第10話 働くメイドと不穏な予感……!(メイド✶アリサ―Wishmoreな学園日記)
前回のお話📕
登場人物紹介など📝
補足《登場キャラ紹介》
ロッタ:
先輩メイド。フリィジアの専属。
フレンドリーで明るく、情報通っぽい眼鏡女子。
可愛い女の子が大好きで、『女の子同士の秘密の関係』をアリサとフリィジアに期待しているらしい。
ノエルノ:
先輩メイド。ルミナスの従兄弟・カリムの専属。
ビビり症の苦労人。
困り眉とそばかすがトレードマーク。
性格ブストリオ:
ルミナスのファン3人組。
アリサが彼の専属になったことに嫉妬して、アリサの部屋に侵入し衣類を切り刻んだことがある。
(✴︎入学式に出席し、『最優秀生徒賞』について知ったアリサ。メイドの先輩から『ルミナスが元専属をクビにしたらしい』という恐ろしい噂を聞きつつ、洗濯場へと向かったのだった。)
ロッタ先輩による謎の事情聴取(あたしとお嬢様の、女の子同士のあれこれ……?)を適当にかわし、ようやく洗濯場にたどり着いたあたしを待っていたのは、無表情で仁王立ちをしたシーナ先輩だった。
制服じゃなくて、洗濯係用の作業服――麻のワンピースにエプロンを重ね、白い被せもので髪をすっぽり覆っている。
「……お二人とも、ずいぶんと遅かったですね」
「あはは~。つい、盛り上がっちゃって」
「……ロッタさんに引率を頼んだ私が愚かでした。さあ、今すぐ作業服に着替えてください。髪も束ねてモブ・キャップにしまうように」
「はいは~い」
「申し訳ありませんでした!」
まったく悪びれのないロッタ先輩の分まで、あたしは必死に頭を下げた。
すると、嫌味ったらしい声が飛んでくる。
「あらまあ、困った新人ね」
げっ!!
性格ブストリオのリーダー…!!
「リ、リゼさん……っ、そんな言い方は……」
隅に立っているノエルノ先輩が、慌てて声を上げた。
「本当のことだもの」
くっそ~! 鼻で笑うな、性格ブス! リゼなんて可愛い名前しやがって!
ていうか、洗濯係のメンバーって、この五人ってことだよね?
はぁ……。ずっと固定って聞いたのに、この人と一緒だなんてツイてないわ……。
「アリサっち真面目だねえ~。ほら、行こ」
ロッタ先輩が腕を組んでくる。
あなたが不真面目なだけです! って言ってやりたかったけど、なんだかもう疲れたから大人しくついていくことにした。
更衣室で作業服に着替え、三つ編みを一つに束ねてキャップに入れ込む。
……にしてもだよ?
でっかい籠に入ったランドリーバッグの山がいくつも目に入った瞬間、あたしは叫びそうになった。
五人でこの量は鬼畜すぎっ!!!
だってだって!
この学園にいる全員分だよ!?
これ、丸一日かかるって!!
