短歌:雪を詠むってむずかしい
雪が降りはじめたときに「雪だ」なんて無意味なことを言ってしまった/銀猫
ゆきがふりはじめたときに「ゆきだ」なんてむいみなことをいってしまった
巨匠の超有名短歌にケチをつけるような歌になってしまいましたが、作ってからハタと気付いたのです。他意はございません。
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
わたしは雪国に住んでいるので、冬に雪が降るのは当たり前。「雪だ」には、期待もロマンも夢も何も含まれておらず、何か含まれているとしたら、「積もったらヤダな」的な、何がしかのマイナス感情ですね。先日、こんなの書いていますし。
ちなみに、わたしなりの穂村さんのこの歌の解釈ですが、
「雪が滅多に降らない土地にいる若いカップルの、彼女の方がちょっと風邪っぽい。検温しているときに、窓の外にはちらちら雪が降っているのが見えた。彼女にとってはめずらしい景色で、体温計を咥えたまま『雪だ!』と声に出し、彼氏に教えた。しかし、雪国出身の彼氏にとってはめずらしくもなんともなくて、はしゃぐ彼女を見て『なんだ雪かよ、ガキっぽいなあ』なんて思っている」
というイメージです。そう言えば、穂村さんは札幌のご出身ですね。
子どもの頃は雪が降って楽しかったこともありましたが、そんなのはあっという間に思い出になります。だいたいスキー授業があり、つまりは上手い下手が成績に反映する訳で、上手に滑れない子にとってはあまり楽しいものでもなかったはずです。たぶん、いまでも。
2月16日のNHK短歌は選者が大森静佳さんの回で、テーマは「雪」でした。なお、年間テーマは「歌に”ものがたり”あり」です。
入選9首はすべて素晴らしいものでした。やはり、番組で紹介される歌はわたしの短歌とはまったくレベルが違います。毎回、「わたしもがんばろう」と思うよりは、感嘆の溜息を吐いてしまう状況です。
番組の中で大森さんご自身がおっしゃっていましたが、雪というものは、
静寂、白、儚さなど人間の命のイメージに繋がりやすくて、名歌、名作が多いテーマ…
とのこと。そうなんでしょうね。ご本人も積雪地域のご出身ではないそうで、南国にお住まいの方の歌に、共感を示していらっしゃいました。
もちろん、生まれも育ちも雪国の住人にも、冬が大好きで雪がうれしくて楽しいという人はいます。ただ、そういう人たちはみな、雪の怖さも知っているはず。
わたしも雪に命のイメージを持ちますが、それは冬季の死亡交通事故であったり、数年前に猛吹雪の中で地域住民が生活区域内で遭難死した事件であったり、そういう方面です。
ですから、雪に対して大森さんがおっしゃったようなイメージをお持ちだったり、ロマンを感じたり、という方が詠むような短歌を、わたしは詠めません。詠めないことは、それはそれでいいと思っています。人それぞれ、それこそ、生まれも育ちも違って、想いも違うのですから。
短歌の入選や賞の獲得の基準には、もちろん巧拙もあるでしょうが、それよりも、選者の方の感性とその短歌がどれだけ合っているか、だとわたしは感じています。それが悪いとか不公平だとか言いたいのではありませんので、そこはご理解ください。そのようにふるいにかけられる類の文学作品なのだ、という意味です。
ですから、わたしが不満を述べる筋合いもないのですが、番組を見終えてからこんなことを考えていました。
「雪や冬の厳しさを詠んだ歌をもっと知りたかったなー」
入選9首のうち、2首は雪国の方からのものでした(敬称略)。
マンモスの
親子が確かに
通り過ぐ
吹雪のなかで
雪かきすれば
雪に対する畏怖や畏敬を持っていらっしゃるように思えます。だって、吹雪ということはホワイトアウトに近い状態ということで、そこにマンモスがゆらりと見えたら怖いじゃないですか。ただの幻だったらほかの物が見えてもいい訳で、そこに現れたのがマンモスの親子というのは、わたしは雪に対する畏怖、畏敬の結果だと思うのですよね。
真っ直ぐな
キリトリ線が
雪道に
きっと真面目な
イヌなのだろう
これは、すごくわかります。我が家の周りにもお散歩わんちゃんが多く、雪の朝はいろいろな足跡が残っているんです。この歌のように直線歩きのものもあれば、飼い主の足跡に絡まっているようなものもあります。わたしも、わんちゃんの性格なんだろうなあ、と思って見ています。
どちらも、雪が生活にある方の観察と感性の短歌だと思います。
ふだんは、人様の短歌をこんなふうに解釈や分析をすることはあまりないのですが、「雪」というわたしにとっては身近過ぎるテーマが、身近過ぎてこんなにも人様との間に感覚のズレが生じるのだ、ということがわかった貴重なテーマの放映回でした。
重ねて申し添えますが、ズレていることが悪いとか、おかしいとか、そういう話ではありません。選者の方への文句でもありません。
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