偽憎代稿(八)
前話↓
***
この2つの小説――『かえせ』と『コッコ』には、「ヒロシ」からただ一言「ありがとうございました」という感想コメントが付けられていた。俺の小説と同じように。
そして「ヒロシ」というユーザーのブクマした小説の特徴は、被害者が一様に「ヒロシ」という名前のホラー小説であること。そして感想コメントが「ありがとうございました」であること。分かるのはそのくらいだ。
いくらなんでも、イイ趣味してやがる。
だからこそ良い。
こういう強烈なキャラクター性は、小説などの創作において非常によく映える。
この「強烈さ」は、感情移入や心情の想像がしづらいということでもある。読者と強烈なキャラの間の、この心情的な断絶があればあるほど、気味悪さとか恐怖とかを掻き立てるスパイスになる。
勿論、取り扱いには十分注意しなきゃならない。感情移入がしづらいからこそ、現実性から離れ過ぎて小説の面白さを毀損したり、場合によってはメインキャラを喰ったりしちまう。それを防ぐために、地に足をつけるような背景情報を設定したり、あえて強烈なキャラの輪郭をぼやかして、メインキャラが中心になるようにしたりする……のだと思う。
合ってるかは知らない。昔ツイッターで流れてきた創作論の受け売りだからな。
弱小物書きの俺には、とてもとても。
まあともかく。そういう点で見ると、この「ヒロシ」は良い。「強烈なキャラ」の良いサンプルになる。こんな巡り合わせ、そうそう逃す訳にはいかない。
精々、俺の糧になってくれ。
俺は「ヒロシ」の読み専ユーザー情報を色々探ることにした。
まずは、ブクマにある小説をもう少し読むことにした――プロフィールに何の記載もない彼(あるいは彼女)のことを知るには、ソイツの執心しているものから探るしかない。ホラー小説の勉強にもなるしな、という下心も、ないわけじゃないが。
『みずこ』――学校のプールに、子供を引き摺り込む霊がいるらしい、というホラー。作者は『コッコ』と同じ宵谷って人だ。
『90度』――街の中の不審者情報に、首を横向きに直角に曲げたまま走ってくる男がいるらしい。戦隊モノに感化された子供たちが、その正体を暴こうとするが、という作品。作者はカスガヤ、とあった。
『ハヤリヤマイエ』――今流行りの幽霊屋敷に、肝試しで行く主人公たち。ただ、そこで謎の病気に見舞われてしまう。そこは流行病で死んだ怨念が集積する家だった、という生理的嫌悪も扱ったホラー。作者は田中彼方とある。
タイトルもパンチがあって、内容もしっかり怖くて良い感じだった。
とは言え、最初は全部読もうと思っていたが、10個ほど読んでやめにした。何も疲れたからではない。どれもこれも、「ヒロシ」という名前の人物がひたすら酷い目に遭うプロットで、一様にヒロシが「ありがとうございました」という感想を付ける以外に、共通点がないからだ。
ということで、別のものも見てみる。次に目をつけたのは近況報告機能――要はユーザーによるお知らせ欄だ。更新通知とか雑談とか受賞報告とか、そういうのに使われる。いつか俺も、受賞報告を書いてみたいもんだ。
だけど、そもそも読み専のコイツに報告することなんてあるのか――そう思いながら開くと。
あった。
しかも幾つかもある。けど、どれもタイトルは『企画について』だった。1番近い日付は、今から3ヶ月前になっているので、試しにそれを開いてみる。
企画について
はじめましての人ははじめまして。
ヒロシ、って言います。
由来はまあ、下の名前の本名です。苗字は明かせませんけど笑
さて、いつも通りの近況報告な訳ですが、またまた企画を立ち上げのお知らせとなります!
その名も、
ヒロシ(おれ)を思い切り怖がらせる企画!!!
いや、やっぱりまんま笑
企画内容もいつも通り捻りは一切なくて、ヒロシを思い切り怖がらせるホラー小説を書いてください!長さは問いません!