「アリサさん。洗濯の経験はありますか?」
シーナ先輩が淡々と聞いてくる。
……平常心、平常心……。
「はい。以前勤めていたお屋敷で、アイロンがけまで一通りやっていました」
あたしは、はきはきと答えた。
シーナ先輩が静かに頷く。
「なるほど。では、かいつまんで説明していくことにしますね」
そうして指導が始まった。
童話に出てくる魔女が使ってそうな大鍋には火が沸かしてあって、蒸気と薬品の匂いが立ち込めてる空間で、ロッタ先輩とノエルノ先輩、それからリゼ先輩(一応そう呼んでおく。えらいでしょ?)がせっせと動き回っている。
ノエルノ先輩が抱えてる洗濯桶、これまためっちゃでかいよ。あんなの見たことない。
「――下着類、シャツ、その他衣類は分けて洗濯します。それぞれ使う薬品が違っており……」
なるほどなるほど……。
「この作業が終わったら、次は……」
ふむふむ……。
薬品がずらーっと並んだ棚の前で使い分けを教えてもらったり、先輩たちのやってる作業を後ろから見学したり、ちょっと混ざってみたり……。
覚えることはいっぱいだけど、時間が経つにつれて「やったるぞー!」って気分になってきた。
テンションあげあげで、担当を任された絞り機のローラーを両手で回していると……。
「あら。そのハンドルかなり重いのに、そんなに軽々……。お子ちゃまな顔に似合わず怪力ね。
せっかくだし、これもぜーんぶお願い」
これでもかってほど衣類を積まれた洗濯桶を抱えて登場したのは、性悪リゼだ。
「私はあなたが絞ったものを干す係をやるわ。午前中のうちに全部干しちゃいたいから、早くしてちょうだいね」
「かしこまりました、リゼ先輩」
にーっこり笑って返してやると、リゼは瞳をキッツく細めてわざとらしく鼻を鳴らした。
「くれぐれも衣類を破ったりしないようにね。あなたみたいに欲張ってローラーに何枚も挟むと、そういうことになるから」
「ご忠告ありがとうございます。ご自分の失敗談を教えてくださるなんて、リゼ先輩ってと~っても親切ですね。気を付けます」
「な、なによ! 誰も私がやらかしたなんて言ってないじゃない!」
あ、図星だな。わっかりやすい……。
ぎゃんぎゃん吠えるリゼ先輩を無視してせっせとローラーを回すこと……何時間だろう。
全部終わった頃には腕がめっちゃ痺れてた。
あとは午後、洗濯物を取り込んで、生乾きのものには温風をあてて、アイロンをかけて、青み付
けと糊付けをして、それぞれのランドリーバッグにたたんで入れて……っていう果てしない作業が待っている。
ちなみに、生徒も従業員も、衣類には全て氏名の刺繍が義務付けられてるんだ。取り違え防止のためにね。
「はあ、疲れた~。洗濯係がいっちばん辛いよ~」
「ロッタさん。愚痴を言っている暇はありませんよ」
シーナ先輩が、ぱんと手を叩く。
「さあ、まもなくランチタイムです。各自、準備に取り掛かるように。では、解散」
よし、食堂に行ってルミナス様の席を確保するぞ!
* *
授業終了を知らせる鐘の音を聞きながら、ファーファちゃんと並んで生徒食堂の壁際に立つ。
両脇にはメイドたちがずらり。小声でお喋りしつつ、担当生徒が入ってくるのを待っている。
「席、無事に取れてよかったね」
ファーファちゃんがふわ〜って微笑んだ。
うん! って、私の声も弾む。
「しかもかなりいい席だしね」
各テーブルの上には、手のひらサイズのネームプレートが置いてある。
生徒の名前が金で刻まれていて、透かし彫りの花のレリーフがフリルみたいにも見える一級品だ。担当生徒が食堂を使う場合には、あのプレートを使って席を確保することになっている。
あたしはルミナス様に頼まれていた通り、ご友人だというエディ様とのお二人分の席を、ファーファちゃんと一緒に確保した。
四人用のテーブル席を選んだし、ゆったり広々~って感じでお食事を楽しんでもらえるだろう。
達成感に浸っていると、生徒たちがちらほらと入ってきた。メイドたちがそれぞれ迎えに出て、席に案内しはじめる。
お嬢様は……まだいらっしゃらないか。
はぁ、がっかり……。
ロッタ先輩、これから毎日お嬢様のそばにいられるなんていいなぁ……。
「あ、いらっしゃったよ」
ファーファちゃんの声で我に返る。
たしかに、人波に紛れて、ルミナス様が誰かと楽しそうに話しながら近づいてきていた。
ふわっとした栗色の髪に、素朴な雰囲気の眼鏡。笑顔が穏やかなのが遠目にもわかる。
「あの方がエディ様?」
「うん、そう。とっても優しい方だよ」
そんな会話をさっと済ませ、二人そろって食堂の入口までお迎えに上がる。
「ルミナス様、お疲れ様です。お席にご案内いたしますね」
「ああ、ありがとう」
爽やかに微笑んだルミナス様が、「そうそう」と隣の方を手のひらで示す。
「彼がエディ。僕の親友だ。
自己紹介を頼めるかい?」
目配せされ、私は頷いた。
「もちろんでございます。
エディ様、初めてお目にかかります。ルミナス様の専属メイドを務めさせていただいております、アリサと申します。
よろしくお願いいたします」
深々と一礼して頭を上げると、エディさんは緑色のつぶらな瞳をぱちぱちさせてあたしを見下ろ
していた。
「すごいや……。本当に、とてもしっかりしてるんだね」
「?」
「あ、ごめんね。僕はエディ・ランタナ。
ルミナスと同じ音楽科で、作曲を専攻してるんだ。これから何かとお世話になると思うから、よろしくね」
にっこり微笑みかけられて、ほわ~んとあったかい気持ちになる。話し方も穏やかだし、腰も低
いし、ほんとに優しい人なんだろうなあ。
ファーファちゃんとルミナス様も初対面の挨拶を交わし、いざお席にご案内!
