寺✕走る、失われた貌、白魔の檻 など注目の9月新刊をご紹介
9月に読了した小説から一部をピックアップして紹介します。
私も参加した彩ふ読書会・文芸部による同人誌の新刊『寺✕走る』は後半の〈近況報告〉文学フリマ大阪13に参加してきました! のなかでご紹介します!
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失われた貌(櫻田智也)
新刊です。作者の櫻田智也さんは2013年、東京創元社の第10回ミステリーズ!新人賞を受賞デビューされています。
単行本デビュー作『サーチライトと誘蛾灯』(2017年)は、泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズや、G・K・チェスタートンのブラウン神父シリーズを彷彿とさせるハイクオリティな本格ミステリ短編集として各種ミステリランキングを席巻しました。
デビュー作から続く、昆虫好きのとぼけた青年、魞沢泉(えりさわ せん)を探偵役に据えた短編シリーズは、いずれも高い評価を得ており、特に第2作『蝉かえる』(2020 年)は日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞するなど業界の注目を一身に集めました。
デビュー以来、短編ミステリの新たな雄として、その地位を固めてきた櫻田さんですが、今回、単行本4冊目にして初の長編を発表されました。
それが、『失われた貌』です。
てっきり魞沢シリーズの長編を持ってくるかと思いきや、今作は登場人物も世界観も一転、ザ・警察小説とでも呼ぶべき風合いの作品でした。
あらすじを引用します。
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。
事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。
間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。
端正な警察小説の姿を保ちつつ、「顔の無い死体」という古典的な謎を掲げているとおり、その内には従来作同様、確かな本格スピリットを感じさせる作品でした。なんといっても一切の文章に無駄がないのです。
「すべてが伏線」という惹句も最近はしばしば聞かれるようになりました。ただ、その手の作品の多くがエンタメ色を強くまとう――仕掛けを成立させるために世界観としてリアリティから遠ざかる傾向にありがちなのですが、本作はリアリティ重視でありながら、描かれる数多のさりげない描写が後段で大きな意味を持つという、まさしく本格ミステリの骨格を内蔵します。
ある意味において淡々とした進行は、ともすれば「どんでん返し」慣れした読者からは退屈な印象を持たれるかもしれません。
が、魞沢シリーズにおいても発揮されていた櫻田さんの情感あふれるストーリーテリングをもってすれば、必ずしも大きなカタルシスがなくとも「読ませる本格ミステリ」は成立しうるということをまさに本作は証明しています。
過去と現在の事件が複雑に交錯するなか、渦中の母子との向き合いかたに苦悩する捜査官。余韻を残すラストが印象的です。
横山秀夫さんや東野圭吾さんなど、本格のエッセンスを持つ社会派ミステリーを好む人にオススメの作品。
白魔の檻(山口未桜)
新刊です。作者の山口さんは現役の医師にして、2024年に鮎川哲也賞を受賞デビュー。受賞作『禁忌の子』(2024年)は2025年の本屋大賞にノミネートされるなど話題を集めました。
受賞後第一作にあたる本作『白魔の檻』は『禁忌の子』の正統続編です。前作に引き続き、内科医・城崎響介と、研修医の春田芽衣が探偵コンビとして活躍します。
霧と有毒ガスに
閉ざされた病院で発生する
不可能犯罪
研修医の春田は実習のため北海道へ行くことになり、過疎地医療協力で派遣される城崎と、温泉湖の近くにある山奥の病院へと向かう。ところが二人が辿り着いた直後、病院一帯は濃霧に覆われて誰も出入りができない状況になってしまう。そんな中、院内で病院スタッフが変死体となって発見される。さらに翌朝に発生した大地震の影響で、病院の周囲には硫化水素ガスが流れ込んでしまう。そして、霧とガスにより孤立した病院で不可能犯罪が発生して──。過疎地医療の現実と、災害下で患者を守り共に生き抜こうとする医療従事者たちの極限を描いた本格ミステリ。
ひとことでまとめると病院を舞台にしたいわゆるクローズドサークルもの。炎が迫る、水が迫るといったタイムリミット付きの極限状態を舞台にしたミステリは古今東西において多々先例がありますが、本作の脅威はややユニークで、それは硫化水素ガスです。大地震の影響で発生したガスが病院内に流れ込み、低層から順に刻々と迫ります。折り悪く、近隣は濃霧に包まれ、完全に孤立状態に陥った病院内で殺人事件が――といったあらすじです。
発生する事件は3つ。ガスの充満する地下温泉室で発見された遺体、病室のクローゼットに隠されていた生首、そして入院患者の銃殺事件です。
私が、山口さんの作品を読むのはデビュー作に続いて2作目ですが、いずれもミステリの作風としてはかなり硬派なパズラーという印象です。事件のなかには不可能犯罪も含まれますが、どちらかというと重点が置かれているのは終盤における犯人特定のロジックのほうで(正しい論理を辿ることで犯人の手練手管が自然と明らかになる)、前作で印象的だった城崎の背理法推理は今作でも健在です。真犯人が語る過疎地医療の現実は物語に奥行きを与えます。
医療✕ミステリーはコンテンツとして強いですからね。キャラクターも立っていますし、シリーズが続けば映像化がありそうな予感がします。
寺✕走る(彩ふ読書会・文芸部)〜〈近況報告〉文学フリマ大阪13に参加してきました!
いつもお世話になっている彩ふ読書会さん、その文芸部で創る同人誌の新刊が出来上がりました!
その初お披露目の場は文学フリマ大阪13。
新刊に私は短編小説(いちおう広義のミステリー)を寄稿させていただいたのですが、執筆者のひとりとして店番をつとめるため、さる9月14日の日曜日、会場のインテックス大阪に向かいました。

