415.創作秘話|ラウンジにて──名前を呼ぶまでの距離
この物語は、最初は連作にするつもりはありませんでした。
だから、最終話が書き終わるまで、題名すら決めていなかった。
書き始めのきっかけは、Noteで小説を書いている【青葉さん】の作品【やわらかな火】に触れたことです。
彼女の描く、繊細、でも靱やかで強かな女性、その情念、心理描写に惹かれ、「自分も女性の内面を丁寧に描いてみたい」と思ったのが始まりでした。
練習のつもりで書いた1話目『猫のスタンプが鳴かない時』(女性編)が、このシリーズの出発点です。
(参考|青葉さんのNote)
また、【創作大賞2025】では中編小説を中心に20作近く投稿していましたが、Noteという媒体では、連作や長編は読まれにくいという実感がありました。
そこで、"1分間で読める掌編"という形式で、より多くの人に作品が届くようにと、このシリーズの構成を決めました。
男女の視点を交互に描いたのは、同じ時間を過ごしていても、感じ方や記憶の濃度が違うことを描きたかったからです。
女性視点だけでも、男性視点だけでも完結できたかもしれませんが、敢えて両面を見せることで、すれ違いや距離、言葉にならなかった想いの余韻が浮かび上がると考えました。
この物語の中心には、「名前」というテーマがあります。
現代において、誰かの"本当の名前"を知ること、呼ぶことは、時に野暮で、踏み込みすぎとも言われる時代です。
特にラウンジという場では、源氏名で語られる"もうひとつの顔"があり、それ以上を詮索しないことが、大人のマナーとされることもあります。
けれど──
だからこそ、名前を呼ぶことにこそ、真実や覚悟が宿るのではないか。
そう思って、この物語では「名前を呼ばない時間」と「名前を呼ぶ瞬間」の対比を、大切に描きました。
舞台であるラウンジも、ほぼ描かず、あえて華やかな描写はしていません。
そこは非日常であり、仮面をつけたまま語り合う場所。
物語が描こうとしたのは、その仮面の下で揺れる"影の心"の部分です。
誰かを好きになって、でも言葉にはできなくて。
名前さえ呼べなかったあの人を、ふと、思い出す。
そんな"ひとときの想い"を掬い取るような掌編になればと思いながら、筆を重ねてきました。
この物語が届く先に、同じようなすれ違いや迷いを抱えている人がいたなら──
ほんの少しだけ、前に進むきっかけになればと願っています。
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