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214.【創作秘話】物語という鏡に映った、私の赦し・意志・美-自伝的小説三部作を振り返る-

【はじめに:三部作という選択】

『顔の見えない妻』、『火を継ぐモノ』、『Golden Slumber』は、三部作の自伝的小説になる。

物語を書くということは、自分自身に問いを投げかける行為だ。

だが、問いが深くなるほど、直視するには時間が必要だった。

私がこの三部作を「一作でなく、三作」に分けた理由はそこにある。

『顔の見えない妻』では過去を赦すことを、『火を継ぐモノ』では意志を継ぐことを、そして『Golden Slumber』では価値観を手放し、新たな美を見出すことを描いた。

それらは別の話ではなく、一本の道の異なる地点だった。

三部作を書き終えた今、ようやく私は、自分自身の次の旅を物語として言語化できる位置に立てた気がする。


【第一章:赦しと問い——『顔の見えない妻』】

この物語の主人公は、他者のために生きようとした男だ。

だがその過程で、いつしか自分自身の輪郭を失っていた。彼は“献身”を選んだはずだったが、気づけばその選択が、自分という存在を見えなくしていた。

「顔の見えない妻」は、かつて愛した存在が“個”として認識できなくなった状態の象徴であり、同時に、自己喪失のメタファーでもある。

現実の私は、精神的に不安定な家族と共に暮らし、婿養子という立場で、長く「他者の人生の文脈の中で生きる」日々を送ってきた。

その中で「私はどこにいるのか」という問いが、いつしか私を蝕むようになっていた。

この作品を通して私は、過去の自分を裁くのではなく、赦す視点を獲得しようとした。

マキャベリの問い「交易で得た金は、土を潤したか?」は、自らの行為に意味があったのかを静かに問う声だった。そして、囲炉裏の火の前で交わされた“赦し”の言葉は、私自身の祈りだった。


【第二章:言葉と火——『火を継ぐモノ』】

この物語の原型は、論考的なエッセイだった。

混乱期に人はどう生きるべきか、何を信じて立ち上がるべきか。私はそれを物語として語ることで、もっと深い場所に降りていきたかったのだと思う。

主人公ルカは、過去に背を向け、一度は逃げた教師だ。だが、彼は「再び言葉を発すること」で、自分を回復していく。

「私は、今日──灯になろう。」というセリフは、彼が再び他者に火を渡すと決めた瞬間だ。

印刷工房と火刑台。創造と破壊。言葉と沈黙。すべての象徴は、「火を継ぐ」という行為の重さを描くためにあった。

そして、万年筆がルカから弟子エリシャへ受け継がれるラストは、「言葉という火は、名もなき者たちの中で燃え続ける」という祈りでもあった。

この作品を書くことで私は、「過去を抱えたままでも、意思の力で、改めて灯をともせる」という視点を得た。

それは、書くことでしか得られなかった肯定だった。


【第三章:構造と崩壊の美——『Golden Slumber』】

この物語には、私自身の美意識の変遷が込められている。

かつて私は、構造と秩序を愛した。建築や制度、理念、形式。だが人生の中で、それらは時に人間性を押しつぶす側に回ることも知った。

主人公レオポルトは、かつて構造美に殉じた自分の姿だ。だが彼は、物語の中で降りることを選ぶ。「降りたのだ」という彼の言葉は、敗北ではなく、選択の自由を手にした人間の声だった。

白い花、未完の素描、墓に置かれた紋章。それらはすべて、美の再定義の過程であり、贖罪と沈黙の象徴だった。

この作品を書くことで、私はようやく「美に殉じない自由」を持てた気がしている。そして、静かな風景の中にある“崩れゆくものの美しさ”に、より心を開けるようになった。


【終章:分身たちとの和解とその先へ】

この三作の主人公たちは、すべて私の一部だった。

□ 愛と責任の狭間で見えなくなった自分。

□ 逃げた過去を抱えながらも、再び言葉を継ごうとした自分。

□ 構造に殉じた果てに、美と価値を問い直した自分。

それらの分身たちと対話し、赦し、見届けることで、私はようやく「自分の現在」を引き受けられるようになった気がする。

書くという行為は、記憶の整理だけではない。未来を選ぶこも出来る。過去とどう向き合い、どのように次の一歩を選び直すか。そのために、物語という鏡は必要だった。

だから私は、これからも書いていく。問いを受け継ぐ者として、火を継ぐ者として、美しさを再定義し続ける者として。』


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