることが、お嬢様の笑顔が見ることが、あたしの幸せです。だから一緒に行きたいんです。これは、間違いなくあたし自身の望みです」  

 お嬢様の表情が、ふっと緩んだ。

「……わかったわ。ありがとう」

 よかった……。

「こちらこそ、ありがとうございます」


 それからあたしたちは、ベンチに並んで腰掛けた。夕日に照らされた花たちを眺めながら、学園生活に思いを馳せる。

 校舎ですれ違えるかな? とか、どんな先生や生徒がいるかな? とか……。
 
 楽しく話してたのに、途中でふと、気持ちが暗くなる。

 ……こんなふうにこの庭でお喋りするのは、もう最後……

 ……なんて! やだやだ!
 センチメンタルはあたしに似合わないよね!

 
 未来のことは、その時に考えればいい。

 今は、同じ学園で過ごせる奇跡に感謝しよう!
 


(次回、いよいよ学園生活スタート✴︎)

 ˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.


《投稿スケジュール》 毎週月・金 15時頃🍪☕
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