現場責任者の問い|第1回|責任が貼り付く瞬間
現場でトラブルが起きたとき、
最初に呼ばれるのは班長だ。
呼ぶのは上司。
正確には、その場で「誰が説明するか」を決める権限を持つ人だ。
「とりあえず、君が状況を説明して」
命令というほど強い言葉ではない。
でも、その場にいる全員が、この指示に逆らえる立場ではなかった。
班長自身にも、断る選択肢はない。
説明役になることは、この現場では“自然な役割”として扱われている。
ただ、その人には決裁権がない。
人員配置も、工程変更も、最終判断は別の階層が持っている。
説明できるのは、起きた事実だけだった。
───
それでも会議が進むにつれて、
発言の重心は、少しずつ班長側に寄っていく。
「つまり、君の判断でこうなったわけだね」
この整理をするのは上司だ。
責任を押し付ける口調ではない。
あくまで「話を分かりやすくまとめる」形式を取る。
しかし、その整理はそのまま議事録に記録された。
記録したのは別の担当者だ。
承認するのは、さらに上の管理者だ。
このプロセスの中で、
班長の名前だけが「判断主体」として固定される。
───
本人の中には、判断した感覚はない。
選択肢を提示された記憶もない。
そもそも、その場で決められる権限を持っていない。
それでも、評価の場ではこう処理される。
「今回は、班長判断による結果」
この評価を下すのは組織だった。
正確には、評価制度と承認フローに従って動くシステムだ。
───
ここで扱っているのは、責任を引き受けた人の話ではない。
判断権限を持たないまま、説明役として配置され、
評価システム上で判断主体として記録される人だ。
つまりこれは、個人の性格の問題ではい。
誰が説明役に配置されるか。
誰が発言を整理するか。
誰が記録を承認するか。
誰の名前で評価が確定するか。
この一連の設計によって、責任が「後から貼り付く構造」そのものになる。
───
この現場で、判断を行った行為主体は誰なのか。
評価を確定させた主体は誰なのか。
そして、この配置を可能にした設計主体はどこにいるのか。
問いは残る。
───
ただし今回は、「誰もいなかった」わけではない。
関係者は全員、その場にいた。
ただ、判断・説明・記録・評価が別々の人に分かれ、
誰も「自分が責任者だ」と言える立場にはなっていなかった。
そして、その分散の先に、一人の名前だけが残る。
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予告
一人の名前が残る前に、 役割は静かに移動している。
その始まりは、「とりあえず」という何気ない一言だった。
では、その一言は、なぜ役割を動かしてしまうのか。
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次回
現場責任者の問い|第2回|暗黙の移譲
前回
思考の分岐点|第6回|なぜ「できる人」に仕事が集まるのか
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▼思考の分岐点シリーズ一覧
この順番で読むと理解しやすくなっています。(思考の進行順)
①思考の分岐点(ステップ1|選択)
②現場責任者の問い(ステップ2|責任)
③分岐点の問い(ステップ3|体験)
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