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香港編14. 夜明けの足つぼマッサージ、飲茶、あんまん|香港5日目 中編

「ここに来てはじめて、心から落ち着いた」

その夜、僕はそう日記に書いている。

長い旅の最後、足ツボマッサージ屋の椅子の上で、僕は静けさを取り戻していた。

知らないおじいさんが、隣で寝息を立てている。

それだけで、なぜか異国にいる感覚が消えた。


日記:2002年9月 深夜の香港


朝まで時間はまだあった。
瓶を投げられた後の僕たちは、少しでも落ち着いて朝まで入れる場所を考えた。

疲れが溜まっていて、結構眠かったので、足つぼマッサージ案がでた。

深センには安いマッサージ屋が沢山あったが、香港にはあまりなく、あっても少し高い。

それでも行こう、という結論に落ち着いた。

そして来た道をもどり、行きに見つけたマッサージ店に入った。

なんだか、ここに来てはじめて心から落ち着いた。

香港に来てから、特に昨日は島を往復したり、深センから帰ってきたりと、あわただしく動き続けていたので、このマッサージ店での数時間は、時間がゆっくり流れているみたいだった。


僕たちは、深センのマッサージ店の時のような若い女性が来てくれることを心のどこかで期待していたが、その少しの期待を見事に裏切ってくれた(予想通り)。

やってきたのは、ほぼお婆さんだった。

そしてY さんの方には、奥から盲目のお爺さんが出てきた。

僕は最初、Y さん側にも女性が来るものだと決めつけていたので、軽く吹き出しそうになった。

でもY さんの様子を見ると、もうどうでもいい、と言わんばかりの疲れてゲッソリしていた。

その姿に、僕も疲れで変な感覚になっていて何だか笑えてきた。


足を湯につけ、軽く揉まれ、スーッとするオイルを塗られて、念入りにほぐされる。

うん、疲れがとれる!マッサージにしてよかった!何より深夜の外より安心感が違う!

となりには、寝ているおじいちゃんの客。

何となく、この国の「普通」を見た気がした。

マッサージされている間、この数日間のこと、帰国してからのこと、そしてその先、短大卒業後の人生のことを、いろいろ考えた。

その瞬間、ここは異国ではなかった。


あっという間にマッサージが終わった気がした。

満足だった。

疲れは想像以上にとれて、心からHAPPYだった。もうそろそろ、朝日が登る。

夜明け。終わりと始まり。そして、次へ。

カバンを背負って向かった先は、ラッキーゲストハウス付近。旅の初日に泊まった場所に戻ってきた。

香港での最初の朝食を食べた店へ、もう一度行きたかったんだ。

旅先で僕は「同じ店に何度も行く」ことはあまりしない。でも、ここでした飲茶、餡饅とシュウマイでこの旅を締めくくりたかった。

この庶民的な雰囲気が、とても好きだった。店を見つけるのも、注文するのも、飲茶の道具を洗うのも、全部ひとりでできてしまう。

「すぐ慣れるよ」

初めての国際便で隣の人に言われた言葉が蘇る。

確実に、この数日間、たった2回の海外旅で、自分の世界が広がった気がした。


食事を済ませ、空港行きのバス停を目指して少し歩いた。

すると、時間の余裕もあり、そんなに混んでいなかったので、つい2軒目の店に入ってしまった。

そう、これが本当のラストの食事。

香港の一般的なモーニングセットだったが、それが良い。香港グルメツアーとしては幕を閉じた。一度も一流グルメを食べることなく終わったけれど、全く後悔はない。

お金さえだせば得られることは、いつかもっと大人になって来た時にすればよいさ。


44歳の今、振り返って。


「ここに来てはじめて、心から落ち着いた」

旅の最後の最後で、ようやく落ち着いた20歳の僕。

異国の地で、足ツボマッサージ屋の椅子の上で、隣で寝るおじいちゃんと共に。

それは、観光地でも、ビクトリアピークでもなかった。

安価な足マッサージ屋の、その時間。

そこで僕は、はじめて「ここにいる」と感じた。


【鴨長明:『方丈記』より】

「閑居の気味もまた同じ。住まずして誰かさとらん」

派手な観光地や絶景よりも、ローカルな足マッサージ屋の静けさの方が、心に残る。

「住まずして誰かさとらん」——その場所に身を置いてみないと、本当のところはわからない。

旅は、頭ではなく、体で覚えるものだ。


【松尾芭蕉:『おくのほそ道』より】

「夏草や 兵どもが 夢の跡」


朝、最初に食べた店に「カムバック」する20歳の僕。未熟だった数日前の自分が食べたあんまんを、もう一度食べに行く。

その数日間で、確実に「世界が広がった」と感じている。

旅の最初と最後で、同じ場所に立っているのに、見えるものが違う。

きっとそれが、旅というもので、人生もそれに似ているのだろう。


次回は「香港5日目 後編」。

バス停での待ち時間、空港へ、そして帰国。

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note香港編の1話目はこちら

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いつの日か子供達や誰かの参考になれば嬉しいです。

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