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香港編12. 偽ブランドの売店の裏口。危険な一線。|4日目 後編

「KISS」のTシャツを着た、怪しい太めの兄ちゃんが手まねきしている。

「スグソコ、ニセモノ、ヤスイ、ミルダケ」

決まり切ったフレーズで声をかけてくる。

危ないとは思ったが、ちょっと覗くつもりで—— ついていってしまった。


日記:2002年9月 2回目の女人街

初日はあんなにハシャイでいた2階だてバスも、もう日常的な風景に変わる。

しかし、帰りで乗ったそのバスは2階の前ヌケで、少しうれしかった。
短い時間しかいられなかったけど、香港島の風を一杯に受けた。

スターフェリーにまた乗りたかったけど、時間が無いので、地下鉄で女人街のすぐそばの駅に向かったのだった。

駅に着いた、と思って、人に「subway station?」と聞くと「あ、地下鉄なら一本前ですよ」と日本語で返ってきた。

ちょっと冷めつつも、早足で駅に向かい、急いで乗った。

途中、運転士に subway? と指差しながら聞くと Yes と笑顔で答えてくれて、そのあと、唯一知っているかのように「こんにちは」と言われたのが印象的だった。

2回目の女人街。

並んでいる商品を見ていると、Y さんはそこの店員に、こないだ買ったロレックス風時計が B級だと言われ(A級と言われて買った)、へこんでいる様子だった。

そんな中、並んでいる店の一つに、KISS のジン・シモンズの T シャツを着た、いかにもあやしいガタイがでかい兄ちゃんが手まねきしていたので、話だけ聞こうと近づくと、「スグソコ、ニセモノ、ヤスイ、ミルダケ」と決まりのフレーズを言ってくる。

危ないとは思ったが、ちょっと冒険するつもりで、ついていってしまった。

すると・・・

これはマズいかもしれない。

店の奥に進むと、店を抜ける通路があり、裏口を出ると暗めの小道を通る。

・・・これはマズい。

何かあったら逃げられるか。Yさんと男二人だが、相手はかなりガタイが良いし…。念のため持ち歩いていた、催涙スプレーをポケットの中で握り、いつでも使える状態にした。

いかにもあやしいマンションに着いた。
そして、そのエレベーターに乗れという。

結構…ヤバい気がする。
が、旅麻痺している僕たちは、勢いでエレベーターに乗ってしまった。

皆、こうやって犯罪に巻き込まれるのかもしれない…。

そして、一室に入る。

すると、そこは商品が並び、しかも思った以上に質がいい。(とYさんは言っている)
なるほど、外に出ているものは、いつ取り締まりがきてもいいようにB級以下ってことか。

予想に反し、(幸運な事に)兄ちゃんの仲間らしき人はいなく、1人で接客していた。

僕らはバリバリに警戒しながら(ドアを開けといてくれとか、出口側に必ず僕かYさんがいるようにして、すぐに逃げられる様に)選んでいたら、別の仲間が帰ってきて、ゴッソリとブランド品風の物を詰めたゴミ袋のような袋を置いていった。

(まさにここで外はB級、中でA級が確定したのだが…)
向こうの仲間が3人になって、オレらは、いよいよ本気で警戒。

僕はそもそもブランド詳しくないので、Yさんに選んでもらっている間、とにかく逃げ道だけは確保して、催涙スプレーをポケット内で握り、もし、監禁されそうになったらというシミュレーションをしながら、もう品定めどころではなかった。

警戒しながらも結局(Yさんはちゃんと値段交渉して、しかもマケにマケて)1つあたり 数千円で、ブランド風のベルトやキーケースと手帳を買った。

ここは僕らにとっての大冒険だった。

買い終えてマンションを出ると、もう女人街は閉まりかけていた。

そして、警戒心バリバリから、無事に生還した僕たちは、ほっとしながらコンビニで飲み物とアイスクリームを買い、一息つくために公園へ向かった。


44歳の今、振り返って。

香港で買ったブランド風の物は当然本物ではない。

でも、それを買った時のドキドキ、兄ちゃんとの危ない交渉、隠れたマンションの一室での緊張感—— それは本物だった。


【サン=テグジュペリ:『星の王子さま』より】
「大切なものは目に見えない」

物は偽物でも、体験は本物。 旅は、目に見えないものを買いに行く行為だったのかもしれない。
24年経った今、あの時買ったベルトもキーケースも、手元には残っていない。 でも、ゴミ袋でブランド品を運んでくる仲間の姿、ドアを開けっぱなしにして逃げ道を確認した自分の必死さ、数千円まで値切りつつ、無事生還した達成感—— それらは、今でも鮮明に覚えている。

【ニーチェ:『ツァラトゥストラはかく語りき』より】
「危険な人生を生きよ。火山の斜面に都市を築け」

20歳の僕は、無意識にこれをやっていた。 危ないとわかっているマンションの一室に、足を踏み入れた。
その「踏み出した一歩」が、後の人生で何度も僕を助けてくれた。 建築から福祉に転職した時も、近いような感覚だった。
危ないかもしれないと思っても(致命傷にならないようにリスクヘッジしながら)覗いてみる勇気。 それが、人生に「冒険」を残してくれる気がする。


次回は「香港5日目 前編」。 公園で迎える last night、そして深夜の街で起きた事件。

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ブログでは主に帰国後のこと(旅のつづき)を発信しています。
いつの日か子供達や誰かの参考になれば嬉しいです。

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