初めての人に向けて、なんでこんな企画を立ち上げたのかと言えば……自分、怖いもの苦手なんですが、作品の中では怖い目に遭って見たくて……いやー、ドMですね笑
でも創作の中なら、何をされたって大丈夫!現実世界に侵食するなんてことは、普通ないですからね。
それから!
もし怖い話書いてみたい、おれを怖がらせてみたい(そんな方も大歓迎笑)、けど怖い話が思い浮かばない!という方へ。
いつも通り、著作権フリーな怖い話を集めたサイトを貼っておくので、よければ参考にしてみてください!↓
https://www.horrorh████.jp/library/
あとは、この企画に参加してもらった特典ですが、私からの感想をお届けします。
ということで!
この創作サイトにいるドSなみなさん!どうかおれを目一杯酷い目に遭わせてください!
企画はここから↓
https://www.████.co.jp/user_events/82145669████
返信(1)▼
――このWEB小説サイトには、「個人企画立ち上げ機能」がある。何かテーマを決めて企画を立ち上げ、ユーザーから小説を募る、というヤツだ。よく個人コンテストを開催して作品を集めるのに使ったり、自分の読みたいジャンルの小説を集めるために使ったり、あとはよく「感想を書くよ!」というエサを吊るして作品を集めたり。俺もそれに釣られたことがある――感想は、まあ薄っぺらいものだったけど。
……ともかく。
「ヒロシ」は、この近況報告を、自分の読みたいジャンルの小説を集めるために使ったということだろう。
ということは、俺の小説が見つかったのはあくまで偶然で、普段はこうやって話を集めてたということだ。なるほどと思いながら、早速自主企画のページに飛ぶ。
ちなみに、著作権フリーの怖い話のサイトには行かない。小説というのは、自分の力で考えついてこそ意味が――そして、価値があると思ってる。何かの話を模倣してしまいかねない可能性があるのなら、そのリンクを踏むのはなるべく避けたかった。
さて。
自主企画の募集期間は終了済み。そして、応募された作品は3つだけだった――その内1つは、偶然にも『かえせ』だった。ということは、他の小説はこれより前にある別の企画で見つけたモノなのだろう。
別の企画。
気になって、どんな企画を他に立ち上げているのかと見てみた。1ヶ月ごとに企画は立ち上げられていて、その数は10もなかったが。
全て、同じだった。
ヒロシ(おれ)を思い切り怖がらせる企画。
しかも、文面も一字一句全く同じ。
ゾッとする。
「ヒロシ」のブクマにある小説――その半分以上が企画に応募されたもの。つまりほぼ全て(いや、全て)、ヒロシが酷い目に遭う小説、ということだ。
執拗に、ヒロシが酷い目に遭う小説を、他者に書かせて蒐集する「ヒロシ」。それに加えて、小説を自ら探しに行ってもいる。
星の数ほどある小説を1つ1つ読んで探し当てる。小説WEBサイトの検索能力では、本文にまで検索を及ばせることはできないから、自力で探すしかない。
それにそもそも俺の小説を見つけるスピードも異常だった。投稿して僅か数分で、「ヒロシ」はあの感想を俺に送りつけてきたのだから。
相当な――いや、異様な執念を感じる。
「……いいね」
この異常っぷりに、俺は怖気を覚えながらも、ますます惹かれてしまっていた。
いつの間にか、一体何が「ヒロシ」をここまで駆り立てるのか、知りたくなってしまった。
そう、足りない。
これじゃあ全く!
こんなんじゃ「ヒロシ」の執念の正体に――何故、そこまでして自分を怖がらせる小説を求めるのかの真意には、辿り着けない!
無論、その間隙を脚色で埋めれば別だが、俺はそうはしない。
読まれない嘘より、読まれる現実性だ。
俺の次の狙いは決まっている。
さっきの「ヒロシ」の近況報告にくっついている、返信。
ゆるしてください
そんな名前のユーザーが送っている、「もう許してください。」という返信。
俺は、その異常な名前のユーザーの、マイページを開く。
つづく