彩ふ読書会代表の〈のののさん〉とともに売場の設営は無事に完了。あとは売るのみです!

さて、ここで新刊『寺✕走る』を紹介させていただきます。
いわゆるお題縛りのアンソロジーです。〈寺〉だけでもなく、〈走る〉だけでもない。〈寺〉と〈走る〉――ふたつの題材を組み合わせたエッセイや小説が収録されています。
書き終えられた今だから言えますが、なかなかに高難易度の縛りプレイでしたね。プロットが固まるまでは「うーん、これは果たして書けるかなぁ」と不安が拭えなかったことを覚えています。

収録作品は、エッセイが5作、小説が4作です。以下、収録順にタイトルを紹介します。()内は作者名。
・【エッセイ】走る 五段活用(夕月詩葉)
・【エッセイ】成田山へ行って、廃線跡を走ってきた(ひじき)
・【エッセイ】ツネちゃんに会いに行く(小嶋蒼空)
・【エッセイ】このエッセイと一緒に観たい映画〜今敏作品『千年女優』と他者の記憶を旅するということを考える(小嶋蒼空)
・【エッセイ】京都を、走る(吉田ちか)
・【小説】あなたの知るジョン・レノンは心の中(金梅あのん)
・【小説】逃避抄(シュシュ)
・【小説】化け寺(柴野日向)
・【小説】廃れる前に(ののの)
どうでしょう。これらのタイトルを見て、〈寺〉と〈走る〉を組み合わせるという奇抜なお題を読書会メンバーが自らの筆でいかように調理したのか――がぜん興味が湧いてきませんか。
情感の込められたエッセイから、多様なジャンル・シチュエーションの創作小説まで、彩りに富んだオリジナルアンソロジーです。
多くの人に手に取ってもらえることを願っています。
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さてさて、では、文フリ大阪13の会場販売はどうだったのかというと――
閉会時間まで2時間弱を残した15時過ぎに「新刊が完売しました」のニュースが!!
いやぁ、やっぱりうれしいものですね。その後、ブースの片付けを終えてから、店番(執筆者)の一部メンバーでおこなった打ち上げのお酒は格別でした。
あれ、でも、さっき「多くの人に手に取ってもらたいたい」と書いていたのに、もう売り切れたって――
ガッカリするのはまだ早いかもしれません。このたび、完売御礼(!)の『寺✕走る』ですが、すでに重版が予定されています。
彩ふ読書会さんは、年明けの文フリ京都にも出展します。そのときの売場には、まだ見ぬ新刊だけでなく、ニ刷りの『寺✕走る』が並ぶかも。
ブースにお立ち寄りいただいた皆さま、彩ふ読書会の皆さま、ありがとうございました。
お楽しみは続きます!

彩ふ文芸部の公式レポートはこちら
重版や新刊に関する続報(!)はこちら
おまけ
地元の友人らとキャンプファイヤーを囲み語る。

背を向けてこれからを想う瞬間。
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