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偽憎代稿(十三)

前話↓

 「ゆる」と思しき、「@elme_gourmet」というユーザーアカウント。
 アカウントが削除されてしまっては、当然投稿などはツイッター上で見ることはできないが――実のところ、アカウントが削除されていても探る手段があるのを、俺は知っている。
 その1つが、Wayback Machine。過去のウェブサイトの情報を保存して見ることができるサービスだ。
 無論、誰かの手によって情報が保存されていることが前提にはなるが、保存されてさえいれば、たとえ削除しようと何しようと閲覧することができる――削除されたツイッターアカウントだって例外じゃない。
 とは言え正直、分の悪い賭けだ。このツイッターユーザーが有名人ならまだしも、恐らく個人のアカウント――そんなアカウントの履歴を、わざわざ誰かが残すか?
 けど、賭けは参加しなきゃ返礼リターンもない。特にこの賭けは、どうせ参加したところでペナルティもほぼ存在しない。あるとすれば、俺の時間が無駄になるというだけ。
 試す価値はある。
 俺は、「@elme_gourmet」のツイッターユーザーページのURLをWayback Machineに放り込む。そうすればプロフィールと、直近の投稿内容くらいは見れるはずだ。ページが読み込まれるのを、じっと見守る。パソコンのファンがけたたましく唸る。

 そして――1分後。
 運良く見つかった。
 流石に保存された数は少ないが、しっかりユーザーページの情報が保存されていた。天は俺に味方してくれてるらしい。
 最後の投稿は6ヶ月前。まずはそれを開くと、果たしてユーザーページに表示された名前は、「シツガヤ」という名前だった。
 「ゆるしてください」という名前じゃない。
 それどころか、「ヒロシ」に対してちらほら返信をしていたのだが、全て、「テメェいい加減にしろよ」とか「気持ち悪いな」とか、そういう暴言や罵倒が大半だった。
 あの小説サイトで見かけた「ゆる」とは、まるでイメージが違う。
 別人か? と一瞬、そんな考えも頭をよぎるが、「ゆる」と「シツガヤ」が同一人物である方が面白いよな、とも思う。
 それに、それが正解だとすると、前に俺が考え出した論理――『「ゆる(シツガヤ?)」に危害が及ぶので、「ヒロシ」が酷い目に遭う小説を蒐集するという精神的自傷行為をやめさせようとしている』ということにも、一定の筋が通る。
 けど筋が通るだけで、まだ無理筋寄りなのは否定できない。無理を有理にして、更には割り切れるようにするには、幾つかの脚色が要る。
 例えば、「シツガヤ」は「ヒロシ」から嫌がらせを受けていたのはそうだろうけど、アカウントを消すほどのことだった――そう納得させるための脚色が要る。
 SNSでは、相手が嫌なら距離をとるミュート、あるいは排除ブロックすれば良い。そうすれば、自分が心地良いと思う相手とだけ繋がったままでいられるからだ。
 対してアカウント削除は、このSNSで作った関係性を全てリセットすることに等しい――仮に「転生」したとして、その関係性作りを一からやり直さないとならない。これがことのほか、面倒臭い。3度筆を折り、アカウント消しては転生した俺が言うんだから間違いない。
 それに「シツガヤ」のアカウントは、フォロワー数200人と、プロフィール欄の大学名記載から、リアルな友人・同級生と繋がる、いわゆる「リアアカ(言葉として古い?)」と推測できる。たった1人の異常者ヒロシのためだけに、わざわざリアルの関係ごとアカウントを削除するか?
 まだ脚色すべき点はある。
 そもそも「シツガヤ」にとって、この「ヒロシ」の「自分を傷つける小説を蒐集して共有すること」がそのまま「シツガヤ」への攻撃になるのか? 
 なるとしても、その攻撃は、どういう論理で成立するのか?
 そして何より――何故「ヒロシ」は、「シツガヤ」という標的がアカウントを消した後も・・・・・、ヒロシが傷つく小説を蒐集しているのか?
 ……「ヒロシ」の人物像がまるで分からない。
 行動には理由がある――『かえせ』という小説にはそんなことが書いてあった気がするけど、果たして「ヒロシ」のこの異常な行動に、理由なんてあるのだろうか?

 悔しいが、分からない。
 けどそれ故に、面白い。

 事実は小説より奇なり、とは本当によく言ったモンだ。
 このまま「シツガヤ」について掘っていけば、もっとリアリティのあるホラーの題材になるに違いない――そう思うと、ここで止められる訳がない。据え膳食わぬは男の恥だ。
 次の標的は、プロフィール。そこには通っていると思しき大学の略称が書かれていた。早速調べるググると、その略称はどうやら、神奈川県にある、とある大学を指すらしい。
 件の大学のホームページに飛ぶと、トップページに大学生活の紹介ページがピックアップされていた。今は冬。思えば大学受験が近い。
 さておき、紹介ページでは、イニシャルで伏せられたとある学生の生活が紹介されていた。大学は、設備も資料も充実しているし、何より学食も美味しい――と宣伝ベタ褒めされている。
 さらに大学近くには商店街があって、美味しい個人経営のお店も多い。その商店街の人と仲良くなると、おまけをしてくれることもあるから、何だかんだ住み心地が良いとも。その学生はおすすめのお店として、食事処をいくつかと、特に店主と仲が良い店を挙げていて――

「……」
 目を、疑った。
「……おいおい」
 店主と仲が良い店・・・・・・・・
 その店の名前は。




 田中館八百屋。

 それは。
 さっき『くぐつ』で読んだ八百屋の名前と、一字一句同じだ。


つづく

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