5. スマホが開けなくて困った。
前の話はこちらです。
彼のスマホを前に、身内の方と顔を見合わせました。
パスコードをいくつか試すけれど、エラー。
ある程度試すと、中身が消去されてしまうと思うと
確信のない数字をやたらに試すことができません。
この中に、銀行の情報も、大切な写真も、全部入ってるのに──。
プライバシーは守られるべきだけど、
ネット銀行やサブスクなど、相続に関わる情報もあります。
だから、彼の身内の方が困っているのです。
わたしは彼の画像や動画が欲しかった。
もう、これ以上増えることはないのですから。
以前、彼にエンディングノートを一緒に書こうと
提案しようとしましたが、
なかなか言い出せず、結局実現しませんでした。
これはたくさんしている後悔のひとつです。
わたし自身は、保険、銀行、クレジットカード、
スマホで決済系、通信関係(スマホとWi-Fi)、
死亡のお知らせをして欲しい友人の住所リストは
用意してありますが、
これだけで本当に大丈夫かを彼とすり合わせしたかったんです。
スマホを開くためにいろいろ調べてみたら、
彼のパソコンを開ければ、なんとかできるかもしれないと思いました。
後日、彼の部屋で身内の方と合流して
なんとかパソコンを見られる状態にして
スマホも開けるようになりました。
違法なことをしたわけでも、
特別なことをしたわけでもありません。
思い出したパスワードが偶然当たったこと、
彼のデータがクラウドに上がっていることを知っていたから
その情報を手がかりになんとかたどり着いた、という感じです。
それでも、まだ何か見落としているのでは…と
神経を張り詰めながらパソコンとスマホを見るのは
想像以上に心が消耗します。
彼とわたしは共通の友人がいませんでした。
だから、誰に連絡したらいいのかもわかりません。
スマホの連絡先には飲み会の予約をした飲み屋さんまで残っています。
他の個人名の人たちは、彼とどんな関係だかわかりません。
いったいどうしたらいいんでしょう。
やっとの思いで探し出した彼の画像を見ていると、
やっぱり涙が止まりません。
楽しかったな。
幸せだったな。
──もう、一緒に写真を撮ることはないんだね。
