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ISSよ、さらば。2028年から始まる最後の旅と、宇宙ビジネスの次の章

2026年3月、ロスコスモスのドミトリー・バカノフCEOが一つの事実をあらためて公言しました。国際宇宙ステーション(ISS)は2028年から軌道降下を開始し、2030年に太平洋へと落下する予定だ、と。

言葉にすれば一行です。でもこの出来事の重さは、なかなか伝わりにくいかもしれません。

ISSは1998年に最初のモジュールが打ち上げられて以来、米国・ロシア・日本・カナダ・欧州の5宇宙機関が共同で運営してきた人類史上最大の科学実験施設です。地球の上空約400kmを周回し続け、これまでに270名以上の宇宙飛行士が滞在してきました。無重力環境での創薬研究、宇宙農業の実験、長期滞在が人体に与える影響の調査——そこで積み上げられたデータは、将来の月・火星への有人飛行を支える土台になっています。

そのISSが、まもなく「役目を終える」フェーズに入ります。


老いゆくステーションの現実

ISSには既に深刻な問題が生じています。

ロシアのサービスモジュール「ズヴェズダ」に繋がるドッキングポート周辺では2019年から継続的な空気漏れが確認されており、NASAはロシア側よりもはるかに強い懸念を抱いています。

2025年2月18日から21日にかけて、ジョンソン宇宙センターで米露合同委員会が開かれましたが、この席でも両国の専門家は漏れの根本原因について共通認識に至ることができませんでした。委員会は現在、米露双方の材料・構造専門家による対面協議を強く求めています。

宇宙機器の老朽化はそれだけではありません。熱制御システムや電力系統にも経年劣化が進んでおり、関係者の間では「2030年まで安全に維持できるか」という問いが静かに浮かび続けています。


「制御落下」という技術的難題

では、なぜ単純に「電源を切って落とす」わけにいかないのか——。

重さ420トン超という規模を考えれば、制御なしに落下させた場合、大気圏で燃え残った破片が地上に降り注ぐリスクがあります。そこで計画されているのが、SpaceXが製造中の専用宇宙機「米国脱軌道機(USDV)」です。

NASAはSpaceXに対し、総額8億4300万ドルの契約でこのUSDVの開発を発注しており、ISSの運用終了後に制御された形で南太平洋の無人海域への落下を目指します。

ただし、USDVだけに頼るのはリスクが高いとして、合同委員会はバックアップとしてロシアのプログレス補給船2機とロシアセグメントのスラスターによる補助推力も確保するよう求めています。そのためロシア側の推進剤タンクを2028年までに十分満タンにしておく計画が進んでいます。

委員会のボブ・カバナ元宇宙飛行士はこう強調しています。「軌道降下を開始できるのは2028年、必要な能力が揃った時点から。それが守られれば、最終的な大気圏再突入は2030年末以降になる」。

2年半かけて少しずつ高度を落としていく——それがISSの「最後の旅」の全貌です。


「空白を作るな」という至上命題

この合同委員会が同じくらい強く訴えたのが、研究の「ギャップ」を生まないことです。

長期滞在した宇宙飛行士の眼や脳に変化が生じることは確認されていますが、その正確な原因も、有効な対処法も、いまだわかっていません。月や火星への有人探査を安全に実現するには、こうした問いへの答えを出し続けることが不可欠です。それは微小重力環境でしか進められない研究であり、だからこそ軌道上に「人が暮らせる実験室」を途絶えさせてはならないのです。

NASAが描く絵図では、ISSが引退する前に商業宇宙ステーションが稼働している状態をつくることが前提になっています。

以前このブログで詳しく取り上げたStarlabをはじめとする次世代商業宇宙ステーションの動向は、まさにこの「ギャップを埋める」という文脈で読む必要があります。

NASAはStarlabなど商業ステーションの運用を2028年頃に開始し、ISSとの重複期間を設ける計画で、「宇宙研究の空白期間をつくらない」という強い意志が開発を後押ししています。

一方ロシアは、独自の「ロシア軌道ステーション(ROS)」の第一モジュールをバイコヌール宇宙基地から2028年に打ち上げる予定であることも、バカノフCEOが明らかにしました。ISSとほぼ同じタイミングで、新たな国家軌道基地の建設へ踏み出す形です。


宇宙の「民営化」という本質的な変化

ISSの退役は、単なる老朽施設の廃棄ではありません。宇宙空間の利用主体が国家から民間へと大きく移行する歴史的な転換点でもあります。

Axiom Space、Blue Origin系列のOrbital Reef、そしてStarlab——複数の民間ステーション計画が並走しています。ISSの時代、軌道上の「場所」は国家が独占し、使用料も研究テーマも政府の判断で決まっていました。それが今後は、製薬会社の創薬実験、先端素材の宇宙製造、さらには宇宙旅行の拠点として、民間事業者に開放されていきます。

ISSの年間運用コストは30〜40億ドルとも言われますが、商業ステーションはその10分の1程度で運用できる可能性があるとも試算されており、コスト構造そのものが根本から変わろうとしています。

2028年という年は、ISSが「終わりへ向けて歩き始める」年であると同時に、新しい宇宙経済の幕が開く年でもあります。その転換をどう捉え、何をビジネスチャンスとして読み取るか——引き続き注目していきたいと思います。


参考記事

〇Roscosmos chief confirms ISS deorbiting schedule, plans for 2030 ocean plunge(2026年3月10日)

〇It became known when the ISS will begin to be deorbited from Earth(2026年3月10日)

〇U.S.-Russian ISS Commission: Controlled Deorbit, No Gap, are Imperatives(2025年4月24日)

〇NASA Selects International Space Station US Deorbit Vehicle(2024年6月28日)

〇ISS後継の最有力候補「Starlab」——国際連携で宇宙ビジネスの新時代を拓く(2025年11月27日)

〇2030年、宇宙の覇権は民間へ:次世代ステーションの全貌(2025年5月20日)


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