「こちらでございます」
振り返ってみると……あれ? ルミナス様が、引きつった顔をされているような……。
「ルミナス様っ」
ん?
背中から、高い声が飛んできた。
振り返ってみると、可愛らしい女子生徒が二人。その後ろにメイドが二人、トレイを手に控えている。
「お食事、ご一緒してもよろしいですか?」
「ぜひ、お話ししたいですわ」
おおう……! 上目遣い攻撃! やっぱりすっごい人気だなあ、ルミナス様って。
「……ああ、構わないよ」
ルミナス様が小さく微笑むと、食堂内の空気がふわっと浮いた気がした。
「きゃあ、嬉しいっ」
「ありがとうございますっ!」
女子生徒たちが、目をキラキラさせながら大はしゃぎで席につく。
その背後。
ずるい!って顔をしてる女子が、あっちにもこっちにも。その中にはリゼ先輩もいた。
ハッハッハ! 残念でした~!
……
なんてことがありつつ、あたしはルミナス様から注文を伺い、ご希望の料理を運んで壁際に戻った。
あとはお食事が終わるのを待って、食堂の外までお見送り。午後のご予定をうかがって、すべき
ことがないかどうか確認するんだよね。
「ルミナス様って、やっぱり人気なんだねっ」
ファーファちゃんが小声で、楽し気に話しかけてきた。
「ご一緒してもいいですか? ……なんて、びっくりしちゃったよ」
あたしも! って返そうと思ったんだけど、それはやめて、ちょっと引っかかってたことを聞いて
みることにした。
「ねえ、ファーファちゃん。ルミナス様、なんかご様子が変じゃなかった?」
「え? どのあたりが?」
きょとんと尋ねられて、言葉に迷う。
席にご案内したとき、ちょっと表情が強張っていたような気がした。でも、それだけだ。
「んー、気のせいかも」
「そう? ならよかった」
ほどけるような笑顔を見ているうちに、ふと、ロッタ先輩とノエルノ先輩から聞いた話が蘇る。
前任のメイドが辞めた理由って、何なんだろう。ルミナス様がクビにしたって、本当……?
ランチタイム中のルミナス様を盗み見る。
笑顔でエディ様の話に相槌を打っているのに、肩に力が入っているような……。呼吸も、少し浅い……?
……もしかして、どこか具合でも悪いのかな……。
あたしはそわそわしながら、この時間の終わりを待った。
ようやく女子生徒たちが名残惜しそうに去っていき、入れ替わるようにしてテーブルへと向かう。
「お疲れ、ルミナス。……大丈夫?」
「ああ……」
近付くにつれて、エディ様との会話が聞こえてきた。ルミナス様、やっぱり体調が悪いんだ……!
あたしは焦る気持ちを抑えて、そっと声をかけた。
「あの、ルミナス様」
「…… ああ、君か……」
ルミナス様が、俯いていた顔を上げる。
医務室までお連れしましょうか?
って言葉を準備してたんだけど—–。
「大切な話がある。
授業終了後、僕の寮室に来てくれ。夕食は部屋で取ることにするから、その時一緒に持ってきてもらえればと思う」
!!!?
まさか、クビとか言わないよね……!?
「君、聞いているかな?」
「は……はい! 畏まりました」
「頼むよ。では、僕は教室へと戻る。また後ほど会おう。――エディ」
「あ、うん。それじゃあね、二人とも。午後のお仕事も頑張って」
エディ様が小さく手を振り、ルミナス様に続いて去っていく。
……。
いやだぁぁ……!!
こんなの、気になって洗濯どころじゃないよっ!!

(✴︎果たして、アリサはクビになってしまうか…!? 次回をぜひお楽しみに☕️🍪)
˚⊹⁺‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
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