現場責任者の問い|第2回|暗黙の移譲
※この記事は「現場責任者の問い」第2回です。シリーズの最初はこちら|第1回|責任が貼り付く瞬間
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現場で問題が起きたとき、最初にその言葉を口にするのは、たいてい上司だ。
「とりあえず、○○さんが対応してくれる?」
この発話には、命令形は使われていない。任命でもない。
ただ、その場の進行を担当している人間が、「誰に振るか」を口にしただけだ。
その瞬間、上司はひとつの操作を行っている。
役割の候補を、○○さんに絞った、という操作だ。
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その場にいる他のメンバーは、この発話を否定しない。
「なぜ○○さんなのか」とも聞かない。
誰も「私がやります」とも言わない。
沈黙が成立する。
この沈黙は、中立ではない。
組織の中では、否定されなかった提案は「合意」として扱われる。
ここで初めて、役割が動く。
提案したのは上司。
否定しなかったのは周囲。
引き受けた形になったのは○○さん。
誰も「任命」していない。
誰も「拒否」していない。
でも配置だけが変わっている。
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○○さんは、この時点でこう認識している。
「とりあえず、話を聞くだけ」
「一次対応だけ」
「様子を見て判断しよう」
だが周囲の認識は違う。
報告の窓口は○○さんになる。
問い合わせも○○さんに集まる。
会議では「○○さん、どうなってます?」と聞かれる。
言語上の操作は、すでに完了している。
最初に「とりあえず」と言った時点で、
役割の候補は固定された。
否定されなかった時点で、配置は確定した。
その後に起きているのは、実務ではなく、追認だ。
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問題が長引くと、別の言葉が使われ始める。
「それ、○○さんの案件だよね」
この言語を使い始めるのは、同じ現場のメンバーだ。
管理職だけではない。事務担当も、他部署も、同じ言葉を使う。
ここで役割は不可逆になる。
「とりあえず」の段階では、戻れた。
「案件」と呼ばれた瞬間、戻れなくなる。
この構造では、役割は奪われていない。
押し付けられてもいない。
ただ、発話 → 沈黙 → 呼称変更、という三段階の言語操作によって、配置が静かに移動している。
そして、この移動を止める装置は、組織の中に用意されていない。
誰が断れるか。
誰が拒否できるか。
誰が再配置を宣言できるか。
それらは制度として設計されていない。
設計されているのは逆だ。
問題が起きたら誰かが対応する。
対応者は窓口になる。
窓口の名前で記録が残る。
この三点だけが、
運用ルールとして存在している。
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だから暗黙の移譲は、個人の性格によって起きるのではない。
「とりあえず」と言える人がいて、
それを否定しない集団がいて、
役割の再配置を止める制度が存在しない。
その条件が揃ったとき、役割は必ず一人に集まる。
この現場で、最初に「とりあえず」と言った主体は誰なのか。
その言葉を否定しなかった主体は誰なのか。
そして、その移動を前提に設計した制度主体はどこにいるのか。
暗黙の移譲とは、役割が動いたことに誰も異議を出せない構造そのものだ。
そしてその構造の先で、一人の名前だけが残る。
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予告
役割が静かに移動する構造を知った人は、 次第に一つの行動を選ぶようになる。
それは「逃げ」ではなく、自分を守るための反応だった。
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次回
現場責任者の問い|第3回|回避は悪ではなく防衛
前回
現場責任者の問い|第1回|責任が貼り付く瞬間
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▼思考の分岐点シリーズ一覧
この順番で読むと理解しやすくなっています。(思考の進行順)
①思考の分岐点(ステップ1|選択)
②現場責任者の問い(ステップ2|責任)
③分岐点の問い(ステップ3|体験)
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